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今すぐに観られる『世にも奇妙な物語』名作5選!

ドラマ『世にも奇妙な物語』すぐ観られる名作をご紹介!

1990年の放送開始以来、30年以上にわたって支持されてきた人気オムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』は、その唯一無二の内容で数々の傑作短編を生み出してきました。しかし、映像ソフトや配信サービスで鑑賞することができる作品は、その膨大な作品群の中でもごく一部に限られています。今回は、配信サービス/DVDで鑑賞可能な作品の中から、おすすめの名作5選をご紹介します!

 

 

 

日本有数のオムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』とは?

日本を代表するオムニバスドラマとして知られる『世にも奇妙な物語』は、1989年に制作された深夜ドラマ『奇妙な出来事』を前身として、1990年に放送を開始しました。アメリカの大ヒットSFドラマ『ミステリーゾーン』を下敷きとした不可思議な内容は日本ドラマ界でも唯一無二であり、放送開始から30年以上を数える現在もなお、他に類を見ないドラマとして人気を博しています。

その物語の数々は、身も凍るような怪異譚からホロリとさせられる感動話まで幅広く、短編ならではのイマジネーションに溢れた数々の名作が生み出されてきました。作品ごとに主演を務める豪華なキャスト陣も、オムニバス形式ならではの見どころと言えるでしょう。世代を問わぬ魅力から幅広い層の支持を受け、今や長寿番組となった『世にも奇妙な物語』ですが、その30年以上にわたる歴史の中で制作されてきた過去作のほとんどは配信/ソフト化されておらず、視聴が難しい状況となっています。

 

どうして過去作がソフト化/再放送されないの?

ドラマ『世にも奇妙な物語』は根強い人気を誇りながらも、現在そのほとんどの作品が視聴困難となっています。その要因としては、いくつかの事情が挙げられます。

ひとつは、制作会社の問題です。シリーズ初期のレギュラー放送時代、本番組は一時間の枠を三本の短編で構成する形で毎週放送されていました。短編といってもドラマ制作に変わりはないので、実質として三倍のスタッフ・キャストが必要になります。結果、フジテレビによる自社制作だけでは間に合わず、外部の映像会社が制作を担当する回が少なくありませんでした。

このために生じた権利問題から、本作はソフト化/配信が困難な状況となっています。再放送に関しても制作会社の合意が必要となるため(担当した会社がすでに倒産しているケースもあり)容易ではないのです。

また、出演者の問題も要因のひとつです。本作はオムニバスという構成のために毎回キャストが変わるため、特定のエピソードが出演者の所属事務所の意向により再放送/ソフト化が見送られる、というケースが少なくありません。そのうえ構成上、一回で放送される三話/五話のうち一話でも制限がかかってしまうと、その放送回ごとお蔵入りになってしまう可能性が高いという事情もあります。

このように、オムニバスドラマならではの都合によって『世にも奇妙な物語』は現状、配信やソフト化ならびに再放送が難しい状況になっているのです。

 

 

配信/DVDで観ることができる名作5選!

現在、配信や映像ソフトで鑑賞できるエピソードはごく一部ですが、その中には番組の歴史に残る傑作も少なくありません。ここからは、今からでも手軽に視聴することができる『世にも奇妙な物語』の名作5本を紹介していきます!

 

『プリズナー』(1991年 第19回)

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恐るべきビデオテープの都市伝説に取り憑かれた青年の末路を描く怪異譚

出演:高橋一也竹中直人 脚本:戸田山雅司 演出:星護

(フジテレビ・オンデマンドにて有料配信中)

レンタルビデオ店を片っ端から巡っていた青年・秀夫(高橋一也)が探していたのは、ある一本のビデオテープだった。東欧で秘密裏に制作された『プリズナー』という名の幻のビデオを、秀夫はある店でついに発見する。家に帰って再生すると、映し出された男(竹中直人)が画面越しに語りかけてきた……。

ビデオテープを巡る都市伝説がテーマという点で、この後に刊行された大ヒット小説『リング』を彷彿とさせる一編。ちなみに『リング』の発刊は1991年の6月、この作品の放映からおよそ四ヶ月後のことでした。本作の魅力はなんといっても、ビデオテープの中に広がる異空間を見事に体現した星監督のセンスあふれる演出。そして、その不気味な世界観に説得力を与える竹中さんの怪演も見どころです。巧妙なラストシーンも含めて、高い人気を誇る作品です!

 

『ルナティック・ラブ』(1994年 冬の特別編)

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邦画界を代表する鬼才が手がけた、豊川悦司の狂気が光るサイコ・サスペンス

出演:豊川悦司、ちはる 原作/脚本/演出:岩井俊二

(DVD『世にも奇妙な物語 DVDの特別編1』収録)

僕(豊川悦司)はある日、恋人の紀子(ちはる)が他の男と関係を持っていることを知る。僕は紀子の友人に接触し、相手の男の正体を探っていく。そして、ある満月の夜。紀子の家の前で待ち伏せしていた僕の前に、あの男を連れて紀子が現れた。僕の怒りは頂点に達し、感情のままに紀子の家のベルを鳴らした……。

今や日本映画界を代表する監督のひとりとなった鬼才・岩井俊二が演出を担当、豊川悦司の怪演とも相まって独自の世界観が炸裂した一編です。こうした強烈な作家性をテレビドラマの枠の中で実現できるのも、オムニバスの醍醐味のひとつだと思います。登場人物は少なくシンプルなストーリーですが、最後には衝撃的な結末が待ち受けています。まるで一本の映画を観たような満足感を味わうことが出来る、個人的にもオススメの作品です!

 

『女は死んでいない』(1997年 秋の特別編)

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取調室に届いた謎のメッセージ、豪華キャストによる緊迫感あふれるサスペンス

出演:杉本哲太大杉漣 原作:渡辺浩弐 脚本/演出:落合正幸

(DVD『世にも奇妙な物語 DVDの特別編2』収録)

銀行強盗の大阪(杉本哲太)は、駆けつけた警察の目をかいくぐり何とか裏口から脱走したものの、そこでひとりの女性職員と鉢合わせてしまう。大阪は職員を刺殺し、咄嗟に目撃者のふりをして切り抜けたが、警察の取り調べを受けることになる。担当刑事(大杉漣)との息詰まる駆け引きの中で、大阪が持っていた暗号交換用のポケベルが鳴った……。

なんといっても、杉本哲太VS大杉漣の緊迫感あふれる演技合戦が見どころの一編。さらに脇役陣にも六角精児、田中哲司木村多江など、今となっては主役級の豪華な面々が揃っています。シリーズ最多の演出作を誇る落合正幸が手がけた本作は、緊迫の強盗シーンから始まり、サスペンスフルな尋問シーン、さらに暗号解読の謎解き要素も含みつつ、最後はやはり「奇妙」な結末を迎える……という、ある意味シリーズとしての最高到達点とも言える、充実の一編です!

