シネクドキ・ポスターの回路

映画や音楽を楽しみに生きています。

こんな映画を観た!ベスト5 〜8月編〜

 

 

おすすめ映画紹介・八月編

お久しぶりです。最近いろいろあってブログ更新遅れがちなまさがきです。

いろいろありましたが、映画はちゃんと観ています。今回は、先月(8月1日〜8月31日)に観た全41作の中から、超私感的なおすすめ映画五本を(むやみに)ランキング形式でご紹介していきたいと思います。月末から数えるとだいぶ遅れてしまった感が否めないですが、どうせ10年以上前の映画とかばかりなので、あまり影響はないかと思われます。

それでは早速、五位から順番に紹介していきます!

 

 

5位『悪魔のいけにえ2』

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あらすじ

恐怖の殺人鬼家族・ソーヤー家による大量惨殺事件から13年。唯一の生還者・サリーの通報を受けて捜査が行われたものの、一家どころか遺体さえ発見されず、事件はお蔵入りとなった。事件で犠牲になったフランクリンの叔父・レフティは、甥の無念を果たすべく、今も独自の調査を進めている。そしてある日、レフティはとある交通事故現場で、チェーンソーによる謎の傷跡を発見する……。

個人的感想

言わずと知れた名作ホラー『悪魔のいけにえ』のシリーズ第二弾。ふたたびトビー・フーパー監督がメガホンをとり、復讐に取り憑かれた新たな主人公レフティデニス・ホッパーがさすがの狂演。あまりにも狂い過ぎていて、これは笑っちゃってもいいのか?というシュールの域まで到達した独創的なホラー感覚はまさに天才的。あんなに人を殺めまくっているのに憎みきれないソーヤー家のキャラクターを含めて、ホラーなのに胸糞悪さのない、これぞ純粋な創造性だと思います。

 

 

4位『ムード・インディゴ うたかたの日々』

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あらすじ

フランスの前衛作家ボリス・ヴィアンによる青春小説を鬼才ミシェル・ゴンドリーが映画化。財産に恵まれ、自由奔放に放蕩の日々を送る青年コランは、あるパーティーで魅力的な女性クロエと恋に落ちる。惹かれ合う二人は結婚し、幸せな日々を送るものの、予期せぬ病魔がクロエの身体を襲う。治療費を稼ぐために働きに出るコラン。しかし、クロエの容態は一向に改善せず……。

個人的感想

ただでさえぶっ飛んだ原作に、ゴンドリー監督らしい独創的なイメージセンスが加わって、手加減のないイマジネーションの洪水っぷりはもはや狂気の沙汰。そんな鮮やかで賑やかな語り口によって二人の出会いが描かれる前半と、悲劇的結末へと突き進む陰惨でモノクロームな後半部との対比が見事です。べネックス監督の名作『ベティ・ブルー』しかり、フランスの恋愛映画はバッドエンドがひとつの定石ですが、中でもかなり強烈な印象が残った作品でした。

 

 

3位『ジェーン・ドウの解剖

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あらすじ

深夜、バージニア州の郊外で検視官を務めるティルデン親子のもとに、緊急の検死依頼が舞い込んできた。遺体の女性は身元が不明で、外傷などもなく、まるで今も生きているような状態に見えた。しかし解剖を進めていくうち、親子はその異様さに気付きはじめる。切り取られた舌、真っ黒に変色した肺、胃に残っていた謎の布片……やがて、謎の怪奇現象が二人の身を襲い始める。

個人的感想

全編86分と短めの作品ですが、かなりユニークかつ緻密な内容で、観応えのある一本です。検死室というシチュエーションそのものが斬新だと思いました。解剖が進むにつれてどんどん不穏になっていく、先の読めない展開の流れ方も見せ方も巧妙で、しっかり怖かったし面白かったです。伏線をきっちり回収するオチまで丁寧、クライマックスも容赦なさすぎで好きです。ちなみに「ジェーン・ドウ」とは、身元不明の女性に当てられる仮の呼称なのだそうです。

 

 

2位『REC/レック

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あらすじ

レポーターのアンヘラは、カメラマンのパブロとともに真夜中の消防署の密着取材を行なっていた。その時、とあるアパートへの出動指令が下りる。急行した消防士たちに同行した二人は、その現場で異様な様子の老婆に遭遇、その場にいた警備員の一人が噛みつかれてしまう。病院へ運ぼうとする一同だが、アパートは突如として封鎖され、彼らは住民たちと共に閉じ込められてしまう。

個人的感想

本国スペインで大ヒットを記録した、全編ビデオカメラによる主観視点(POV)で撮影されたモキュメンタリー・ホラーの金字塔。POVならではの臨場感が半端ではなく、トリアー監督ばりの張り詰めた空気作りも圧倒的です。全体の展開の流れも見事かつ強烈かつユニークで、素晴らしい脚本だと思います。POVにありがちな「こんな状況でカメラ回さなくても」のジレンマも、巧妙な状況設定によって見事に克服しており、まさしくお手本のような作品だと思いました。

 

 

1位『クリープ』

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あらすじ

映像作家のアーロンのもとに、たった一日の撮影で1000ドルを支払うという謎の仕事依頼が寄せられる。ジョセフと名乗る依頼主の男は「じきに生まれる子供のため、もうすぐ癌でこの世を去る自分の代わりに、ビデオ日記を遺しておきたい」と仕事の内容を打ち明ける。撮影を始めるアーロンだったが、カメラの前で意味不明な行動をとり続けるジョセフに対し、次第に不審感を募らせていく……。

個人的感想

斬新なアイデア。知らない男の日常を撮らされるって、ありそうでなかった気がします。なんとも言えない状況設定の中、どんな気持ちで観ればいいのか分からないまま、容赦なくエスカレートしていく奇行の気持ち悪さがあまりに絶妙で、慄きながら笑うしかありません。ほぼ全編ふたり芝居ですが、演じているのは本作の脚本家&監督。それを聞くと、この異様に濃厚な空気感も頷ける気がします。要所でびしっと決まるカメラワークもカッコいい。キャストも脚本も演出も素晴らしく、低予算ホラーにいまだ眠る無限の可能性が改めて感じられる、異形の大傑作です。

 

 

おわりに(そして九月編もやります)

いかがでしたでしょうか。五本いずれも素晴らしい名作ばかりなので、興味があればぜひご覧になってみてください。この記事が何かの拍子に、新たな映画との出会いや、有意義な再訪のきっかけとなるようなことがあったら嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

あと、今もほぼ一日一本鑑賞のペースが続いているので、今月分も来月(ややこしい)書くと思います。どうぞよろしくお願いします。

幻の傑作ゲーム『Art Style』について。

 

 

皆さんは『Art Style』というゲームをご存知でしょうか。

2008年から2011年にかけて、ニンテンドーDSiウェアWiiウェアとして任天堂からダウンロード販売されていたゲームシリーズです。販売は任天堂でしたが、開発のほとんどを「ラブデリック」の系譜にあたる株式会社スキップが務めており、大手作ながらインディーズ味あふれる前衛的でハイセンスな作品ばかりでした。

今回のお題は「私がハマったゲームたち」ということで、個人的に人生で一番ハマったといっても過言ではない『Art Style』シリーズについて、紹介させていただきたいと思います。

 

 

シリーズ『Art Style』とは?

