シネクドキ・ポスターの回路

映画や音楽を楽しみに生きています。

懐古厨として『逃走中』を待つ!

 

最近、板倉俊之(インパルス)さんのYouTubeをよく見ている。

ある日のゲーム配信で、板倉さんがぼそっと「今日、朝から久しぶりに『逃走中』でさ……」と言った。

 

板倉さんが『逃走中』に⁉︎と、正直驚いた。昔、好きで見ていた頃に出演されていた記憶はあったけど、もしかしてそれ以来……何年振りとかではないのか。

そう思って調べてみたら、やっぱりネットでも(主に古参ファン中心に)ちょっとした話題になっていた。思った通り、板倉さんの出演はどうやら2007年以来、実に15年振りのカムバックだという。これは番組の歴史の中でも最長のブランクになるらしい。ちなみに、放送は明日(8月28日)だそうだ。

 

その流れで「そういえば、最近の『逃走中』ってどうなっているんだろう」と、久しぶりに調べてみたら……なんかあの番組、すごいことになっている。あの、夜の深い時間にひっそりやっていた頃と比べたらもう、まるで別の番組みたいになっていた。

最近の『逃走中』は……人気アニメとコラボしたり、サングラスがグッズになったり、子供たちが主演の舞台版が作られたりしているらしい。ビビる。私の中では、今もなお「ひねくれた深夜番組」としての印象が根強くて、どれもなかなか想像がつかない。なんか、好きだったインディーズ映画が知らない間にユニバーサル資本でシリーズ化してた、みたいな気持ち。ちょっと誇らしいような感じもするが、どこか切なくもある。

 

革新的な深夜番組〜初期時代

 

よく見ていたテレビ番組の中でも、特に『逃走中』は好きだった。

芸能人たちがプレイヤーとして参加、ある一定のエリアの中で決められた時間、サングラスにスーツ姿の「ハンター」から逃げ切ることが出来たら賞金を獲得できる、という、言うなれば「大人がお金を賭けてやる」鬼ごっこ。骨組自体はシンプルながら、賞金が秒単位で上昇していく(途中でリタイアもできる)とか、ドラマ『24』ばりにリアルタイムで進行していく演出がハイセンスで、虜になった。

 

個人的には、2004年放送の初回「渋谷編」が一番好きかもしれない。テロップは左上の賞金単価(番組が進むにつれて上昇していく)表示と、右下の残り時間/獲得賞金の表示だけ。全体的な雰囲気が異様なまでにドキュメンタリータッチで、追いかけられるシーンでは映画「ラン・ローラ・ラン」の劇伴をバックに、手持ちブレブレの映像が淡々と流れるばかり。そのバラエティらしくない、怖いくらいの生々しさは「逃走者」の緊張感を見事に演出していて、今見ても革新的で面白い。

この初回のストイックっぷりは長い番組史上でも突出しており、番組を盛り上げるバラエティっぽい仕掛けは皆無、ひたすら50分間鬼ごっこが続くだけの構成となっていて(この後、番組はこの「仕掛け」の面を補強していく形で発展していく)しまいには最後に生き残った某タレントが「木に登る」という、ルールではないけどマナーがん無視なやり方で逃げ切ってしまうガチっぷりである。

ちなみに第二回以降も「木には登らないこと」というルールは明言されていないが、登っちゃった人は誰一人としていない。暗黙の了解、というか「普通に考えてダメだろ」ということだと思う。

 

第二回も渋谷で開催。初回と比較すると「バラエティらしさ」が大幅に強化されて、番組を盛り上げる「仕掛け(=ミッション)」が導入された。しかし、通奏低音のような緊張感・生々しさはなお健在。結果、初回よりも華やかで見応えのある内容になっていて、個人的に初回と同じくらい好きな回。

以上の初期二回に関しては、キャスティングの絶妙さも好きだったりする。俳優、芸人、スポーツ選手、グラビアアイドル(深夜のゲームバラエティの定番)など異業種のバランスがちょうど良くて、アクの強い人・静かな人・ビビり散らかす人等々のバランスが秀逸で見応えがある。それでいて特段バラエティっぽく気張った人がいるわけでもなく、全体的になんとなくダウナーな深夜テンションが、番組の内容と程よくマッチしていた。

 

レギュラー放送へ〜大仕掛けの特番時代

 

そしてこの後、番組は内容の特性からか、ちょっと珍しい形で発展を遂げる。

 

正月特番を含む数回の単発放送を経て、2007年に深夜番組『クロノス』がスタート。毎週、回代わりの出演者たちが「〇〇中」と題された数々のゲームに挑戦する本番組の中で『逃走中』は(ワンコーナーとして、ではあるが)ついにレギュラー放送枠に進出した。

この番組では『逃走中』と並んで、他のプレイヤーの背中に記された番号を捕捉・密告して脱落させる『密告中』や、背後に仕込まれた火薬に繋がった起爆装置を解除して賞金を獲得する『解除中』など、バラエティ豊かな「ゲーム」が週ごとに実施され、深夜枠ながら非常に濃厚な番組だった。今もフジテレビ・オンデマンドなどの各種ストリーミングで見られます。

 

クロノス|フジテレビの人気ドラマ・アニメ・TV番組の動画が見放題<FOD>

 