 

『雪山』(2000年 映画の特別編)

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映画ならではの壮大なスケールで描かれた「シリーズ史上最恐」のホラー作

出演:矢田亜希子鈴木一真 脚本:鈴木勝秀 演出:落合正幸

(DVD『世にも奇妙な物語 映画の特別編』収録)

海外旅行を終えて帰路に着いた美佐(矢田亜希子)だったが、旅客機が雪山に墜落。生き残ったのは美佐と友人の麻理を含めた五人だけだった。一行は地図を頼りに、数キロ先の山小屋へと向かう。途中、一行は怪我のせいで歩けなくなった麻理を「必ず迎えに来る」と説得し、置き去りにしてしまう。ようやく山小屋を見つけ、美佐はすぐに麻理を助けに向かったが……。

2000年、番組の10周年を記念して制作された『映画の特別編』の中の一編であり「シリーズ史上最恐」の呼び声も高い一編。映画監督としても多くのホラー映画を手がけた落合監督の巧みな演出、そして衝撃的なラストが強烈な余韻を残す名作です。崩壊した旅客機を含め、雪山の光景はすべてセットとしてスタジオ内に組み上げられたもので、塩と片栗粉を混ぜて作られた14トン分の人工雪が用いられたそうです。まさに映画でなければ実現不可能なスケールですね!

 

『BLACK ROOM』(2001年 SMAPの特別編)

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シリーズ屈指の異色コメディ、シュールな会話劇の果てに呆然必至の衝撃展開

出演:木村拓哉樹木希林志賀廣太郎 脚本/演出:石井克人

(DVD『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』収録)

アメリカに留学中のナオキ(木村拓哉)は三年ぶりに帰国、両親を驚かそうと何も伝えないまま実家に帰ってきた。しかし、辿り着いた実家はだだっ広い真っ暗な空間に様変わりしていた。再会した両親(樹木希林志賀廣太郎)に何があったのか問いただすナオキだが、話を逸らされ一向に会話が噛み合わない。苛立つナオキ、その時「事件」は起こった……。

2001年の元旦に放送された『SMAPの特別編』では、各話の主人公をSMAPの面々が演じ、大きな話題を呼びました。本作で主演を務めたのは木村拓哉、シリーズとしては四度目の主演です。両親役の樹木希林志賀廣太郎との絶妙に噛み合わない会話はあまりにシュール、さらにクライマックスの衝撃的などんでん返しも含め、コメディ編としてもシリーズ屈指の人気を誇る傑作です。その独特な映像世界は、CMディレクターとして知られる石井克人によるもの。

 

 

ドラマ『世にも奇妙な物語』には他にも名作が多数!

いかがでしたか?今回ご紹介した他にも『世にも奇妙な物語』には数々の名作が存在しています。ソフト化/配信されている中では、衝撃的な結末から今なお根強い人気を誇る傑作『懲役30日』や、主演を務めた菅野美穂さんの怪演が光るホラー編『私は、女優』、予想外の結末に思わず「社会とは何か」考えさせられる人気作『13番目の客』などが挙げられます。興味のある方は、ぜひこちらもチェックしてみてください!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

2日間で『ゴーストバスターズ』シリーズを完全制覇した話。

高校時代の友人から映画に誘われた

先日、ある友人が久しぶりに連絡をくれた。届いたメッセージは「今度、映画でも観に行かないか」というお誘いであった。この時流ということもあって久しく会えていなかったから嬉しく、二つ返事で賛成、幸い日取りもスムーズに決まった。

続いて「何の映画にしようか」という話になった。そこで、友人に「オマエ映画好きじゃん、おすすめは?」と訊かれてしまった。

 

この質問、実はけっこう「難しい」質問だったりする。

 

世の中にはいろんな映画がある。転じて「映画好き」にも、いろんな奴がいる。一般的な「映画好き」というのは文字通り「映画が好きな人」のことで、アクションでもサスペンスでもホラーでもファンタジーでも、満遍なく楽しむことができる人である。そういう層にとって映画は「楽しませてくれるもの」であり、この認識は世間一般の「映画を好きでも嫌いでもない人」と、ほとんど同じものだと言えると思う。

その一方で、若干「こじらせている」映画好きというのがいる。この層にとって映画は「楽しませてくれるもの」というよりも、ある人達にとっての音楽とか宗教がそうであるように、不条理な現実世界からエスケープするための「安息の地」であり、楽しく生きるために必要不可欠な「自分なりの居場所」だったりする。

愛情と呼ぶには重すぎる”偏愛”を携えた「こじらせ系」の主だった特徴としては、好きな映画として挙げるのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』等々ではなく、総じてどうかしている作品ばかり(すなわち、トリアーだのズラウスキーだのホドロフスキーだの)というのがある。彼らは「変わった奴だと思われたい」からそういう映画をフェイバリットに挙げるのではなく(そういう自意識が全く無い……とは言い切れないが、それよりも)そういった歪んだ世界にしか安息を感じられない人種なのである。どうして言い切れるかといえば、かく言う私もまた「こじらせ系」の一人だからである。ちなみに私の「安住の地」は、カルト映画の帝王デイヴィッド・リンチによる『ツイン・ピークス』の赤い部屋だ。実は、この文章を書いているパソコンのデスクトップも、赤い部屋の写真にしている。実質、作業中/執筆中の私はいつでも「赤い部屋」にいるのである。正気を失うのは時間の問題だ。

 

こういうタイプに「おすすめ映画」を聞いても、何の参考にもならない。映画に対するそもそもの認識が異なるからだ。しかし如何せん、音楽ならまだしも映画好きに「こじらせ系」のパターンがあるということがあまり認知されていないので(結構、深刻な相違だと思うのだが)なかなか解ってもらえない。と言っても仕方がないので「こじらせ系」は、ちゃんと自分が面白いと思える範囲の中で、それなりに一般寄りの一本を「おすすめ用」として常時、脳内にストックしておく必要がある。私はいつも『ユージュアル・サスペクツ』と言っている。

これはもちろん、今回のように「新作を観に行く」パターンでも同じだ。下手に「これが観たい」と素直に選んでしまうと、選出者として当日とんだ地獄を見ることになる。作品を推す時は、まず自分と相手の間に「映画に求めるもの」についてギャップがあるということを認識しておく必要があるのだ。

 

というわけで、どの映画が良いだろう……と考える前に、そういえば最近映画館に行く機会がなかったせいで、いったい何が上映されているのか全然わからない。そこで調べてみると……現在のラインナップ、やたらシリーズものが多い印象。スパイダーマン、呪術廻戦、キングスマン、そしてゴーストバスターズ。複数人で何も考えずに観られそうな映画は、ほとんどがいずれかのシリーズの続編とか前日譚とかで、一応はじめて観る人にも配慮はしてくれているのかもしれないが、やっぱり一本こっきりで楽しめる映画が良いよな〜、と悩んだ。実際、観に行く日取りは二日後に迫っていたから、予習している暇はなさそうだった。

その他は……例えば『コーダあいのうた』とか『ドライブ・マイ・カー』はちょっとシリアスすぎるし、アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ』は映画好きとしてはビンビン来るがさすがに気取りが過ぎるだろう。実は観たことないのだが『ウエスト・サイド・ストーリー』は悲しい話らしいし、友人はガチのホラーが無理なので『牛首村』は怒られる。