発端は2006年、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された『bit Generations』というシリーズでした。

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公式サイトに掲載されている通り、シリーズとしてのコンセプトは、

bit Generations』シリーズは、"GAME"の原点というものを見つめ直し、すべてが点と形で描かれた世界を、鮮やかな色彩とサウンドで表現した、新しいラインナップです。

というもの。シンプルなゲーム性、ドットやラインのみで構成されたビジュアル、スタイリッシュなサウンドで仕上げられたクールでカッコいいシリーズでした。

開発のほとんどを担当したのは、ゲーム制作会社「株式会社スキップ」。名作RPG『moon』などを送り出した人気ゲーム会社「ラブデリック」の元スタッフを中心に設立された会社で、他にも『ちびロボ』などのヒット作を手掛けました。

 

シリーズ『bit Generations』発売から2年後の2008年、このシリーズを下敷きとして始動したのが『Art Style』です。ニンテンドーDSiウェアWiiウェアというダウンロードソフトの形態で発売されました。

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こちらも、公式ホームページにシリーズとしてのコンセプトが掲載されています。

プレイヤーの操作でサウンドとビジュアルがリンクする…

その心地よいゲーム体験をご提供します。

操作、サウンド、ビジュアル……と、ゲームにおける基本要素を重視した上で「心地よさ」を謳っているところに、コンセプトとして前シリーズにも通じる「シンプルさの追求」また「ゲームの原点への回帰」の姿勢が見てとれると思います。2008年から開始したシリーズは、前身の『bit Generations』で発表された作品のリメイクを含む計12作品を発売したのち、2011年に終了しました。

 

 

シリーズおすすめ作品5選!

ここからは、シリーズとして発表された12作の中から、個人的におすすめの作品たちを紹介していきたいと思います。このあたりのゲームシステムや空気感から、シリーズ特有の雰囲気や魅力などを感じていただけたらと思います。

 

おすすめ①『nalaku』

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2009年2月25日発売(DSiウェア/514円)。

5×5のキューブで構成されたフィールドの上でプレイヤーを操作し、落ちてくるキューブを避けたり動かしたりしながらキューブを上っていく、とてもシンプルなゲーム。ゲームとしては全然違いますが、雰囲気はちょっと『IQ』に似ているかも。一定時間が過ぎると下のフロアは落下し、そこに残っているとゲームオーバーになります。プレイヤーが「わぁー」と(どこか気の抜けた声で)叫びながら「奈落」に落ちていく演出が印象的です。

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個人的に『Art Style』シリーズを知るきっかけになった作品です。ゲームシステムが非常にシンプルで分かりやすく、シリーズの中でもプレイしやすいゲームなのではないかと思います。ゴールを目指す通常モードの他に、ひたすら上を目指す「エンドレスモード」もあり、ハマるとかなり没頭できるゲームだと思います。

 

おすすめ②『HACOLIFE』

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2009年2月25日発売(DSiウェア/514円)。

一言で言うと、方眼紙から展開図を切り出して、立方体を作っていくゲームです。何が面白いの、と思われるでしょうが、私が人生でいちばんハマったゲームのひとつだったりします。用意された問題を解いていく「TRIAL」モードと、巨大な方眼紙から出来るだけ多くの立方体を作る「FACTORY」モードが用意されています。立方体を組み立てていくアクションが気持ちいい。そしてドット絵のキャラクターがカワイイ。

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このゲームはハマりました。もしかすると、DSで買ったソフトの中で一番やり込んだ作品かもしれません。にも関わらず、どうしてコレを「買おう」と思ったのか、それはよく覚えていません。

ご存知でしょうか、立方体の展開図って全部で11種類あるのです。このゲームの「TRIAL」モードをプレイしていると、その11種類をすべて覚えることができます。そして「FACTORY」モードに慣れてくると、方眼紙から展開図を「効率よく」切り出すコツをつかむことができます。とても実用的なゲームです。ハマるかどうかは個人差かもです。

 

おすすめ③『ORBITAL

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2009年5月12日発売(Wiiウェア/617円)。

宇宙空間を漂う小さな惑星を、近くの惑星に接近する重力/遠ざかる反重力で操作して、同じ大きさの惑星と衝突させて大きくしたり、小さな惑星を衛星にしたりしながら、ステージクリア=ゴールの惑星を衛星にすることを目指すゲーム。前シリーズ『bit Generations』で発表された作品のリメイク版です。Wiiウェアの中でもかなり独特な操作性、雰囲気のあるゲームだと思います。

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大画面と良質なスピーカーでやったら、かなり没頭できるような気がします。割と難易度は高めだったと思いますが、エンディングはスゴかったです。

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この作品のほか『Art Style』シリーズのほとんどのゲームで音楽を担当した藤原さんのSOUNDCLOUDで、サウンドトラックが公開されています。衛星が増えるごとにBGMが賑やかになっていき、しかし「月」を衛星にした(ボーナススコアがもらえる)途端、とても寂しげな音楽になる演出がとても好き。

 

おすすめ④『LIGHT STREAM』

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2011年9月6日発売(Wiiウェア/617円)。

こちらも『bit Generations』のリメイク。ビジュアルのほとんどが線のみで構成されたレースゲームです。ビジュアル/サウンド面において、シリーズの中でもかなりカッコいい作品だと思います。

3つのコースを通して優勝を目指す「campaign」モード(マリオカートで言う〇〇カップみたいなもの)があり、そこで優勝すると「freeway」モード(その名の通り、高速道路みたいなモード)で新しい「ジャンクション」がオープンします。その新しいジャンクションに入って新エリアまで到着すると、新しい「campaign」がプレイできるようになる……という、凝ったシステムになっています。

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Wiiウェアでは一番ハマったゲームだと思います。ステージ(campaign)は全部で5面あるのですが、最後の2つは本当に難しかったです。でもカッコいい雰囲気にハマり、ずっとやり続けていたら最後には全クリできた思い出です。

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こちらもサウンドトラックが公開されています。このシリーズのゲームはどれも音楽がいいのですが、この作品の音楽は特に秀逸で、海外ではサントラCDが発売されたという話も耳にしましたが、少なくとも日本では未発売です。一度、いい音質で聴いてみたい……と思っているのですが、なかなか難しそうです。近年のゲーム音楽の中でも、かなりカッコいい部類に入ると思うんだけど……。

 

おすすめ⑤『PENTA TENTACLES』

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2011年10月18日発売(Wiiウェア/617円)。

シリーズ最後の作品にして、オリジナリティに溢れた「らしさ」全開の集大成的作品。謎の生命体(?)を操り、周囲の微生物を吸収して触手を伸ばしていく……という(相変わらず)ユニークな内容です。そこに加えて、三味線などの和楽器をフィーチャーした異色のトラックが絶妙にマッチして、独特な世界観が形作られています。そんな怪作でありながら、全ステージクリアはシリーズの中でも最高レベルの難易度です。

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ルールはシンプル「触手を伸ばす」というだけなのですが、通常の「STAGE」モード(触手の色やノルマとなる触手の長さで難易度が変わっています)に加え、ハイスコアを目指す「ENDLESS」モード、ひたすら一本の触手を伸ばしていく「SNAKE」モードと、多彩な遊び方が収録されているので、いろいろな切り口で楽しむことができます。個人的には、無敵状態である「サイクロン」の演出が、最高にカッコよくて気持ちよくて好きです。

 

 

おわりに……記事のタイトルについて

いかがでしたでしょうか。このように『Art Style』シリーズは、手頃に買える低価格ソフトでありながら、長い間存分に楽しむことができるアイデアとセンスに溢れた傑作ゲームシリーズだったのです。その魅力を、この記事で少しでも感じていただけたら幸いです。

 

しかし……実は、この『Art Style』シリーズ、もう手に入りません

タイトルで「幻の〜」と冠したのは、このためです。もう買えません。釣りタイトルとか、大袈裟に書いているのではありません。本当に「幻」です。

 

今回紹介した『Art Styleシリーズ』を含む「Wiiウェア」は、2019年1月31日に「Wiiショッピングチャンネル」のサービスが終了したことを機に、配信が終了してしまいました。ゆえに、もう購入することができないのです。もしパッケージ版が出ていれば、ブックオフなどで中古として売買されたりもしたのかもしれませんが、いかんせんダウンロード専用のソフトなのでそれもありません。こういう風に、サービスを提供する側の運営に大きく左右されてしまうというのは、パッケージ版にはない弱みだと思います。

また「DSiウェア」に関しては、一応まだ3DSシリーズ用の「ニンテンドーeショップ」は動いているようなので購入自体は可能なようですが、3DSシリーズ本体の生産がすでに終了しているので、そう遠くないうちにこちらのサービスも終了するものと思われます。こちらもダウンロードでしか購入できないので、サービスが終わってしまえば購入は不可能です。

 

