シネクドキ・ポスターの回路

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本当は面白い『ゴッドファーザー<最終章>』

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毎年恒例の「午前十時の映画祭」が、今年も幕を開けました。

 

ざっとラインナップを眺めてみると、今回は珍しく、わりかし新しめの作品もちらほら見受けられる印象です。具体的に挙げると『マトリックス』三部作、あと『ウォレスとグルミット』というのも意外な選出ですね。それでも幕開けを飾るのは、ド定番の『ゴッドファーザー』三部作、というあたりが流石です。

 

というわけで現在、全国の映画館で『ゴッドファーザー』三部作が上映中です。

具体的なスケジュールとしては、

4月1日〜7日  『ゴッドファーザー

4月8日〜14日 『ゴッドファーザー PARTII』

4月15日〜28日『ゴッドファーザー<最終章>』

という並び。ほとんど4月まるごと費やす形で、前二部作は一週ずつの上映、そして『最終章』のみ二週間の上映です。ちなみに『最終章』が全国規模で公開されるのは今回が初めてのこと。ちなみに本国アメリカでも『最終章』は配信/映像ソフトをメインとして公開され、映画館での上映は一部劇場での限定公開だったようです。

 

 

私はついこの間、機会があってこの『最終章』を初めて鑑賞しました。結論から書くと、とても楽しめました。個人的には『ゴッドファーザー』シリーズの中でも印象の薄かった『PART Ⅲ』でしたが、こうして『最終章』に生まれ変わったものとして改めて鑑賞し、コッポラ監督の意図がようやく理解できたように思いました。

今回は、初の全国公開に先駆けて『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』について、ご紹介します。

 

 

 

 

はじめに 〜『ゴッドファーザー<最終章>』とは?

満を持して公開された完全新作『PARTⅢ』

時は1990年。前作から実に16年ぶりとなる『ゴッドファーザー』シリーズ最新作にして完結編『ゴッドファーザー PARTⅢ』が公開されました。

キャスト陣には主人公マイケル役のアル・パチーノをはじめ、ダイアン・キートンなどシリーズを支えた役者陣が再集結。製作陣においても過去作と同様、原作者マリオ・プーゾが脚本に参加、シリーズ第一作でアカデミー撮影賞に輝いたゴードン・ウィリスが撮影を務めるなど、まさに「シリーズ復活」に相応しい面子が揃いました。

正真正銘のカムバック、しかも当時から「映画史に残る」名画として称賛されていたシリーズとあって『PARTⅢ』は並々ならぬ期待とともに迎えられました。しかし本作は、結果として過去二作に見合うほどの評価を獲得することはできず、シリーズ唯一の「失敗作」として扱われてしまったのです。

 

オリジナル版『PARTⅢ』が批判された理由

1990年の『PARTⅢ』が支持を得られなかった、その要因はいくつか挙げられます。

まず『PARTⅢ』というタイトルからしてシリーズ最新作を謳いながらも、作品の中心に据えられたテーマが前二作とは異なるものであったこと。本作は、シリーズならではの「家族」というテーマに加え、当時のバチカンが抱えていた諸問題に紐づいた「金と権力」が、大々的な題材として取り上げられています。この変化球的なアプローチが、あくまでシリーズ作品として公開されたために、観客の理解を得られなかったのです。

またキャスティングに関しても、反響は芳しくありませんでした。前二作でコルレオーネ家の弁護士トムを演じたロバート・デュヴァルが、出演料などの問題からオファーを拒否。そのほか、過去作で死亡したキャラクターも含めると、メインキャラのほとんどは再登場が叶わず、カムバックの高揚感は大きく削がれてしまいました。

また、主要キャラを演じたコッポラ監督の娘、ソフィア・コッポラの演技力の低さには批判が殺到。中には、映画の失敗そのものをソフィアに擦り付ける声もあり、皮肉にも映画と同じ「娘が父親の身代わりになる」構図となってしまいました。

 

公開30周年を記念して制作された「再構築版」

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そして『PARTⅢ』公開から30年後となる2020年。フィルムとサウンドの修復、そしてコッポラ監督による再編集が施された新しいバージョン『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』が発表されました。

タイトルは、当初に予定されていた「前二作から独立した後日談」としての位置づけを表したものに改題され、オリジナルのフィルムから映画全体が再構築されました。新たなオープニング・エンディングが加えられたほか、編集/構成が大々的に見直されたことで、本作はシリーズ完結編として、そして「一本の映画」として、30年の時を経て生まれ変わったのです。

 

 

単独作品として理解しやすくなった『最終章』

単独作品として掴みやすくなった「テイスト」

今回の「再構築」によって、明確に「独立した作品」という位置付けが為されたことにより、本作の「分かりやすさ」は格段に改善されたと思います。

本作を読み解く上で知っておきたいのが『カヴェレリア・ルスティカーナ』というオペラ作品です。物語の後半で、マイケルの長男アンソニーが初舞台として演じる演目ですが、映画全体においても、このオペラ作品をモチーフとして物語が進行していく、という趣向が施されています。この凝った趣きから、シリーズ作品であると同時に「単独作品」として制作された性格の強い作品であるということが、感じ取れると思います。

 

過去作には無かった重厚なテーマ性

そして、本作がテーマとして取り上げているのが「金と権力」すなわち、バチカンに蔓延る腐敗です。ヨハネ・パウロ一世の不可解な急死など、実際に起こった事件がストーリーへ大々的に取り入れられており、当時のバチカンの情勢を辛辣に批判する内容となっています。また、過去作では有り得なかった「マイケルの懺悔」のシーンを通して「信仰」の尊さが描かれ、金と権力が導いた腐敗と対比されています。

 

シリーズ完結編であり、ひとつの単独作品でもある

このように、本作は単独作品としての濃厚なテーマ、メッセージ性、テイストを持った作品であり、だからこそシリーズ作品として受け取られた際、あまり理解を得ることが出来ませんでした。ですが、こうしたコッポラ監督の意図が汲めると、その趣向の上に盛り込まれた「シリーズ完結編」としてのサービス精神にも、気付くことが出来るようになります。

事実、これだけ単独作として充実した作品でありながらも、やはり最後に描かれるのは『ゴッドファーザー』シリーズが描いてきた「変わりゆく家族」の壮絶な末路です。本作は、自身最大のシリーズの枠組みを用いたコッポラ監督渾身の「変化球」であり、それでいてシリーズの幕引きに真っ向から向き合った、文字通り『最終章』に相応しい金字塔なのです。

 

 

オリジナル『PARTⅢ』にハマらなかった人こそ

本作は『PARTⅢ』がピンと来なかった人にこそ観てほしい作品です。こうして「単独作品」という意識をもって観るだけでも、きっと大きく印象が変わると思います。興味のある方はぜひ、今月の全国上映、または既発の映像ソフトでご鑑賞ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。