というわけで実質、トム・ホランド主演の『アンチャーテッド』一択であった。しかし、選択肢がないというのはやっぱり寂しいので、シリーズものの中で一番どうにかなりそうな『ゴーストバスターズ』も併せて、その二本を提案した。実のところ『ゴーストバスターズ』は一度も観たことがなかったのだが、なんかこう『ジュラシック・パーク』みたいな感じで(過去作の知識があるに越したことは無いのだろうが)一応楽しく観られるのではないか、という読みであった。

いろいろ相談した結果、観に行くのは『ゴーストバスターズ』に決まった。

 

 

 

映画好きでも『ゴーストバスターズ』完全スルーだった私

正直『アンチャーテッド』かな〜と思っていたから、思いの外だった。決めた理由は、映画レビューサイトを見た時に『ゴーストバスターズ』の方がレビュー数が多かったから、という安直きわまりないものであった。とはいえ、二人とも全然知らない映画を並べて比較検討しているのだから、こっちの方がレビューが多い、くらいの理由しか決め手がないのだ。

半分くらいは「完全初見でもまあまあ楽しめるだろ」と開き直っていた私だったが、いざ本当に観に行くという段になると、前知識ゼロで観に行くのは何だかとても勿体なく思えた。せっかく観に行くのだから、やっぱり予習はしておきたい。そう考えるとシリーズを一本も観ていないというのも、むしろこの機会に鑑賞するには都合が良いように思えてきた。

 

私は映画好きを自称しているが、この『ゴーストバスターズ』のように、ド定番にも関わらず観損なっている作品というのも少なくない。これって結構、映画好きあるあるだと思う。映画好きなんです、と言って「そうなんですね!私『〇〇』が好きで〜」と定番映画の話題を振られて「あ、それはちょっと観てなくて……」と答えた時の、あの気まずい空気。向こうとしては一番捕らえやすいであろうボールを投げたつもりが、なぜか相手の顔面に直撃してしまった、というような居心地の悪さ。しかし「なんだ、ニワカじゃん」などと言われてしまうのはちょっと癪なのだ。これにもやはり、事情があるのである。

先程の「映画好きにも種類がある」という話と重なるのだが、一口に「映画」と言ってもいろいろな作品があるし、それを観る人にもそれぞれの嗜好がある。初めこそ何も分からず、とにかくいろんな映画を観漁ることになるが(私は高校時代にこれを経験し、一日四〜五本ペースで観たりしていた)その過程の中で、だんだんと自らの「嗜好」が解ってくる。好きなジャンル、好きな俳優、好きな監督……こういうものは好きでこういうものは苦手、といった具合の知識というか知恵が身についていくのだ。すなわち一般的に、いわゆる「定番映画」に触れるのは最初の「ビギナー」時期のみであり、本格的に映画にのめり込んでいくとそういうものはほとんど観なくなるのである。その代わりに自分の「嗜好」を追求するようになり、マニアックな映画ばかり観るようになるのだ。

つまり、映画好きの「どうしてこの人は映画に詳しいのに、これ観ていないんだろう」というのは、多くの場合「今さら観ても仕方がないから」という理由によるものだ。実際「そういえばコレ、まだ観てないよな……」と、映画好きとしてのプライドに焚き付けられ観たところで、面白いとは思えども「好きになる」ことは滅多にない。単純に知識は増えるし、定番映画はやはり面白いので勉強にはなるが、純粋に映画を楽しむというより「義務的」な感じになってしまうのは否めない。結果、やはりマニアックの方向へと邁進することとなり、ど真ん中はすっからかんで辺縁の方にやたら熱心という、いわば映画版「ドーナツ化現象」的な状況が生まれるのだ。これから先「この人、映画好きって言ってるけど……」という場面に遭遇したら「ドーナツ化現象みたいなやつだ」と、納得していただきたい。

というわけで、やはり映画を観始めた時期に縁がなかったために『ゴーストバスターズ』完全未鑑賞だった私であったが、これ以上の機会はないのではないかと思い立ったら、ここ最近くすぶっていた「映画愛」に火が点いた。調べてみると、シリーズの過去作は全部で三本。三本くらいだったら一日あれば観れる、というまさに高校時代ばりの大胆(かつ無責任)な計算のもとに、新作の鑑賞を明後日に控えながら近所のレンタルビデオ店に直行、中学生時代に映画にハマってから一度も沸き起こることのなかった『ゴーストバスターズ』熱に突如うかされ、私は新作鑑賞の前日まる一日を使ってシリーズ全三作をぶっ通しで観たのだった。以下、その簡単な感想。

 

第一作『ゴーストバスターズ』(1984)


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記念すべきシリーズ第一作であり、社会現象を巻き起こした大ヒット作。主人公ピーター(ビル・マーレイ)のやたら軽薄なキャラクター、けっこう濃厚なオカルト要素を取り入れたストーリー、そして意表を突くラスボス(巨大化した〇〇)など、今観ても新鮮なアイデアがふんだんに盛り込まれた名作。はじめて観たけど面白かった。この後の続編も含めて『ゴーストバスターズ』の肝のひとつはピーターのキャラクター等々に見られる「ちょっとスカした」ノリなのだと感じる。不意のクライマックスには、ちょっとジーンと来てしまった。

 

第二作『ゴーストバスターズ2』(1989)


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前作から五年を経て制作された続編。シングルマザーとなったディナが働いている美術館で、修復中だった名画に宿った悪霊が「新たな肉体」としての赤ん坊を求めて目を覚まし……という時点で物語の三分の二くらいは予感できてしまう。ストーリーのおおまかな筋書きは前作とほぼ同じでありながら、やはりひとつひとつのアイデアがユニークで楽しかった。特に前作のラスボスに対応する形で登場する〇〇のシーンは前作を超えるバカバカしさで、妙な感銘さえ受けた。間違いなく、このシリーズで一番笑ったシーンである。

 

第三作『ゴーストバスターズ』(2016)


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前作から27年ぶりとなった新作だが、厳密に言うと「第三作」ではない。完全新キャスト(メインキャストは全員女性)で制作された、第一作のリブート版である。もともとはオリジアルキャストによる完全新作として企画されていたようだが、スペングラー博士役のハロルド・ライミスの死去によって続行不可能となってしまったらしい。制作陣も一新して制作された本作であったが、旧作と比較すると作風は大きく変化し、件の「ちょっとスカした」ノリもいまいち感じられない仕上がり。これが現代風、と言えるのかもしれないが、やっぱり旧作の方が好きだ。シリーズ恒例の意表を突いた演出にも欠ける印象。

 

 

そして『ゴーストバスターズ/アフターライフ』を観に行った

そして翌日。つい二日前まで『ゴーストバスターズ』のゴの字も知らなかった男は、たった一日でちょっとしたファンになっていた。時間で言えば約38年くらいを一日で駆け抜けたわけだが、日の最後に観た2016年版の改変ぶりに軽い憤りを覚えるくらいには、シリーズへの思い入れが芽生えていた。

劇場で友人と合流し、チケットを購入した。シアターはわりと空いていた。座席に座って、過去作を昨日一日で全部観たことを友人に伝えると、スゲーな、としばし笑われた。それで終わった。基礎知識とか聞いてもらえたら「これはこうこうでね」などと、知識自慢なんか出来て予習もひとまず報われたのだが、そういうことは特になかった。