というわけで『Art Style』シリーズ……さんざん紹介しておいて、なのですが、現在は入手不可能となってしまっています。どうしてもプレイしたければ「私、買いました」という人の家にお邪魔して、やらせてもらうくらいしかありません。

(ちなみに『bit Generations』シリーズはGBAソフトとしてパッケージ販売されたものなので、たまに中古市場に出回ったりしています。案の定(?)販売数は多くはなかったようですが、現在そこそこのプレミア価格で取引されていて、やはり一部界隈で根強い人気はあるようです。)

 

もう売っていないというのに、なんで今さら紹介したんだ!……と思われるかもしれませんが、いや今こそ、こうして少しずつでも認知度を高めていくことで「移植・再発売」の機運が高まってくるかもしれないのです。

 

私はなんとか、この隠れた傑作ゲームの復刻(あわよくばサントラも出てほしい)が実現することを切望していて、その可能性を現実的に考えてみると「移植版」としての再発を待ち望むくらいしかありません。これは当シリーズに限らず、すべての(提供元のサービスが終わってしまった)ダウンロードコンテンツに通じて言える話であると思います。

特に、Wiiウェアの作品群は現行の「Nintendo Switch」でも、そのままプレイできる気がします。せめてWiiウェア発売分だけでも、Switch版のeショップで再発されたりしないだろうか。一応「ラブデリ系」の一派として……三年前の『moon』復刻に続くような流れで、あわよくばサントラも併せて再発されることを願っております(ダメ元で)。

 

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懐古厨として『逃走中』を待つ!

 

最近、板倉俊之(インパルス)さんのYouTubeをよく見ている。

ある日のゲーム配信で、板倉さんがぼそっと「今日、朝から久しぶりに『逃走中』でさ……」と言った。

 

板倉さんが『逃走中』に⁉︎と、正直驚いた。昔、好きで見ていた頃に出演されていた記憶はあったけど、もしかしてそれ以来……何年振りとかではないのか。

そう思って調べてみたら、やっぱりネットでも(主に古参ファン中心に)ちょっとした話題になっていた。思った通り、板倉さんの出演はどうやら2007年以来、実に15年振りのカムバックだという。これは番組の歴史の中でも最長のブランクになるらしい。ちなみに、放送は明日(8月28日)だそうだ。

 

その流れで「そういえば、最近の『逃走中』ってどうなっているんだろう」と、久しぶりに調べてみたら……なんかあの番組、すごいことになっている。あの、夜の深い時間にひっそりやっていた頃と比べたらもう、まるで別の番組みたいになっていた。

最近の『逃走中』は……人気アニメとコラボしたり、サングラスがグッズになったり、子供たちが主演の舞台版が作られたりしているらしい。ビビる。私の中では、今もなお「ひねくれた深夜番組」としての印象が根強くて、どれもなかなか想像がつかない。なんか、好きだったインディーズ映画が知らない間にユニバーサル資本でシリーズ化してた、みたいな気持ち。ちょっと誇らしいような感じもするが、どこか切なくもある。

 

革新的な深夜番組〜初期時代

 

よく見ていたテレビ番組の中でも、特に『逃走中』は好きだった。

芸能人たちがプレイヤーとして参加、ある一定のエリアの中で決められた時間、サングラスにスーツ姿の「ハンター」から逃げ切ることが出来たら賞金を獲得できる、という、言うなれば「大人がお金を賭けてやる」鬼ごっこ。骨組自体はシンプルながら、賞金が秒単位で上昇していく(途中でリタイアもできる)とか、ドラマ『24』ばりにリアルタイムで進行していく演出がハイセンスで、虜になった。

 

個人的には、2004年放送の初回「渋谷編」が一番好きかもしれない。テロップは左上の賞金単価(番組が進むにつれて上昇していく)表示と、右下の残り時間/獲得賞金の表示だけ。全体的な雰囲気が異様なまでにドキュメンタリータッチで、追いかけられるシーンでは映画「ラン・ローラ・ラン」の劇伴をバックに、手持ちブレブレの映像が淡々と流れるばかり。そのバラエティらしくない、怖いくらいの生々しさは「逃走者」の緊張感を見事に演出していて、今見ても革新的で面白い。

この初回のストイックっぷりは長い番組史上でも突出しており、番組を盛り上げるバラエティっぽい仕掛けは皆無、ひたすら50分間鬼ごっこが続くだけの構成となっていて(この後、番組はこの「仕掛け」の面を補強していく形で発展していく)しまいには最後に生き残った某タレントが「木に登る」という、ルールではないけどマナーがん無視なやり方で逃げ切ってしまうガチっぷりである。

ちなみに第二回以降も「木には登らないこと」というルールは明言されていないが、登っちゃった人は誰一人としていない。暗黙の了解、というか「普通に考えてダメだろ」ということだと思う。

 

第二回も渋谷で開催。初回と比較すると「バラエティらしさ」が大幅に強化されて、番組を盛り上げる「仕掛け(=ミッション)」が導入された。しかし、通奏低音のような緊張感・生々しさはなお健在。結果、初回よりも華やかで見応えのある内容になっていて、個人的に初回と同じくらい好きな回。

以上の初期二回に関しては、キャスティングの絶妙さも好きだったりする。俳優、芸人、スポーツ選手、グラビアアイドル(深夜のゲームバラエティの定番)など異業種のバランスがちょうど良くて、アクの強い人・静かな人・ビビり散らかす人等々のバランスが秀逸で見応えがある。それでいて特段バラエティっぽく気張った人がいるわけでもなく、全体的になんとなくダウナーな深夜テンションが、番組の内容と程よくマッチしていた。

 

レギュラー放送へ〜大仕掛けの特番時代

 

そしてこの後、番組は内容の特性からか、ちょっと珍しい形で発展を遂げる。

 

正月特番を含む数回の単発放送を経て、2007年に深夜番組『クロノス』がスタート。毎週、回代わりの出演者たちが「〇〇中」と題された数々のゲームに挑戦する本番組の中で『逃走中』は(ワンコーナーとして、ではあるが)ついにレギュラー放送枠に進出した。

この番組では『逃走中』と並んで、他のプレイヤーの背中に記された番号を捕捉・密告して脱落させる『密告中』や、背後に仕込まれた火薬に繋がった起爆装置を解除して賞金を獲得する『解除中』など、バラエティ豊かな「ゲーム」が週ごとに実施され、深夜枠ながら非常に濃厚な番組だった。今もフジテレビ・オンデマンドなどの各種ストリーミングで見られます。

 

クロノス|フジテレビの人気ドラマ・アニメ・TV番組の動画が見放題<FOD>

 

同年9月に『クロノス』が終了。その翌月、新番組『ジャンプ!〇〇中』が開始する。前番組『水10』の制作班に『クロノス』制作班が合流する形で始まった本番組は、『水10』班による一般的なバラエティ企画、そして『クロノス』班によるゲームバラエティ企画を隔週で交互に放送する、という変則的な構成をとった番組だった。つまり『水10』に吸収合体される形で『クロノス』は継続、その流れで『逃走中』もレギュラー放送枠に残留したのである。

前番組『クロノス』では、出演者は回ごとに総入れ替え制だったものの『ジャンプ!〇〇中』ではチュートリアルオリエンタルラジオ山本裕典がレギュラー陣として出演していたため、この『ジャンプ!』期に制作された『逃走中』は、全ての回にこの五人が参加している。こういうパターンは番組史上この『ジャンプ』期だけで、山本裕典が唯一「二回逃げ切ったことのある人」となっているのは、この辺りの事情にも由来している。

 

2008年の『ジャンプ!〇〇中』終了後、かつてないスケールで制作された「お台場編」で『逃走中』はふたたび特番枠へ復帰。この頃になると、もうだいぶバラエティ番組として洗練された内容となっていて、初期と比べれば「生々しさ」などはある程度薄らいでいるものの、それでもいわゆる「バラエティ」との妥協点として見事なバランス感覚、相変わらずのセンスは貫かれていて、この頃はこの頃でやっぱり面白い。実際、この「お台場編」はファンの間でも人気が高い印象がある。