同年9月に『クロノス』が終了。その翌月、新番組『ジャンプ!〇〇中』が開始する。前番組『水10』の制作班に『クロノス』制作班が合流する形で始まった本番組は、『水10』班による一般的なバラエティ企画、そして『クロノス』班によるゲームバラエティ企画を隔週で交互に放送する、という変則的な構成をとった番組だった。つまり『水10』に吸収合体される形で『クロノス』は継続、その流れで『逃走中』もレギュラー放送枠に残留したのである。

前番組『クロノス』では、出演者は回ごとに総入れ替え制だったものの『ジャンプ!〇〇中』ではチュートリアルオリエンタルラジオ山本裕典がレギュラー陣として出演していたため、この『ジャンプ!』期に制作された『逃走中』は、全ての回にこの五人が参加している。こういうパターンは番組史上この『ジャンプ』期だけで、山本裕典が唯一「二回逃げ切ったことのある人」となっているのは、この辺りの事情にも由来している。

 

2008年の『ジャンプ!〇〇中』終了後、かつてないスケールで制作された「お台場編」で『逃走中』はふたたび特番枠へ復帰。この頃になると、もうだいぶバラエティ番組として洗練された内容となっていて、初期と比べれば「生々しさ」などはある程度薄らいでいるものの、それでもいわゆる「バラエティ」との妥協点として見事なバランス感覚、相変わらずのセンスは貫かれていて、この頃はこの頃でやっぱり面白い。実際、この「お台場編」はファンの間でも人気が高い印象がある。

この後『逃走中』は、浅草、横浜中華街、上野、果てはUSJなど、日本各地の観光地を開催地としてフィーチャーしながら特番枠として継続。そして「お台場編」にも比肩する一大スケールで制作された「池袋編」は、番組におけるひとつの集大成だった(ように思う)。

 

この時期の特番シリーズの特徴として「ゲームの構造そのものを大胆に拡張する」形によって、番組としての発展を図っている点が挙げられる。

前者の「お台場編」では、本編の前に出場者を振るいにかける「予選ステージ」さらに本戦終了後にも更なる賞金を獲得できる「ボーナスステージ」を実施するという、それまでになかった展開が導入された。また「池袋編」ではフィールドを東西に分断して出演者をそれぞれに振り分け、ゲームそのものに二部制を導入。東西いずれかのエリアで「第一ステージ」を実施し、そこで逃げ切った参加者ともう片方のエリアの参加者で「第二ステージ」を実施するという(伝わりますか?)かつてなく大規模でぶっ飛んだ内容となった。まさに、それまでの『逃走中』で積み重ねられてきたメソッドを全注入、当時点での最大限までパワーアップさせた「集大成」だったと言えるだろう。

 

だが、しかし。ゲームの構造そのものを拡張する、例えばエリアを拡大する、時間を拡大する、賞金を拡大する、仕掛けを大がかりにする……いずれにせよ、そうした「発展」を実現するためには、多額のコストが必要になってしまう。番組が発展すればするほど、規模がケタ違いになっていき、予算面で追いつめられていくことになるのだ。

 

新たな方向性〜現在の形へ

 

そんな事情で……だったのかは分からないが、この後『逃走中』は番組を発展させるための方向性として「ゲームそのもの」ではなく、別の角度からのアプローチを採ることになる。

 

2009年11月の「江戸編」以降、番組は「ミッション」に撮り下ろしのドラマパートを絡ませ、ロケパートと同時進行させるという手法を編み出す。追跡劇ばかりで一本調子になりがちだったロケパートの弱点を、ドラマを展開させることによって克服。中弛みを防ぎ、視聴者を飽きさせない構成を実現した。

番組としてもこの構成に手応えを感じたらしく、この後も基本的に「ロケ+ドラマ」方式の発展を方向性として番組は継続、初回から18年が経った今もなお根強い人気を誇っている。

 

とはいっても……思いっきりフィクションを絡ませてしまったことにより、初回に見られたようなあの独特な生々しさや緊張感が、それなりに消失してしまったことも事実だ。

私自身としては、やっぱり『逃走中』というとあの異様なくらいの生々しさが好きで、この「ドラマパート」が導入されたあたりから、次第に気持ちが離れていってしまった。放送を見ることもなくなり、最近はたまにCMを見かけて「懐かしいなあ」と思うくらいになっていた。仕方ないし、よくあるパターンなのだと思う。

 

懐古厨にとっての『逃走中』

 

開始から20年近い年月が経って、今なおここまで熱狂的に支持されているゲームバラエティ番組は、日本のテレビ史上でも唯一無二だと思う。だから、これからも続いてほしいし、人気番組であってほしいと思う。が、しかし!

今やもはや、ここまで番組として変貌を遂げているのだから、ちょっと「昔っぽい」感じの『逃走中』を、どこかでしれっと復活させてもいいのではないのか、もはや別物として許されるのではないか、とも思うのである。あの生々しくて緊張感あふれる、オリジナルの『逃走中』と言えるような番組が、今こそ復活してもいいのではなかろうか。テレビで無理なら、ネット向けのコンテンツとか。なんなら『クロノス』ごと復活してもらって「密告中」とか「解除中」とかもやってほしい……というのは、さすがに強欲か。

いや、もしかしたらテレビかネットかどこかで既に、そういうものは制作されているのかもしれない。でもやはり、その元祖である『逃走中』が今、リアリティ全振りで作ったらどうなるのかというのは、見てみたい。

 

懐古厨のための『逃走中』……待望しているのは私だけ、なのだろうか。