ちょっと寂しい気持ちでいたら、上映が始まった。

 

現在も上映中なので、ネタバレを伏せた上で簡単な感想を。

思っていたよりも、結構シリアスなお話であった。およそ30年越しくらいにオリジナルのゴーストバスターズの「その後」が描かれたわけだが、かなり切ないことになっている。あれから五年後、のテロップで幕が開き、あの面々はオカルト書店の店長超常現象番組の司会に転身していた……という第二作とは、えらい違いであった。やはり30年の流れは重い。

第一作の流れを忠実になぞった(シリーズの恒例とも言える)ストーリーは、第一作の内容にもがっつり踏み込んでいて「なぜディナのマンションにゴーザの神殿が出現したか」という謎の真相をも含みながら、あくまで新しいキャラクターの物語を中心に、盛りだくさんの内容となっている。オリジナルキャストは(俳優業を引退したリック・モラリスを除き)もちろん全員が再登場。ならば「あの人」はどうやって出てくるのか……というのが、本作最大の見どころ。暴れ回るゴーストのどんちゃん騒ぎはもちろん健在なのだが、全編どこか物寂しさが漂う物語であるだけに……あのドラマティックなクライマックスは、とても胸に迫った。平易な表現だが、とても良い続編であった。

 

これから『ゴーストバスターズ/アフターライフ』を観る方へ

最後に、今から最新作を観に行く予定のある方にアドバイス……というほど大層なものではないが、お伝えしたいことをいくつか記しておく。

 

①予習はしておいた方がいい(一作目だけでも)

友人は予習ゼロの状態で観ていたのだが、隣にいながら「これ伝わってるかな」という老婆心でヒヤヒヤしてしまったシーンがいくつかあった。思っていたよりも、過去作にまつわる説明のシーンは少なかった印象だ。そのおかげでテンポは非常に軽快なのだが、やはりシリーズの概要は把握しておいた方が良いように思う。言及されるのは(ほぼ)第一作の要素だけなので、第一作だけでも観ておいたら理解度は格段に上がって、より楽しめるはず。そんなに長くないし楽しく観られる映画だから、ぜひ鑑賞しておくことをオススメする。

 

……あ、まずい。ひとつしか思いつかない。単に「予習はいいぞ」と(友人に出来なかったぶん)自慢しただけ……というか当たり前のことを書いただけの項になってしまった。

というわけで、つまりそれくらいには何も考えなくとも、準備ゼロの飛び込みでも楽しめる映画だということ。30年前と比べればCG技術は脅威的な進化を遂げていて、ゴーストも(生霊っぽいとかいう意味ではなく)リアルで大迫力、久しぶりにとても「映画らしい」映画を観て、映画館ならではの満足感を味わうことが出来たのであった。いい一日だった。

 

ちなみに、開演前のロビーに『呪術廻戦』のポスターがあって「これも良いかなと思ったけど、シリーズものだもんね」と何気なく言ったら、友人が「これは前日譚だから、あんまり知らなくても大丈夫だと思うよ」と言うので、思いがけず盛り上がって今度また観に来ようという話になった。調べてみたら、現時点で18巻出ているらしい。うむ、何日かかるかな……って読むつもりか俺。

プリンスの『Little Red Corvette』が好きすぎた男の末路。

人生の中で「特別な曲」と呼べるほど大好きな一曲だけを特集する「好きすぎた男の末路」シリーズ、大好評(?)につき第二弾です。今回ご紹介するのは80年代屈指の天才アーティスト・プリンスによる、数あるヒット曲のひとつにして代表作『Little Red Corvette』です。

 

 

 

はじめに 〜『Little Red Corvette』とは

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プリンスの代表曲のひとつとして知られる『Little Red Corvette』は、1982年に発売された5thアルバム『1999』からのセカンドシングルとして発売され、当時のキャリアにおける最高位となるチャート成績を記録しました。

ドラムマシンの元祖として知られる「Linn LM-1」を効果的に用いたビートに乗せて、炸裂するプリンスならではの官能的で激情にあふれたボーカル。ギターソロを務めたのはリサ・コールマンとデズ・ディッカーソン、後にプリンスのバンド「Prince & The Revolution」のメンバーとなる面子です。プリンスがギターソロを担当しなかった例は珍しく、アルバム『1999』収録曲の中でも唯一です。

大ヒットを記録した楽曲ですが、歌詞の内容は非常に「けしからん」ものとなっています。コルヴェットとはアメリカの自動車メーカー・シボレー社のスポーツカー・ブランドであり「小さな赤いコルヴェット」とは、とある女性を喩えた表現です。その「コルヴェット」に「君は速すぎるよ、もっと落ち着いて『愛』を見つけるべきだ」と諭しながら、やっぱりその「ボディ」に魅了されていく主人公……というのが歌詞の概要。その大部分は、性愛にまつわる描写で占められています。

ジャケ写でもライブでもやたらと服を脱ぎ、露骨なパフォーマンスを繰り広げていた80年代プリンスの楽曲には多く見られる「曲はポップなのに歌詞がエロい」パターンのひとつです。しかしこの曲を含め、それでもヒット曲を連発したキャリアを振り返ると、そのバランス感覚の凄さが改めて感じられます。

 

 

いろいろな『Little Red Corvette』を集めてみた

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というわけで今回は、年代・アレンジ・歌い手を越えて、ありとあらゆる『Little Red Corvette』を集めてみましたので、ご紹介します。さて、皆さんの一番好きな『Little Red Corvette』は、どのバージョンでしょうか。全部同じでは?という見解は、認めません。

 

01. Little Red Corvette (Official Music Video)

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1983年、リリース当時に制作されたミュージック・ビデオ。プリンスとしては『1999』に続く、MTVで放映された二作目のMVにあたります。内容も『1999』と同じく、ライブ演奏の模様を収録したものです。暗めの照明効果が、楽曲の世界観とマッチしていて素敵です。

それにしても、紫のラメ入り衣装なんて着こなせるのはプリンスくらいでしょう。ビデオとしてのシューティング前提だからか、ステージ上での暴れっぷりは普段よりも控えめですが、マイクスタンドのちょっとしたアクションだけでもめちゃくちゃカッコいいのが流石。

 

02. Little Red Corvette (Special Dance Mix)

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12インチ・シングルとして発売された際のロング・バージョンです。フル・レンジ・バージョンと表記されることもあります。アルバム・バージョンではフェードアウトで締めくくられていた、その続きを聴くことができます。長らくシングルLPのみの収録でしたが、2006年に発売されたベスト盤『Ultimate』で、初めてCD化されました。

80年代といえば「12インチ・シングル」の時代、プリンスも例外ではありません。12インチは「エクステンデット版」などの名前でロング・バージョンが収録されるケースが多いですが、プリンスの場合はその度合いが尋常でない時があり、アルバムでは4分くらいだったのが22分くらいになったという曲もあります。プログレか。

 

03. Little Red Corvette (Live at Syracuse 1985)

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1985年3月、プリンス&ザ・レボリューションのライブツアー『Purple Rain Tour』のニューヨーク公演として、シラキュースのキャリア・ドームで行われたライブでの演奏。