この後『逃走中』は、浅草、横浜中華街、上野、果てはUSJなど、日本各地の観光地を開催地としてフィーチャーしながら特番枠として継続。そして「お台場編」にも比肩する一大スケールで制作された「池袋編」は、番組におけるひとつの集大成だった(ように思う)。

 

この時期の特番シリーズの特徴として「ゲームの構造そのものを大胆に拡張する」形によって、番組としての発展を図っている点が挙げられる。

前者の「お台場編」では、本編の前に出場者を振るいにかける「予選ステージ」さらに本戦終了後にも更なる賞金を獲得できる「ボーナスステージ」を実施するという、それまでになかった展開が導入された。また「池袋編」ではフィールドを東西に分断して出演者をそれぞれに振り分け、ゲームそのものに二部制を導入。東西いずれかのエリアで「第一ステージ」を実施し、そこで逃げ切った参加者ともう片方のエリアの参加者で「第二ステージ」を実施するという(伝わりますか?)かつてなく大規模でぶっ飛んだ内容となった。まさに、それまでの『逃走中』で積み重ねられてきたメソッドを全注入、当時点での最大限までパワーアップさせた「集大成」だったと言えるだろう。

 

だが、しかし。ゲームの構造そのものを拡張する、例えばエリアを拡大する、時間を拡大する、賞金を拡大する、仕掛けを大がかりにする……いずれにせよ、そうした「発展」を実現するためには、多額のコストが必要になってしまう。番組が発展すればするほど、規模がケタ違いになっていき、予算面で追いつめられていくことになるのだ。

 

新たな方向性〜現在の形へ

 

そんな事情で……だったのかは分からないが、この後『逃走中』は番組を発展させるための方向性として「ゲームそのもの」ではなく、別の角度からのアプローチを採ることになる。

 

2009年11月の「江戸編」以降、番組は「ミッション」に撮り下ろしのドラマパートを絡ませ、ロケパートと同時進行させるという手法を編み出す。追跡劇ばかりで一本調子になりがちだったロケパートの弱点を、ドラマを展開させることによって克服。中弛みを防ぎ、視聴者を飽きさせない構成を実現した。

番組としてもこの構成に手応えを感じたらしく、この後も基本的に「ロケ+ドラマ」方式の発展を方向性として番組は継続、初回から18年が経った今もなお根強い人気を誇っている。

 

とはいっても……思いっきりフィクションを絡ませてしまったことにより、初回に見られたようなあの独特な生々しさや緊張感が、それなりに消失してしまったことも事実だ。

私自身としては、やっぱり『逃走中』というとあの異様なくらいの生々しさが好きで、この「ドラマパート」が導入されたあたりから、次第に気持ちが離れていってしまった。放送を見ることもなくなり、最近はたまにCMを見かけて「懐かしいなあ」と思うくらいになっていた。仕方ないし、よくあるパターンなのだと思う。

 

懐古厨にとっての『逃走中』

 

開始から20年近い年月が経って、今なおここまで熱狂的に支持されているゲームバラエティ番組は、日本のテレビ史上でも唯一無二だと思う。だから、これからも続いてほしいし、人気番組であってほしいと思う。が、しかし!

今やもはや、ここまで番組として変貌を遂げているのだから、ちょっと「昔っぽい」感じの『逃走中』を、どこかでしれっと復活させてもいいのではないのか、もはや別物として許されるのではないか、とも思うのである。あの生々しくて緊張感あふれる、オリジナルの『逃走中』と言えるような番組が、今こそ復活してもいいのではなかろうか。テレビで無理なら、ネット向けのコンテンツとか。なんなら『クロノス』ごと復活してもらって「密告中」とか「解除中」とかもやってほしい……というのは、さすがに強欲か。

いや、もしかしたらテレビかネットかどこかで既に、そういうものは制作されているのかもしれない。でもやはり、その元祖である『逃走中』が今、リアリティ全振りで作ったらどうなるのかというのは、見てみたい。

 

懐古厨のための『逃走中』……待望しているのは私だけ、なのだろうか。

こんな映画を観た!〜7月編〜

 

 

はじめに

絶賛、映画熱再燃中のまさがきです。先々月の記事(↓です。よければぜひ)に続いて、今回は7月に観た作品の中からおすすめ映画をセレクト、ご紹介していきたいと思います。

nonstandard369.hatenablog.com

最近どういうわけかホラー、スプラッター系に傾倒していて、今回のラインナップもそっち系が多めになっています。順番は観た順そのままにしてしまったので、ジャンルも制作年も節操ない並びです。ご了承ください。

 

 

ギルバート・グレイプ (1993)

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ギルバートは、アイオワ州で暮らすグレイプ家の次男。夫を亡くしてから過食症を患い引きこもりの母、ふたりの姉妹、そして知的障害を持つ弟アーニーの一家を、ギルバートは大黒柱として支えていた。そんなある日彼は、祖母とふたりトレーラーで町を訪れたベッキーと出会い……。

ジョニー・デップ主演、巨匠ラッセ・ハルストレム監督の代表作。勝手に王道ものかと思っていましたが、良い意味でちょっと変わった映画でした。マイノリティの痛みを描きながらも、感傷的になりすぎない爽やかさが印象的。現在「12ヶ月のシネマリレー」という企画の第一弾作品として劇場上映中です。

 

 

ノロイ (2005)

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ドキュメンタリー作家・小林雅文が自宅の全焼事件の後、謎の失踪を遂げた。彼が残した怪奇ルポの最新作『ノロイ』は想像を絶する内容であり、お蔵入りが検討されたものの、一瀬隆重によるプロデュースのもと、白石晃士監督によって編集・再構成され、ここに映画作品として蘇った……。

邦画モキュメンタリー・ホラーの第一人者、白石晃士監督の代表作。とにかく過激。お蔵入りになったビデオ作品という体をとることで、映画やメディアという枠組そのものを破壊している感じがします。作られたホラーの究極形と言えるのではないでしょうか。凶悪な情報過多っぷりも、ここまでくると痛快です。

 

 

A (1998)

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地下鉄サリン事件の発生直後。オウム真理教に対する社会の態度を、団体の広報副部長を務めていた荒木浩の視点を中心として取材、構成したドキュメンタリー。マスコミの強引な取材体制、警察による理不尽な逮捕の現場などが捉えられ、映像の一部は冤罪の証拠物件として提出された。

ドキュメンタリー作家・森達也監督の代表作。一言で言うと、とにかく胸糞悪いです。マスコミ報道陣のデリカシーの欠如っぷり。不当逮捕のくだりはまるでコントですが、あれで本当に逮捕されているのだから恐ろしいです。ただやはり当事者も当事者で、現在だからこそいろいろ考えさせられた作品でした。

 

 

X (2022)

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自主映画制作のため、とある農場を訪れた撮影クルーの若者たち。滞在のために借りることとなった小屋で、彼らは農場の主であるハワード、そしてその妻のパールに出会う。不気味な雰囲気を感じながらも、撮影は快調に進む。しかしその夜、壮絶な恐怖体験が彼らを待ち受けていた……。

久々に劇場で観たホラー作品。しかも公開日の初回上映で観ました笑。良い意味でレトロな雰囲気が小気味よく、残酷描写満載、過去の名作ホラーへのオマージュも満載、A24らしい小難しさも含めて、ひたすらマニアックで面白かったです。あと、かなり衝撃的な仕掛けが組まれています。最後まで全く気付きませんでした。

 

 

死霊のはらわた (2013)

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ドラッグ依存症の克服を目指すミアは、彼女を見守るために同伴した兄デイヴィッド、そして三人の友人たちとともに、人里離れた山小屋に滞在することとなる。訪れた日の夜、ミアは禁断症状に苦しみながら、恐ろしい怪奇現象に襲われる。彼女は「帰りたい」と懇願するが……。

サム・ライミ監督の出世作であり、80年代屈指の傑作スプラッター死霊のはらわた』を再構築したリブート作品。脚本・制作としてライミ監督も参加しています。オリジナルよりも洗練された仕上がりながら、容赦なきスプラッター描写はなお健在(むしろ残虐度は上がったかも)で、新旧ファン楽しめる傑作だと思います。

 

 

