音楽の「音色」について考えてみる。
- 音色もまた「表現」をする
- 音色について考えてみるプレイリスト
- 01. Intruder / Peter Gabriel
- 02. Computer World / Kraftwerk
- 03. Kiss / Prince & The Revolution
- 04. With Or Without You / U2
- 05. Beat Box (Diversion 1) / The Art Of Noise
- 06. Always Returning / Brian Eno with Daniel Lanois & Roger Eno
- 07. Yü-Gung (Fütter mein Ego) / Einsturzende Neubauten
- 08. Missing / Everything But The Girl
- 09. Still D.R.E. / Dr. Dre ft. Snoop Dogg
- 10. We Have A Map Of The Piano / múm
- 三要素にとらわれない「新しい」音楽
音色もまた「表現」をする
この前「メロディーと歌詞について考えてみる」という文章を書いた。
ざっくり要約すると「音楽表現はリズム・メロディー・ハーモニーで完成するのに、そこに言語表現を乗せてしまうって、考えてみると『歌詞』って不思議なものだと思う」という内容で、後半には私なりに「音楽と言葉が噛み合って、曲の『イメージ』が完成されている」と思う楽曲を列挙してみたりした。もしよかったら読んでみてください。
この文章における「音楽の三要素」の段において、私は「現在ではそこに『音色』の要素が加わって、四番目の要素みたいになっている」と書いた。実際、いろいろな音楽を聴いているとそう感じることが多々ある。この音色は、音楽の一部としてイメージを想起させるなあ……という具合に。
……というわけで、個人的に「表現」を感じる音色を10曲、選んでみた。
音色について考えてみるプレイリスト
01. Intruder / Peter Gabriel
のちに80年代シーンを席巻することになる「ゲートリバーブ」のドラムスを初めてフィーチャーしたと言われる一曲。ちなみに演奏しているのはフィル・コリンズ。重厚きわまりないドラムサウンドは不穏なメロディー/ハーモニーと絶妙に絡み合い、えも言われぬ不気味な音世界を演出している。
02. Computer World / Kraftwerk
近代音楽における「音色」といえばシンセサイザー、そしてポップスにおけるシンセサイザーの名手といえばクラフトワーク。神業とも言える音の作り方/重ね方は、あまりにも見事。特にこのアルバムは、音の心地よさや表現の広さにおいて出色の出来だと思う。まさしく「音色」による音楽表現における金字塔のひとつ。
03. Kiss / Prince & The Revolution
リズムマシンによる正確で無機質なビートは、音楽の世界にそれまでにないイメージをもたらしたと思う。中でもリンドラムを多用したことで知られるプリンスの、極端なまでに無機質な音色に振り切れた怪作にして大ヒット曲。極めてアクの強いボーカルを含め、まさしく唯一無二の世界観と言えるだろう。
04. With Or Without You / U2
プロデューサーを務めたブライアン・イーノとダニエル・ラノワによる空間音響的サウンドが神秘的なイメージをもたらし、曲の構造自体はシンプルながら、まったく新しい音世界を持ったポップスが生まれた。アルバム『ヨシュア・ツリー』は世界的な大ヒットを記録し、楽曲としてはU2の代表曲となった。
05. Beat Box (Diversion 1) / The Art Of Noise
サンプリングという手法を大胆に駆使して、まったく新しい音楽を創造したアート・オブ・ノイズ。ゲートリバーブの潮流を受けた強烈なビートと既成音源の継ぎ接ぎで構成された「音色」はあまりに斬新かつ過激であり、後のミュージシャンに多大な影響を与え、90年代に流布するヒップホップの足掛かりになった。
06. Always Returning / Brian Eno with Daniel Lanois & Roger Eno
アポロ計画を題材とした映像作品のサウンドトラックとして発表された楽曲。あえて明瞭な音像を排除した音楽「アンビエント」を成立させたブライアン・イーノは、80年代以降も意欲的にこのジャンルを追求。この作品の後、U2のアルバム『焔』のプロデュースを担当し、神秘的な音色とポップスの融合を成功させた。
07. Yü-Gung (Fütter mein Ego) / Einsturzende Neubauten
インダストリアル・ロックの第一人者として知られるノイバウテン。通常の楽器の代わりに金属片などを使用し、唯一無二の「音色」を生み出した。その攻撃的なサウンドは下手なメロディーや不協和音よりも強烈に、アグレッシブなイメージを演出していると感じる。ある意味ではサンプリングの究極形。
08. Missing / Everything But The Girl
もともとはネオアコの代表的バンドとして知られていたEBTGだが、中期以降はハウス・ビートを大胆に取り入れたクラブ仕様の作風へと移行した。80年代のリンドラム等と比較すると遥かに洗練された印象のハウス・ビート、そこにネオアコ出身ならではの洒脱なサウンドが絶妙にマッチした、アーバンな名曲。
09. Still D.R.E. / Dr. Dre ft. Snoop Dogg
90年代、サンプリングによる独特な「音色」で構築されたヒップホップ・ミュージックがシーンを席巻。中でもドクター・ドレーのアルバム『2001』は、以降のトラックに多大な影響を与えた作品として知られており、スヌープ・ドッグと共演した本作は、ドレーの代表曲のひとつとなっている。
10. We Have A Map Of The Piano / múm
エレクトロニカの代表的アーティストとして知られるアイスランド出身のバンド、ムーム。ローファイとハイファイを絶妙にブレンドしたサウンドが、唯一無二のイメージを成立させている。あるいは、デジタル録音の普及に伴う「ローファイの絶滅」によって実現した「音色」の表現であると言えるかもしれない。
三要素にとらわれない「新しい」音楽
というわけで、10曲の「音色」が印象的な楽曲をご紹介してみた。
改めて感じるのは、こうした「音色」による表現の多様化が活発になったのは、やはり80年代以降のことであるということだ。それは無論、音楽表現の成熟に伴ったものであると言えるだろう。そこに、録音機材の進歩も加担した。具体的に言えば、主だって「サンプラー」と「リズムマシン」の普及である。もっと広く、コンピューターを用いた音楽制作と言ってもいい。
とはいえ音楽とは、本質的に「音色」に依存しているものである。クラシックにおいても、ピアノ曲をバイオリンで弾けば、それはまったく異なる表現になってしまう。音楽の世界において、そういった「音色」のバリエーションを押し広げる足掛かりとなったのが、コンピューターだったわけだ。
数々の発明を通して、新しく「音色」という概念が誕生したわけではない。しかし、新しい概念と言っても過言ではないくらいの「進化」を遂げた、という言い方は出来ると思う。これだけの「音色」を作り出し、三要素に依存せずして「新しい音楽」を生み出してきた音楽家たちの好奇心と創造性に、改めて感服を覚えたのだった。