当時『Purple Rain』の大成功で人気絶頂だったプリンス。このライブは映像化され、プリンス初のライブ・フィルムとしてビデオ/レーザーディスクで発売、その後2017年に発表されたアルバム『Purple Rain』のデラックス・エディションで、初めてDVD化されました。長ーーいイントロが心地よく、対して後半のキレっぷりが最高にカッコいいです。

 

04. Little Red Corvette (Live in Utrecht 1987)

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1987年、のちに映画にもなった『Sign 'O' The Times』ツアーのステージ、そのオランダ・ユトレヒト公演でのライブ音源です。アルバム曲である『Play in the Sunshine』と『Housequake』の合間、あたかもブリッジのように短く演奏されるバージョンですが、この流すような控えめさが余裕を感じさせて、逆にカッコいい。映画で観ると、ピアノを演奏しながら客に歌わせるプリンスの笑顔が、ますますカッコいいです。

このライブはまさしく「プリンス全盛期」と言える素晴らしい内容なので、初心者の方にもおすすめの映画です。

 

05. Little Red Corvette (Live at Staples Center 2004)

一気に飛んで2004年。久しぶりにメジャー配給から発売、大ヒットを記録してグラミー賞にも輝いたアルバム『Musicology』発表後のツアー『Musicology Tour』で演奏された、アコースティックギターによる弾き語りバージョン。

コード進行がシンプルなので弾き語りが映えるこの曲、無数に存在するカバーも多くが弾き語りだったりするのですが、ここはやはり本人によるバージョンでご紹介します。それにしてもプリンスの弾き語りって本当カッコいいです。こんなバカでかい会場をひとつの楽器で演出できる人、そうそういません。

 

06. Little Red Corvette (Live at Montreux Jazz Festival 2009)

個人的には、これを紹介するためにこの記事を書いたと言っても過言ではないくらい、大好きなバージョンです。2009年、モントルー・ジャズ・フェスティバルに出演した際の演奏。シンプルな4ピースで出演したこのライブ、それぞれの即興パートもふんだんに盛り込んだ、ジャジーなアレンジが非常にカッコいいステージでした。

聴きどころは何と言っても、これでもかとばかりに炸裂するプリンスのギターソロ。楽曲として、シンプルでブルージーなこのバージョンこそ、完成形と言えるのではないかと思います。カッコよすぎ。

音源化はされていませんが、2021年に発売された未発表アルバム『Welcome 2 America』の特典ブルーレイ(2011年のライブ映像)で、同じアレンジのバージョンを聴くことができます。

 

07. Little Red Corvette (Covered by Mike Zito and The Wheel)

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他のアーティストによるカバーバージョンもご紹介します。まずは2014年に発表された「Mike Zito and The Wheel」によるライブでのカバー。シンプルなアレンジですが、楽曲の雰囲気を的確にとらえた、ブルージーでカッコいい名カバーだと思います。この曲のカバーとして「ありそうでなかった」サックスとの絡みが素晴らしいです。

Zitoは、ブルースロックバンド「Royal Southern Brotherhood」での活躍で知られる、アメリカ出身のミュージシャンです。ブルース畑らしい渋い歌声が、楽曲の世界観と見事にマッチしています。

 

08. Little Red Corvette (Covered by Sam Bettens)

ベルギー有数のコンサートホールとして知られる「Ancienne Belgique」にてSarah Bettensが披露したカバー。Bettensは「K's Choise」のリードシンガーとして知られており、当初は女性ミュージシャンとして活動していましたが、2019年に男性へと性別を変え、名前も「サラ」から「サム」に改名しました。

このライブは2008年頃に行われたもので、まだ声質も女性としての雰囲気が色濃いです。実はこの曲、女性のアーティストによるカバーは比較的少なく、こういう声で聴くとまた新鮮な印象を受けます。シンプルなアレンジも秀逸。

 

09. Little Red Corvette (Covered by Scott Hutchinson)

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2016年頃、イギリス・リーズの路上で披露された、Scott Hutchinsonによるカバー。アコースティックギターによる弾き語りで、フリートウッド・マックの代表曲『Dreams』とのメドレーアレンジになっています。ハスキーで魅力的な声質と、ギターの暖かい響きが見事に絡み合っています。でも最後まで見るところ、ギターは当て振り、ということでしょうか……。

Hutchinsonは、スコットランドのインディーズ・バンド「Frightened Rabbit」のメンバーとして知られていましたが、このパフォーマンスから二年後の2018年、突然の自殺によって36歳の若さでこの世を去りました。才能を感じさせる歌唱であるだけに、惜しい限りです。

 

 

おわりに 〜 要するに言いたいこと

さすがは大スターの代表曲、わりと渋めな曲調で、歌詞も際どい内容でありながら、国境や世代を越えて多くの人に愛されている一曲と言えます。この他にも無数のカバーバージョンが存在しているので、気になった方はぜひ。

プリンスによるパフォーマンスとしては、こうして振り返るといくつかの段階を経てきたのが分かります。リリース当初の音源に忠実なアレンジから、曲と曲を繋ぐブリッジ的に演奏されていた時期、あんまり演奏されなかった時期……それらを経て、あの「モントルー'09」以降のブルージーなアレンジが完成したのだと思います。約30年くらいかけて辿り着いた「完成形」と言えるのではないでしょうか。あれは本当に、もし聴いたことのないプリンスファンの方がいたら、絶対に聴いてほしい。プリンスファンでない人にも聴いてほしい。

 

つまり、今回の記事で私が言いたかったことは何かというと、

2009年の「モントルー・ジャズ」でのライブを、公式にリリースしてほしい!

ということです。そういう記事でした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

本城聡章が手がけた、ポップな筋肉少女帯セレクション!

突然、筋肉少女帯にハマった。

昨年の終わり頃、突然に筋肉少女帯にハマりました。昨年の私は、基本的におしゃれポップ系の洋楽(例:プリファブ・スプラウト、アズテック・カメラなど)を熱心に聴いていたのですが、ある出来事をきっかけに(詳しくはまた今度)音楽を聴くということについて考えるようになり、いろいろなジャンルを彷徨った挙句、落ち着いたのが筋肉少女帯でした。パディ・マクアルーンから大槻ケンヂへ、相当「彷徨った」ことが分かっていただけるかと思います。

 

筋肉少女帯の「ポップ」を担う本城聡章

筋肉少女帯といえば、一般的には「ハードロック」という印象が強いかと思いますが、実はさまざまなジャンルを横断する複雑な音楽性が特徴のバンドです。初期のプログレ路線、橘高文彦加入後のハードロック路線、それを踏まえた後期のポップ路線……と、メンバーの入れ替わりにも対応して、音楽性を柔軟に変化させてきました。

一般の認知度を含めて定番となったのは、結成から数えて22期目(!)となるメンバーラインナップです。ボーカルの大槻ケンヂ、ベースの内田雄一郎、ドラムの太田明、そしてツインギターとして橘高文彦本城聡章の2名。2006年の再結成以降は、太田さんを除く4名のラインナップで活動しています。