スプライス (2009)

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遺伝子研究者の夫妻・クレイヴとエルサは、遺伝子合成により新しい生命体(ハイブリッド・アニマル)を生み出す研究に取り組む一方、その裏で密かに、人間の遺伝子を含んだハイブリッド・アニマルを生み出そうとしていた。そしてある日、ついに生命体は完成し、その姿を現した……。

傑作サスペンス『CUBE』で知られるヴィンチェンゾ・ナタリ監督が手がけた、いわば「SF版イレイザーヘッド」とでも言うべき、かなり変態寄りの傑作SF。不気味で、哀れで、かつテーマがしっかりしていて、展開もえげつなくて凝っています。制作総指揮として、怪物映画でお馴染みギレルモ・デル・トロ監督が参加。

 

 

蜘蛛女のキス (1985)

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ブエノスアイレス郊外の刑務所。同じ房に入った、未成年との淫行で逮捕された女装家のモリーナと、政治犯として逮捕された革命家の青年バレンティン。ある日モリーナは、自分が愛してやまない恋愛映画のあらすじを語り始める。その話題をきっかけに、次第に打ち解けていく二人だったが……。

刑務所の話でありながら、ほとんど房のワンシチュエーションで会話だけで展開していく前半がかなり新鮮で面白かったです。モリーナの語りに合わせて挿入される古典映画のシーケンスも含めて雰囲気が最高。そしてなにより、アカデミー賞をはじめ幾多の男優賞に輝いたモリーナ役ウィリアム・ハートの演技が圧巻です。

 

 

呪詛 (2022)

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出産した直後から里親に預けていた娘・ドォドォをようやく引き取り、ルオナンは母娘ふたりでの新生活を始めようとしていた。しかし、その日の夜から二人の周囲で謎の怪奇現象が多発。ルオナンは真相を究明すべく、自身を襲い、娘と離れる原因にもなった、ある「事件」と再び向き合うことになる。

自国台湾での歴代最高売上の達成を皮切りに、世界中でムーブメントを巻き起こしたファウンドフッテージ・ホラーの傑作。全編デジタル撮影ながらも、90年代のJホラーなどを彷彿とさせる、えもいわれぬジメジメ感が見事に演出されています。クライマックスの展開もなかなか衝撃的で、恐ろしいです。

 

 

呪怨 (2000)

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小学校教諭の小林は、最近不登校が続き、連絡さえ取れない佐伯俊雄の自宅を訪れる。そこで彼は、俊雄の母・伽耶子が大学時代の同級生であることを知り、想像を絶する恐怖に襲われることになる。その後も呪いは、その家に住んだ者へ、訪れた者へ、次から次へと際限なく伝播していく……。

今やジャパニーズ・ホラーを代表するシリーズとなった『呪怨』シリーズの原点。独特な恐怖描写、そしてシリーズ特有の「時間軸が交錯する」構成の妙がすでに確立されており、ビデオ作品でありながら今観てもなお安っぽさ、古さをまったく感じさせない名作です。二ヶ月後には続編となる『呪怨2』も発売されました。

 

 

ドント・ルック・アップ (2021)

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ミシガン州立大学天文学を学ぶケイトは、ひょんなことから新たな巨大彗星を発見する。教授のランドールとともにその軌道を計算したところ、約六ヶ月後に地球に衝突することが判明。地球滅亡の瞬間が迫っていることに気付いた二人は、その事実をなんとか人々に知らせようとするが……。

豪華キャスト共演、数々の傑作コメディで知られるアダム・マッケイ監督による傑作ブラックコメディ。前半は単なるコメディという印象でしたが、後半〜クライマックスの生々しさ、容赦のなさ、そして未来への祈りを感じさせるメッセージに胸打たれました。エンタメ作品らしい綺麗なオチも、なんだかジーンと来ます。

 

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。相変わらず節操もへったくれもないセレクトとなりましたが、それでも本記事が何かしらの再訪や出会いのきっかけ、一助となったら嬉しいです。興味があったら、是非ご覧になってみてください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

図書館で見つけたレア盤セレクション。

 

図書館でCDを借りる

図書館が好きだ。まず、あの雰囲気が好き。あと、行くと必ず何かしら得られる気がする。正直、最近はあんまり本を読む習慣がなくて、活字に触れる機会も少なくなってしまっているのだが、図書館に行っていろいろ読んでいると、やっぱり刺激を受けるし、読書って面白いなと思う。それが日常にも続けばいいのだが……なかなか忙しさに感けてしまっている。

あと好きなのが、図書館のCDコーナーだ。いろいろ見終わって、最後にお土産(?)みたいな気持ちで、二枚とか三枚を借りる。見ていると、意外とレア盤というか、なんでこんなの置いてるの?みたいなのを見つけたりして、テンション上がったりする。そしてなにより、無料である。学生時代なんて、私のライブラリーはほとんどこの「CDコーナー」で借りた音源によって形作られていた、と思う。

試しに、これまでに図書館で借りたレア(?)音源をリストアップしてみたら、なんだか何とも言えない並びが出来上がって面白かったので、ここに挙げてみます。

 

 

Still Waters / Bee Gees

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80年代末のカムバック後、1997年に発表された21枚目のアルバム。プロデューサーとしてデイヴィッド・フォスターヒュー・パジャムなど名だたる面々を迎え、全体的にアーバンでメロウな仕上がりとなっています。ヒット曲『Alone』収録。

 

Imagination / Brian Wilson

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95年のセカンド『I Just Wasn't Made for These Times』以来、三年ぶりとなったソロ・アルバム。まさにビーチボーイズを想起させるコーラスワークが美しいタイトル曲は「Adult Contemporary Radio」にてヒットを記録しました。

 

GIRL FRIEND ARMY / Carnation

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直枝政広を中心として結成、84年にナゴムレコードからデビューしたカーネーション。7thとなる本作は、バンド史上最大のヒットを記録しました。絶盤のため長らく入手困難となっていましたが、2009年にデラックス盤として再発されました。

 

Betty Blue / Gabriel Yared

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1986年のフランス映画『ベティ・ブルー』のサウンドトラック盤。音楽を担当したのは『イングリッシュ・ペイシェント』などでも知られるガブリエル・ヤレド。監督のジャン=ジャック・ベネックスは今年一月、惜しまれつつ逝去しました。

 

Wan-Gan King /  鈴木博文

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ムーンライダーズのベーシスト、鈴木博文が1987年に発表した1stソロ・アルバム。今もなおファンの間で根強い人気を誇る「ひねくれポップ」の隠れた名盤であり、2017年には二枚組の発売30周年記念盤として再発されました。

 

Live / Leonard Cohen

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もとは詩人・作家としてキャリアをスタートさせ、のちにシンガーソングライターとしてデビューし、数多くの名曲を残したレナード・コーエン。本作は実に21年ぶりとなったライブ・アルバムであり、代表曲『ハレルヤ』も収録されています。

 

Hard Candy / Ned Doheny

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シンガーソングライター、ネッド・ドヒニーの2ndアルバムであり、印象的なジャケットでもよく知られる70年代AORの屈指の名盤。AORの中でも親しみやすく、かつバラエティに富んだ楽曲群が並んでおり、とても聴きやすい作品だと思います。

 

Fiyo on the Bayou / Neville Brothers

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ミーターズの元メンバーらで結成されたネヴィル・ブラザーズの2ndアルバム。ミーターズ時代の楽曲のリメイクや、ナット・キング・コールの歌唱で知られる『モナリザ』のカバーなどを収録。ドクター・ジョンらがゲスト参加しています。

 

Peter Ivers / Peter Ivers

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映画『イレイザーヘッド』の挿入歌をはじめ、幅広い分野での活躍で知られる鬼才ピーター・アイヴァース。一般的には、その音楽性が爆発した前作『ターミナル・ラブ』がよく知られていますが、聴きやすさだとこちらの方が上かもしれません。

 

The Black Album / Prince

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名盤『サイン・オブ・ザ・タイムズ』に続く新作として制作されながらも発売直前にお蔵入りとなった幻の傑作。代作として急遽製作された『Lovesexy』が発表されましたが、本作はブートレグとして流通、のちに正規盤もリリースされました。