当初は作曲を担当していなかった本城さんでしたが、7thアルバム『エリーゼのために』以降、作曲クレジットに名を連ねるようになりました。その作風は、一言で言えば「ポップ」です。そのポップセンスは、それまでプログレ・ハードロック志向の濃厚だった筋少作曲陣に新たなテイストを吹き込みました。

サブカル色が強かった当時の筋肉少女帯に、本城さんの楽曲は大衆的な支持や企業タイアップを次々と呼び込み、バンドとしての活動方針にも大きく影響を与えました。こうして筋肉少女帯は、大槻ケンヂによる独特の詞世界に加えて「マニアックでありながらポップ」な音楽性によって、唯一無二の地位を確立することになりました。

 

 

本城聡章が手がけたポップな筋肉少女帯セレクション

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筋肉少女帯というバンドの「稀有な点」は、サブカルでありながら、ハードロックでありながら、技巧派集団でありながら、それでいてポップであるという懐の深さであると、聴くたびに感じます。そして、筋少の「ポップ系」楽曲を集めてみると、ものの見事に本城さんの楽曲がずらりと並び、改めて本城さんのポップセンスを感じさせるのです。

というわけで、本城さん作曲の筋少楽曲だけで「ポップな筋肉少女帯」プレイリストを作ってみました。あまり「らしくない」楽曲も含んではいますが、聴きやすさという点では、筋少入門としても楽しんでいただけるのではないかと思います。

 

01. トゥルー・ロマンス

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ポップな筋肉少女帯の「代名詞」とも言える楽曲。2006年の再結成ライブではオープニングで演奏されました。10thアルバム『ステーシーの美術』発売に先立ってシングルカットされ、テーマパーク「ナムコワンダーエッグ」がCMソングに起用。東京スカパラダイスオーケストラも参加した華やかなアレンジが、祝福感にあふれた楽曲を盛り上げています。とても明るい雰囲気ですが、この曲と同じ世界観を共有しているアルバム曲『再殺部隊』は、生き返った少女たちを再び葬り去る部隊の物語を描いた、サブカル全開の禍々しい曲です。

 

02. おもちゃやめぐり

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こちらも前曲と同じく、曲ごとの躁鬱度合いが激しすぎることで知られる10thアルバム『ステーシーの美術』からの一曲。アルバムのみの収録ですが、非常にポップで聴きやすい楽曲です。歌詞の方も「玩具屋を巡り、子供のころ好きだったヒーローに想いを馳せて、愛する人を守るための勇気をもらった」という、なんとも大槻ケンヂらしさ溢れる、親しみやすい内容に仕上げられています。アウトロでの「ヒーローズ!ヒーローズ!」というコーラスが、非常にキャッチーでカッコいいです。

 

03. 君よ!俺で変われ!

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キャリア史上最多となる3つのタイアップ曲を収録して、後期最大のヒット作となった8thアルバム『UFOと恋人』からのシングルカット。清涼飲料水「ポストウォーター」のCMソングに起用されました。とはいえ歌詞は、タイトルからしジュースなどまったく関係ないオーケン節」が炸裂した内容。あまりに関連がなかったせいか、CMには『君よ!ポストウォーターで変われ!』という(これまた大胆に開き直った)替え歌バージョンが使用されました。そちらの音源CDは、商品のキャンペーンとして抽選プレゼントされたそうです。

 

04. 香奈、頭をよくしてあげよう

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代表作である9thアルバム『レティクル座妄想』からのシングルカットにして、ベスト等にもたびたび収録されている、屈指の名バラード。アルバムは非常にダークな内容なので、正直ちょっと浮いているようにも感じられるのですが、楽曲としては筋少のキャリアでも出色の完成度と言えるでしょう。君を賢くしてあげるために、カルトな映画を教えてあげよう……という「オーケン以外、誰が書く?」世界観全開の歌詞も素晴らしいです。2013年に録音された、リアレンジ・バージョンも存在しています。

 

05. 機械

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かなりハードロック然とした雰囲気で、一聴すると橘高さん作曲のようですが、このポップなメロディー感覚には、やはり「本城さんらしさ」が感じられます。このカッコいいメロディーに乗せて歌われるのは「狂人と呼ばれた発明家の男と、ただひとり彼を信じた女性の物語」という、安定の大槻ケンヂ印。橘高さんのギターソロもキレッキレです。

アルバムのみの収録ですが、ファン人気の高い名曲です。11thアルバム『キラキラと輝くもの』は、全体的にポップな楽曲が揃えられていて、聴きやすい内容にまとめられていると思います。言うなれば、筋少ポップ路線の完成形といえるアルバムかもしれません。

 

06. 暴いておやりよ ドルバッキー

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ふたたび8thアルバム『UFOと恋人』からのシングル曲。大槻ケンヂが出演した住友生命のCMに使用されました。もともとは『遺言動物ドルバッキー』という曲だったのですが、生命保険のCMに使われる曲としていかがなものか(そりゃそうだ)ということで、歌詞だけ書き換えられたようです。ちなみに『遺言動物』バージョンは、企画盤『筋少の大水銀』で聴くことができます。ドルバッキーとは、神奈川県で目撃された未確認生物「エルバッキー」の名前をもじったもの。猫によく似た未確認生物として報告されましたが、その写真がどう見ても猫だったので、オカルト好きの間では「実際は猫」ということで知られています。

 

07. 星座の名前は言えるかい

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10thアルバム『ステーシーの美術』収録。曲順で言うと、例の『再殺部隊』の次に収録されています。温度差スゴすぎです。かなりストレートなポップスですが、ここまでキャッチーだと筋少としては「異色作」と言えるでしょう。この曲はなんと言っても、その切実な歌詞が印象的です。当時の大槻さんの鬱々とした感情が、ありのままに映し出されています。刺さる人にはかなり刺さるはず。ちなみに、2018年の再発盤にボーナストラックとして収録されたデモバージョンでは、アウトロ部分に幻となった「語り」が挿入されています。興味のある方はぜひ。

 

08. 生きてあげようかな

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本城さんがはじめて作曲に参加した7thアルバム『エリーゼのために』からの一曲。作曲家として初めてクレジットされた作品のひとつにして、まさしく本城さんの真骨頂といえる名曲です。いつものハードロックっぷりは鳴りを潜め、ポップで優しく、ドラマティックなバラードに仕上げられています。自殺を試みた少女が、無念のうちに失われた物や命を想い「代わりに生きてあげよう」と思いとどまる歌詞は、大槻ケンヂが当時の恋人に贈ったものだそうです。曲の終盤、美しいコーラスワークをバックに、朗々と綴られる「語り」が感動的。

 

09. ベティー・ブルーって呼んでよね

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11thアルバム『キラキラと輝くもの』からの、これまた異色の一曲。アコースティックギターを中心にした非常にシンプルなアレンジで、和やかでポップな(少しだけ、スピッツの某曲を思わせる?)メロディーが歌われます。しかしこう見えて、曲としての構造はけっこう複雑なので、カラオケで歌うと戸惑ってしまう曲だったりします。ベティー・ブルーという名前は、1986年公開のフランス映画『ベティ・ブルー』からの引用。歌うたいの主人公を励ます恋人、その情景を描いた歌詞が、映画のストーリーになぞらえられています。