 

One More Song / Randy Meisner

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ポコ、イーグルスの創設メンバーとして知られるランディ・マイズナーの2ndソロアルバム。イーグルスのメンバーやジェームス・テイラーらがゲストとして参加、爽やかなサウンドとポップセンスで今もなお愛されるAORの名盤です。

 

Troublizing / Ric Ocasek

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独自のポップセンスで80年代に一世を風靡した「カーズ」のフロントマンとして知られ、のちにウィーザーのプロデュースも手がけたリック・オケイセクの5thアルバム。リックに加え、ビリー・コーガンが共同プロデュースを担当しています。

 

Partners in Crime / Rupert Holmes

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音楽だけでなく小説、脚本、戯曲など幅広い分野で活躍している才人、ルパート・ホルムズが1979年に発表した5thアルバム。ヒット曲『Escape』や『Him』を収録、ホルムズの出世作となった、今もなお愛されるAORの名盤です。

 

Media Bahn Live / Ryuichi Sakamoto

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アルバム『未来派野郎』発売後に敢行された、自身初のライブ・ツアーのステージを収録したライブ・アルバム。アグレッシブなバンド演奏からピアノ一台によるソロ演奏まで、まさしく当時の「集大成」といえる内容となっています。

 

Careless / Stephen Bishop

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サン・ディエゴ出身のシンガーソングライター、スティーブン・ビショップのデビュー・アルバム。エリック・クラプトンチャカ・カーンなど豪華なゲスト陣でも話題になり、今もなお多くのAORファンなどから愛されている名盤です。

 

Different Trains, Electric Counterpoint / Steve Reich

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ミニマル・ミュージックの第一人者、スティーヴ・ライヒ。現代音楽の中でも聴きやすく、幅広い層から人気を博しているライヒの作品群の中でも、特に人気の高い作品です。ジャズ・ギタリストのパット・メセニーが演奏を担当しています。

 

True Stories / Talking Heads

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バンドにとっての7thアルバムであり、デイヴィッド・バーン初監督作品『トゥルー・ストーリーズ』のサウンドトラック盤。本作では全曲バーンが歌っていますが、劇中で俳優陣が歌ったバージョンも別盤にて音源化されています。

 

ベストセレクション / たま

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イオニア在籍時のアルバムほぼ全曲(+α)を網羅したコンピレーション。アニメ『ちびまる子ちゃん』のエンディング曲『あっけにとられた時のうた』や、ビートルズをも彷彿とさせる実験的ポップの名曲『パルテノン銀座通り』などを収録。

 

Apple Venus Vol.1 / XTC

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長らくの交渉の末、ついにヴァージン・レコードから独立、自主レーベルからの第一作として発表された11thアルバム。オーケストラ・サウンドを取り入れた新基軸で、パートリッジ自身も「最高傑作」と認める、充実の内容となりました。

 

愚者の代弁者、西へ / 小西康陽

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シティボーイズ・ライブ1993年公演『愚者の代弁者、西へ』のサウンドトラック盤。どういう繋がりからか、小西さんは90年代のシティボーイズ公演の多くで劇伴を手がけており、2000年公演には野宮真貴さんが客演として出演しました。

 

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。何故かは分かりませんが、確かに図書館のCDコーナーってAOR系やたら充実している気はします。ネヴィル・ブラザーズとかピーター・アイヴァースを見つけたときはかなりビックリしました。プリンスの『ブラック・アルバム』も地味に入手困難なので、図書館にあるのは嬉しいですね。

あとは図書館だから(今回は触れませんでしたが)クラシックはかなり充実していて、その延長なのかライヒとか坂本龍一などの現代音楽系は、下手するとその辺のTSUTAYAよりも充実していた印象です。しかし、一番度肝を抜かれたのはやっぱり『愚者の代弁者、西へ』です。果たして何がどうなってシティボーイズのサントラが所蔵されることになったのか、謎です。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

6月、観た映画を振り返ってみる。

 

 

はじめに

思いがけず二ヶ月もかかってしまった「80年代のムーンライダーズ」シリーズのせいでおかげで、この頃はもはやムーンライダーズ専門みたいになってしまっている当ブログ。大丈夫でしょうか。ちょっとニッチに振り切れすぎなのでは。私自身、少し思い切りが過ぎたのではないか、と若干の後悔を抱かなくもありません。

裏話みたいになりますが、実際のところを打ち明けてしまうと、私自身がムーンライダーズに没頭していたのは、それこそ新アルバムが出た4月くらいのことです。確かにその頃は、本当にもうムーンライダーズばっかり聴いていました(だから「これくらいしか書くことない」ということで、例のシリーズを見切り発車で始めてしまったわけです)。

 

しかし、ぶっちゃけ5月に入った時点で(決して嫌いになったとかではないが)もうだいぶ熱は冷めていて、6月はもうまったく別のものに没頭していました。その一方で、当ブログでは淡々とシリーズの更新を続けていた私。本当はその「没頭しているもの」についてリアルタイムで書きたかったのですが、いかんせん「80年代の」と銘打ってしまったばかりに、引くに引けず止むに止まれず、シリーズを完遂させざるを得ませんでした。とはいえ、書いているのは楽しかったですけどね。

二ヶ月に及んだ「ムーンライダーズ強化期間」が完結し、今回からようやく通常運転に戻ります。というわけで今回は、6月から今もなお現在進行形で私が没頭している話題について、やっと書こうと思います。それは「映画」です。

 

もともと映画は好きですが、最近いろいろな出来事が重なって、しばらく落ち着いていた映画熱が再燃してきました。振り返ってみれば6月はほとんど毎日、1日1本(たまに2本)のペースで観まくっておりました。おかげさまで、素晴らしい作品との出会いもたくさんあったので、今回は私が先月中に観た全33本の映画の中から、個人的にオススメの作品をまとめてご紹介したいと思います。

個人的な嗜好だけで選んでいるので、ジャンルから何から無節操きわまりない並びとなっておりますが、なんらかの興味(?)を持っていただけたら幸いです。

 

 

シリアル・ママ (6月2日 鑑賞)

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メリーランド州ボルチモアのとある郊外。主婦ビバリーは、歯科医である夫を支える良き妻であり、また二人の子どもを優しく見守る良き母であった。しかし一方で、一家の平和を乱したり、社会のルールを守らない者に対しては、容赦なき鉄槌を下す一面を持っていた。やがてビバリーによる制裁は、常軌を逸してエスカレートしていき、世間を巻き込んだ大事件へと発展していく……。

60年代屈指の問題作『ピンク・フラミンゴ』の監督として知られる鬼才、ジョン・ウォーターズによる異色のブラック・コメディ。それまでの正統派のイメージを覆した主演、キャスリーン・ターナーの圧倒的な演技も話題になりました。

もう開始10分から破壊力抜群です笑。そこから全編にわたって展開の流れが素晴らしく、大オチ(これがまた最高)までまったくダレずに楽しめました。キャスリーン・ターナーの演技も素晴らしかったです。

 

野いちご (6月5日 鑑賞)

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老教授であるイサクは、その長年の功績を認められ名誉学位を授与されることになった。授与式に出席するため、彼は自ら運転する車で、義理の娘マリアンヌとともに旅に出た。道中、立ち寄った思い出の場所や、思いがけない出会いを通して、自らの生涯を追想するイサク。封印していた記憶が、彼を容赦なく責め立てていく。終わりのない後悔と自責の果てに、彼が辿り着いたのは……。

巨匠イングマール・ベルイマン監督の代表作。直面する「老い」という普遍的なテーマを取り入れた本作は、監督の作品の中でも高い人気を誇っており、巨匠アンドレイ・タルコフスキー監督もオールタイムベストとして本作を挙げています。

ベルイマン監督の作品は、勝手に「難解」というイメージがあり、敬遠してしまっていましたが(もちろん簡単ではないけど)普通に楽しむことが出来ました。重厚な古典というより『渡鬼』とかを観る気分で楽しめる作品だと思います。

 

プリシラ (6月6日 鑑賞)

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舞台はオーストラリア。シドニーで活躍中のドラァグ・クイーン、ミッチは中央部の砂漠地帯・アリススプリングスでの仕事に向かうべく、ともにドラァグクイーンとして活躍する古くからの友人バーデナット、若く陽気なフェリシアとともに、一台のキャンピングカーで旅に出た。思いがけない出会い、いわれのない偏見、騒動だらけの道中の果てに、彼らを待っていたそれぞれの運命は……。

本国オーストラリアで大ヒットを記録、劇中に登場するキャンピングカー「プリシラ号」は、シドニーオリンピックの開会式にも登場しました。ガイ・ピアースは本作で注目を集め『L.A. コンフィデンシャル』でハリウッドデビューを飾りました。

王道のロードムービーで、久しぶりにすっきりした気持ちで観終わった映画でした。オープニングからエンドロールまで音楽のセンスが抜群で(オープニングはシャーリーンの "I've Never Been To Me")お三方の演技も素晴らしいです。

 

ザ・マスター (6月12日 鑑賞)

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第二次大戦後。復員兵であるフレディはアルコール依存症を患い、さまざまな職を転々としながら放浪の日々を送っていた。そんなある日、彼はランカスター・ドッドという作家に出会う。非凡なカリスマ性を持ったドッドは、彼の教義を信じる人々とともにコミュニティを結成、各地の信者たちを訪問していた。その旅に同行することになったフレディは、次第に彼の思想へ傾倒していき……。

群像ドラマの名作『マグノリア』で知られるポール・トーマス・アンダーソン監督が、カルト教団をテーマに取り上げた傑作ドラマ。ホアキン・フェニックスフィリップ・シーモア・ホフマンによる、迫力満点の演技合戦も話題になりました。

話自体もかなり面白かったですが、やはりメインキャスト二人の芝居が素晴らしかったです。主演のフェニックスのとち狂いっぷりも凄かったですが、ホフマンの不気味さと迫力を併せ持った怪演が最高。もう見られないのが寂しい限りです。

 

ビー・デビル (6月13日 鑑賞)

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ソウルで銀行員として働くヘウォンは、ひょんなことからトラブルを起こしてしまい休職、故郷である孤島を数年ぶりに訪れた。外界から隔絶された孤島では、常軌を逸した男尊女卑が今もなお続いており、ヘウォンの幼馴染であるボンナムもまた、他の女たちの黙殺のもと、夫や男たちから凄惨な虐げを受けていた。彼女はヘウォンに、娘と共にソウルへ連れて行ってほしいと懇願するが……。

最新作『愛に奉仕せよ』が公開中のチャン・チョルス監督による長編デビュー作ながら、各国の映画祭で高い評価を受けた傑作スリラー。あまりにも強烈なストーリーは、実際に起こった三つの性暴行事件をベースにして執筆されました。

ひたすら胸糞悪い前半、そのフラストレーションが暴発する後半……という『わらの犬』的な構成。その上で、展開にひねりが効いており、演出の巧さ(無駄のない見せ方、容赦のない残酷描写)も相まって、期待以上でした。オススメです!

 

ある戦慄 (6月22日 鑑賞)

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ジョーとマーティのチンピラ二人組が、ある深夜の街を徘徊している。遭遇した人々に対し、無差別に理不尽な暴力を加えていく二人。やがて彼らは地下鉄の駅へと向かい、とある車両に乗り込んだ。そこに乗っていた人々……若いカップル、中流階級の夫妻、休暇中の軍人、同性愛者の青年、アフリカ系の夫妻……ふたりは人々に、容赦なき暴力と罵倒を浴びせ、車内はやがて惨劇の舞台と化す……。

チャールトン・ヘストン主演『パニック・イン・スタジアム』でも知られるラリー・ピアース監督による、サスペンスのカルト的傑作。主演を務めたのは、のちにドラマ/映画でスターとなったトニー・ムサンテ、マーティン・シーン

そこらへんの胸糞映画など歯牙にもかけない、これぞ真の胸糞映画。もう観ているだけで辛くて、しばらくはもう観たくないです……笑。しかしキャスト陣、緊迫の演出、巧妙な構成どこをとっても、超一級の名作だと思います。

 

恋するリベラーチェ (6月23日 鑑賞)

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舞台は70年代。豪華絢爛な衣装と演出による奇抜なパフォーマンスで人気を博していたピアニスト、リベラーチェ。田舎育ちの青年スコットはとあるきっかけで彼と出会い、親密に付き合うようになる。それまで孤独な生涯を送ってきた二人は、やがてお互いに深い愛情を抱くようになり、恋人として一緒に暮らすようになる。幸せな日々は、いつまでも続くように思われたが……。

大ヒットした『オーシャンズ』シリーズで知られる巨匠スティーブン・ソダーバーグが手がけた傑作テレビ映画。エミー賞では15部門においてノミネートされ、作品賞、主演男優賞(マイケル・ダグラス)を含む11部門を受賞しました。

とにかくマイケル・ダグラスの演技が素晴らしいです。今まで観た中では一番好きでした。全編、見事な構成で面白かったですが、特にクライマックス〜ラストの展開そして演出は、実話ならではの胸に迫る素晴らしさでした。

 

 

おわりに

以上、先月鑑賞した映画の中から、特に面白かった7本をご紹介しました。

母数が33本で、そのうちの7本だから、だいたい4分の1くらいの打率、ということになりますね。低くない?と思えなくもないですが「特に面白かった、いつかまた観たい」なので、それくらいのものかなと思います。たぶん。

いま現在も、私は映画漬け生活の真っ最中ですので、おそらく「7月編」も書けると思います。ただ、書けるのはもちろん7月が終わってからなので、投稿は来月に。来月(つまり今月の分ですね、ややこしい)も乞うご期待。

それでは皆様も、充実した映画ライフ(…?)を。

P.S. おすすめの作品などあったら、ぜひ教えてください!

80年代の「ムーンライダーズ vs. サザンオールスターズ」

 

 

サザンとライダーズ、その相似と相違

前回まで「80年代のムーンライダーズ」と題し、日本有数のオルタナティブロック・バンド、ムーンライダーズが80年代に発表したアルバム全六作を、時系列に沿ってご紹介しました。その執筆中、ふと思い出したバンドがあります。サザンオールスターズです。

ムーンライダーズは1986年、デビュー10周年イヤーの活動を終えたのちにバンドとしての活動を休止しました。実はサザンオールスターズもまた、前年にあたる1985年に活動を停止しているのです。タイミングとしては、ほとんど一致していると言っても過言ではありません。

この二組には、その他にも数多くの共通点が存在しています。二組ともメンバーは6人、洋楽を意識した日本語ポップスを手がけているという点も共通していると言えるでしょう。結成・デビューにおいても、結成はライダーズが75年/サザンが74年、デビューはライダーズが76年/サザンが78年と、ほぼ同時期です。

このように共通項の多い二組ですが、もちろん相違点もまた少なくありません。その最大のひとつが「ヒットソングの存在」でしょう。デビュー以来、数え切れないほどのヒット曲を量産してきたサザンに対し、一部のファンに「ヒット曲のないバンド」とまで言われてしまうライダーズ。今もなお活動を継続している二組ですが、40年以上に及んだそれぞれの道のりは、ある種の「パラレル」と言えるものだったかもしれません。

今回は、1980年〜活動休止までの二組のディスコグラフィーの中から各年一曲ずつ選出、その音楽性を比較することで、二組の間にある相似/相違を検証していきたいと思います。

 

 

1980年 (昭和55年)

ムーンライダーズ……アルバム『カメラ=万年筆』リリース

サザンオールスターズ……シングル「FIVE ROCK SHOW」、アルバム『タイニイ・バブルス』リリース

チャートにはザ・ポリスやThe B-52'sらが登場し、U2がデビュー、そしてレッド・ツェッペリンが解散した1980年。世界的なニューウェーブ・ムーブメントに呼応する形で、ムーンライダーズニューウェーブ/ダブ路線を本格的に志向。一方サザンオールスターズは、タレント活動を休止してレコーディングに専念する方針をとり、スタジオ・バンドとしての地位を確立しました。