 

10. ペテン

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1999年の活動休止以前、最後のオリジナルアルバムとなった12thアルバム『最後の聖戦』から、まさしくアルバムの最後を飾った一曲です。ホーンセクションにコーラスワーク、そしてハードなギターを盛り込んだ、まさに集大成といえる華やかなアレンジがアルバムのフィナーレにふさわしく、またバンドの終焉へとひた走る気迫さえ感じさせます。歌詞の内容も、思いきり「解散」を匂わせるもの。ちなみに、メジャーデビューアルバム『仏陀L』のラストを飾った曲のタイトルは『ペテン師、新月の夜に死す!』でした。大槻さん曰く「まったく意識しておらず、偶然」とのことです。

 

 

最後に振り返って。

今回は「ポップな」筋肉少女帯として、本城さんが手がけた楽曲の中から10曲をご紹介しました。バンドは複数人の音楽性が集合したもので、メンバーそれぞれの音楽的背景やテクニックなどが複雑に絡み合い、唯一無二の音楽を生み出しています。だからこそ、いちメンバーにフォーカスして聴いてみると、ひとつの側面を取り上げて聴くことができて、新鮮な気持ちで楽しめます。または、そこに他のメンバーがどのように働きかけているか、という視点で聴いても、興味深いと思います。はじめてやってみましたが、面白かったです。

今度は、橘高さん曲でやってみようか。

岡村靖幸も絶賛!細野晴臣の隠れた名作アルバム『S-F-X』って?

先日、細野晴臣さんのラジオ番組『Daisy Holiday!』に、岡村靖幸さんがゲスト出演しました。日本音楽界でも有数の大物として知られるお二人ですが、こうした対談企画で共演したのは初めてのことで、音楽ファンの間で大きな話題になりました。

放送の中で、岡村さんは「めちゃくちゃ影響を受けています。もっと気づいてもらいたいくらい」と、熱心に「細野愛」を語っていました。中でも、特に影響を受けた作品としてタイトルを挙げていたのが、1984年の細野さんのアルバム『S-F-X』です。

本記事では、今回ファンの間で話題を呼んだ『S-F-X』について、紹介していきます!

 

 

 

細野晴臣『S-F-X』ってどんなアルバム?

まずは、アルバム『S-F-X』の概要をご紹介します!

S-F-X - EP

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日本を代表する音楽家細野晴臣

細野晴臣さんは、日本ロックの草分け的バンド「はっぴいえんど」や、テクノブームで一世を風靡した「イエロー・マジック・オーケストラ」のメンバーとして知られており、また作曲家としても『天国のキッス』などの数々の大ヒット曲を手がけた、名実ともに日本音楽界を代表するミュージシャンのひとりです。その功績は多大であり、星野源さんやnever young beachなど、影響を公言するミュージシャンは数知れません。

1984年に発売されたアルバム『S-F-X』

そんな細野さんが1984年、YMO散開の直後に発表したアルバムが『S-F-X』です。このアルバムは当時、細野さんが立ち上げた新レーベル「Non Standard」の第一号アルバムとして発表され、YMO散開以来、初となるソロアルバムであり、かつ新たなレーベルの方向性を象徴する作品ということもあって、注目を集めました。

音楽面では、当時としては最先端であった32ビート(人間がリズムとして感じられる最速のテンポ)やデジタルシンセサイザーを採用した、画期的かつ過激な音像が特徴で、のちに細野さんが提唱する「O.T.T (Over the Top)=過剰なまでに強力なビートを用いた攻撃的な音楽」への繋がり、また90年代のヒップホップ文化への接近さえ感じられる、細野さんのディスコグラフィー中でも他に類のない「過激さ」を誇る、異色作です。

 

 

アルバム『S-F-X』全曲紹介!

ここからは、アルバム『S-F-X』の収録曲を、一曲ずつ紹介していきます!

 

オープニングを飾るクレイジーな一曲『Body Snatchers』
Body Snatchers

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アルバムの幕開けを飾る一曲。人間に寄生する生命体の恐怖を描いた、巨匠ドン・シーゲル監督によるSF映画の古典『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』の世界観が表現されています。強烈なビートとサンプリングの反復が印象に残る、まさしくアルバムのオープニングに相応しい一曲と言えるでしょう。YMOフォロワーであり、ヒップホップの創始者のひとりとして知られているアフリカ・バンバータは、この曲を聴いて一言「……クレイジー」と呟いた、という有名なエピソードがあります。言い得て妙ですね!

 

コシミハルのボーカルが誘う幻惑的な世界『Androgena』
Androgena

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前の曲から一転、非常に幻惑的で官能的、摩訶不思議な世界が展開する一曲。細野さんの過去作から挙げるならば『ファム・ファタール』などを彷彿とさせる作風です。ボーカルとして参加しているのは、のちに細野さんとユニット「Swing Slow」を結成してアルバムを発表、ライブにも度々サポートとして参加しているコシミハルさんです。その個性的な声質によって、唯一無二の世界観が表現されています。ラジオに出演した岡村靖幸さんは、この曲について「どうやって作っているのか分からない」とコメント、絶賛しています。

 

無数の映画的イメージが乱暴に交錯する『SFX』
SFX

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アルバムは再び、強力ビートとサンプリングに満ちあふれた、アグレッシブな音世界へ。SF映画のイメージを重ね合わせた楽曲で、クレジットでは1984年に急逝したフランソワ・トリュフォー監督(代表作である名作SF『華氏451』などで知られる)に捧げられています。ちなみにライナーノーツには、この楽曲にインスパイアを与えた映画として『未知との遭遇』や『サイレント・ランニング』などのタイトルが列挙されています。これらの映画を観てから聴いてみると、世界観をより深く楽しめるかもしれませんね!

 

アルバム随一のポップなメロディーが弾む『Strange Love』
Strange Love

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おそらく、アルバムの中でも一番ロディアスでポップな楽曲と言えるのではないでしょうか。元ネタは、スタンリー・キューブリック監督の言わずと知れた名作コメディ『博士の異常な愛情』です。過剰なビートとユニークなメロディーが見事に絡み合い、映画のシニカルな世界観を感じさせます。ファンからの人気も高く、のちに「F.O.E」としてセルフカバーしたバージョンも存在しています。そちらは更にポップなアレンジが施されているので、聴き比べてみるのも面白いかもしれません!

 

暴力的なビートが彩る、最も過激な問題作『Alternative 3』
Alternative 3

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ポップな雰囲気だった前曲に続くのは、おそらくアルバムで最も過激な一曲。攻撃的なビートとサンプリングのリフレインが延々と続く、ともすれば暴れ回っているような散漫ぶり、しかし見事なサウンドセンスで纏め上げられた一曲です。元ネタとなっているのは、イギリスで制作された伝説のフェイク・ドキュメンタリー番組『第3の選択』です。極秘の火星移住計画を描いた内容は当時、大きな話題になり、さまざまな憶測を呼びました。数年前に日本でもDVDが発売されたので、興味のある方はぜひご覧ください!