 

大人は判ってくれない / ムーンライダーズ

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アルバム『カメラ=万年筆』における実質ラスト曲にして、ニューウェーブならではの単調な構成の中でもライダーズらしい渋カッコよさが炸裂している、アルバム随一の名曲。元ネタはフランソワ・トリュフォー監督による同名映画です。

 

わすれじのレイド・バック / サザンオールスターズ

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1980年2月発売の6thシングル『涙のアベニュー』以降、5ヶ月連続でシングルをリリースする企画「FIVE ROCK SHOW」を締めくくった10thシングル。アルバムには収録されませんでしたが、根強いファン人気を誇る隠れた名曲です。

 

 

1981年 (昭和56年)

ムーンライダーズ……シングル『エレファント』、企画盤『東京一は日本一』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『ステレオ太陽族』、シングル『栞のテーマ』リリース

第二期キング・クリムゾンが始動し、トム・トム・クラブ『悪魔のラヴ・ソング』がヒット、ジョイ・ディヴィジョンニュー・オーダーに生まれ変わった1981年。ムーンライダーズは前作に続いてダブを大々的に取り入れたシングル『エレファント』を発表、サザンオールスターズは今もなおファンに愛される人気曲『栞のテーマ』を発表しました。

 

エレファント / ムーンライダーズ

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アルバム『カメラ=万年筆』に続いてリリースされた、ニューウェーブ/ダブのテイスト全開のシングル(!)です。それでもマニアックになりすぎないポップセンスは気持ちよく、ソニーのCMソングにも採用された一曲。

 

栞のテーマ / サザンオールスターズ

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今もなおファンからの根強い人気を誇る、ロッカバラードの名曲。映画『モーニング・ムーンは粗雑に』の挿入歌としても知られています。洋楽のエッセンスを邦ポップへと昇華させる桑田さんのセンスが炸裂した一曲です。

 

 

1982年 (昭和57年)

ムーンライダーズ……アルバム『マニア・マニエラ』『青空百景』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『NUDE MAN』、シングル『Ya Ya』リリース

マイケル・ジャクソン『スリラー』、ドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』、マーヴィン・ゲイ『ミッドナイト・ラヴ』など、数々の名盤がひしめきあった1982年。ムーンライダーズはさらなる先鋭を極めた『マニア・マニエラ』を完成させるも発売中止の騒動に。サザンオールスターズはアルバム『NUDE MAN』で日本レコード大賞・ベストアルバム賞に輝きました。

 

くれない埠頭 / ムーンライダーズ

アルバム『青空百景』を締めくくる、キャリア屈指の人気曲。前衛的すぎてお蔵入りとなった『マニア・マニエラ』に代わるべく動員されたポップセンスが遺憾なく発揮されています。今もなお、ライブのラストを飾る定番曲となっています。

 

Ya Ya (あの時代を忘れない) / サザンオールスターズ

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アルバム『NUDE MAN』発売から三ヶ月後に発表された、言わずと知れたバンドの代表曲のひとつ。しかし意外なことに、オリジナルアルバムには未収録となっています。マツダMPV」のCMソングとして使用されました。

 

 

※1983年はムーンライダーズのリリース作品が存在しないため省略。

 

 

1984年 (昭和59年)

ムーンライダーズ……アルバム『AMATEUR ACADEMY』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『人気者で行こう』、シングル『Tarako』リリース

プリンス、フィル・コリンズシンディー・ローパー、マドンナ、カルチャー・クラブワム!など、80年代を代表するアーティストらがチャートを席巻した1984年。ムーンライダーズはレコーディングに500時間を費やした傑作『AMATEUR ACADEMY』を発表、サザンオールスターズは海外進出も視野にロサンゼルスでレコーディングされた異色作『Tarako』を発表しました。

 

B.B.L.B. (ベイビー・ボーイ、レディ・ボーイ) / ムーンライダーズ

アルバム『AMATEUR ACADEMY』のラストを飾った一曲。ムーンライダーズならではの凝ったメロディー構成が秀逸な名曲です。歌詞では、幼児退行や女装癖をもった男の心情が「幸せなんて人それぞれ」と謳われています。

 

ミス・ブランニュー・デイ / サザンオールスターズ

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認知度・完成度ともに、バンドの最高傑作のひとつと言えるでしょう。本来シングルカットされる予定だった『海』と直前になって差し替えになり、急遽リリースされたというエピソードが知られています。

 

 

1985年 (昭和60年)

ムーンライダーズ……アルバム『ANIMAL INDEX』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『KAMAKURA』リリース、メンバーソロ活動へ

豪華な顔合わせが話題になった「USA for Africa」や、20世紀最大のチャリティーコンサート「ライヴエイド」など、音楽による慈善活動が大きな高まりを見せた1985年。ムーンライダーズは、形態としての「バンド」解体の頂点ともいえる『ANIMAL INDEX』を発表。サザンオールスターズは、最高傑作とも称される二枚組『KAMAKURA』の発表後に活動を停止、各々のソロ活動へと移行しました。

 

悲しいしらせ / ムーンライダーズ

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アルバムの幕開けを飾った一曲。不良のような言い回しが印象的な歌詞は、同年に亡くなったタレント・たこ八郎氏に捧げられたもの。また、斉藤由貴さんのアルバム『AXIA』へのアンサーソングとしても知られています。

 

Computer Children / サザンオールスターズ

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バンド史上最大の充実作かつ野心作として知られるアルバム『KAMAKURA』のオープニングを飾った一曲。YMOのサポートも務めた藤井丈司をプログラマーに迎え、バンドとしての新たなサウンドを打ち出した一曲です。

 

 

1986年 (昭和61年)

ムーンライダーズ……デビュー10周年、アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』リリース

KUWATA BAND……アルバム『NIPPON NO ROCK BAND』リリース

ザ・クラッシュワム!、プリンス&ザ・レボリューション、カルチャー・クラブなど、人気バンドの解散・活動休止が相次いだ1986年。ムーンライダーズはデビュー10周年を迎え、キャリアの集大成に相応しい記念ライブや、ビデオ/シングル/アルバムのリリースなど活発な活動を展開。サザンオールスターズの活動を休止した桑田佳祐は、一年間限定の活動として「KUWATA BAND」を結成しました。

 

夏の日のオーガズム / ムーンライダーズ

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バンド初の12インチ・シングルとして発表された一曲。ライダーズならではの「ひねくれポップ」の名曲であり、バンドを代表する傑作のひとつと言えるでしょう。シングルのB面には隠れた人気曲『今すぐ君をぶっとばせ』を収録。

 

BAN BAN BAN / KUWATA BAND

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KUWATA BANDとしてのデビュー・シングルとして発表された一曲。サザン時代にはあまり見られなかった、リバーブを多用した「THE 80年代」なサウンドが印象的な一方、美しいコーラスワークはやはりサザンを想起させます。

 

 

ライダーズ、サザン、80年代の音楽

五年分のディスコグラフィーを比較してみて、この時代の第一線を突き進んだムーンライダーズ、対して最先端のサウンドよりも普遍的なポップスを追求したサザンオールスターズ、という印象を感じました。ライダーズとサザン、バンドとしての性格を考えても「既存概念の解体」をコンセプトとした80年代のムーブメント/サウンドと相性がよかったのは、やはり捻くれ者のライダーズであり、サザンのエバーグリーンなポップセンスとは相入れにくかったのではないでしょうか。

とはいえ、サザンの『KAMAKURA』は80年代のオルタナティブを大胆に取り入れた問題作であり、同時期のライダーズにも匹敵する捻くれっぷりといって過言ではありません。その直後、二組がほぼ同時に活動を停止したことは興味深く、やはり『KAMAKURA』そして『DON'T TRUST OVER THIRTY』の二作は、80's邦楽オルタナティブにおける最高到達点であり、かつ臨界点であったと言えるのではないかと思います。その後、活動休止から復活を遂げた二組のキャリアは90年代へ突入。業界全体の変化とともに、バンドはさらなる「進化」を遂げることになるのです。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。見込みがついたら、90年代編も書いてみたいと思います。