 

優しいピアノで奏でられる夢想曲『Dark Side of the Star』
Dark Side of the Star

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アグレッシブなアルバムを締めくくるのは、まさかのピアノ曲。まるでアンビエントのような音世界が、ビートに揉まれ続けた聴き手の心を、静かに落ち着かせます。こういう曲もまた、細野さんの作品としては珍しいものと言えるでしょう。しかし、ファンからの人気は高い一曲で、活動50周年を記念してリリースされた細野さんのベストアルバムにも、ラストを飾る楽曲として収録されました。まるで映画のサウンドトラックのような、ドラマティックで美しいメロディーによって、アルバムは幕を下ろします。

 

 

さらに紹介!ノンスタンダード・レーベルの関連楽曲3選!

ここからは、ノンスタンダード・レーベルから発表された関連楽曲をご紹介します!

 

レーベルの幕開けを飾った7分の大作『Non-Standard MIxture』
Non-Standard Mixture

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アルバム『S-F-X』の発売に先駆け、レーベルの第一弾として発表された12インチ・シングルに収録された楽曲。レコードのA面を丸々使った、7分を超える大作です。アルバムと同時期に制作された音源なので、作風はほとんど同じと言っていいでしょう。実際、CDとして再発売された『S-F-X』はオリジナルのLPと異なり、この12インチ・シングルの音源を含めて再構築されたバージョンでした。細野さんの作品では認知度の低い作品ですが、アルバム『S-F-X』と表裏一体を成す「隠れた傑作」と言えるでしょう。アルバムと併せて、要チェックです!

 

強力なビートにメランコリックなピアノが絡む『Decline of the City』
DECLINE OF THE CITY

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1986年に発表された「F.O.E」名義の12インチ・シングル『F.O.E #1 / Decline of O.T.T』からの一曲。過剰なビートを特徴とする「O.T.T」の一曲として発表されたもので、後年のヒップホップ文化への繋がりを感じさせます。作曲は西村麻聡。強靭なビートとともに奏でられる、ポップで切ないピアノの旋律が美しいです。活動期間はわずか3年、作品の数も少ないF.O.Eですが、この曲の他にもヒップホップ黎明期ならではの、ポップでカッコいい「隠れた名曲」が満載です。興味のある方は、ぜひ聴いてみてください!

 

短編映画への提供曲、シンプルながらも壮絶な音世界『3-6-9』
3・6・9

3・6・9

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こちらもレーベル第一弾シングルからの一曲。メディア・アーティストとして知られる藤幡正樹さんの短編映像作品『弥勒』に提供された楽曲です。アルバムの『ALTERNATIVE 3』を彷彿とさせる、サンプリングのコラージュのような曲構成。しかし、こちらは明確なビートが存在しないまま、まるで漂うように音素材が繋ぎ合わされています。そして後半へ進むにつれて、まるで終末を感じさせるような重厚なシンセサイザーの音が響いてきます。単純な構成ながらも、映像的な感覚を感じさせる、非常にドラマティックな一曲です!

 

 

おわりに

いかがでしたか?アルバム『S-F-X』そして関連するノンスタンダード・レーベルの楽曲についてご紹介しました。細野さんのディスコグラフィーの中でも異質な「O.T.T」期の作品群、その過激なカッコよさを感じていただけたら幸いです!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

ピーター・ガブリエルの『Mercy Street』が好きすぎた男の末路。

いろいろな音楽を聴いていると、時に「特別な一曲」と出会うことがあります。信じられないほど気持ちとシンクロしたり、思いがけず記憶がフラッシュバックしたり(共感覚、的な)して、明らかに「これは他の曲と違う」と感じられる曲が、稀にあるのです。私にとって、そういう曲のひとつであるのが、ピーター・ガブリエルの『Mercy Street』です。

今回は、いったい何人に刺さるのか(刺さる人がいるのか)分からない、この一曲だけの特集をお送りします。

 

 

 

まず『Mercy Street』とは

ピーター・ガブリエルの『Mercy Street』は、1986年に発表された5thアルバム『So』に収録された一曲です。アルバムは『Sledgehammer』などヒットシングルを多数収録したガブリエルの代表作として知られていますが、この曲はシングルカット等されておらず、アルバムのみの収録となっています。よって、認知度としてはあまりメジャーな曲ではありませんが、ガブリエルの楽曲の中でも随一の神秘的な雰囲気をもった楽曲で、ファンからの人気は非常に高い「隠れた名曲」です。

 

語りたい『Mercy Street』の魅力

まずは、楽曲としての『Mercy Street』の魅力を語っていきたいと思います。とはいえ、私の表現力だけでは伝えきれないニュアンスもあり、また「百聞は一見にしかず」という言葉も(この場合「一見」ではないのですが)ありますので、この曲を聴いたことがない、あるいは久しく聴いていないという方には、ひとまずここで一度、聴いてみていただきたいと思います。

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魅力① 神秘的なサウンド・プロダクション

アルバム『So』のプロデュースを担当したのは、U2ヨシュア・ツリー』など数々の名盤を手がけたことで知られる当代屈指のサウンドメーカー、ダニエル・ラノワです。アンビエント・ミュージックの先駆者であるブライアン・イーノからの影響色濃いラノワのサウンドは、えもいわれぬ浮遊感を感じさせる、神秘的で美しい音世界を創造しています。このプロダクションが楽曲と絶妙にマッチして、曲自体が持つ「神秘性」が見事に体現されているのです。

 

魅力② 深遠なテーマ性を含んだ歌詞

この曲は、アメリカの劇作家/詩人であるアン・セクストンの作品にインスパイアされた楽曲として知られています。歌詞の内容は、セクストンが「Mercy Street」というテーマのもとに遺した戯曲とポエム、そしてサクストン自身の生涯を踏まえたものになっています。生涯を通して神経症に悩まされ、45歳の若さで自殺したセクストンの苦悩が、彼女の作品をそのまま下敷きにして描かれているのです。ひとつの歌詞としても深みのある内容ですが、セクストンの作品や生涯について知っていると、その精神性をより深く理解することが出来るでしょう。

 

魅力③ 世界観を描き出す見事なアレンジ

神秘的で深遠な楽曲の魅力を引き立てているのが、その美しいアレンジメントです。特徴的なパーカッションを奏でているのはブラジル出身のパーカッショニスト、ジャウマ・コレア。この独特のリズムは「フォホ」と呼ばれるもので、ブラジル北部で生まれたものと言われています。このユニークなリズム感が、重厚なシンセサイザーの響きと相まって、この曲を単なる「静謐な曲」ではなく、神秘性や崇高さを感じさせる、非常にドラマティックな音世界へと昇華させている、と言えるでしょう。

 

 

いろいろな『Mercy Street』を集めてみた

聴けば、どこか崇高な印象さえ受ける『Mercy Street』ですが、曲としての構造は非常にシンプルで、コード進行も比較的単純なものです。それ故か、この曲にはいくつものリアレンジ/カバーが存在しています。

というわけで、いろいろな『Mercy Street』を集めてみました。アレンジが変わることで曲の印象がどんなふうに変わるのか、または変わらないのか、感じていただくことができると思います。

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なんといってもオリジナル版『Mercy Street』

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すでに先ほどリンクを貼った音源なのですが、やはり「オリジナル版」がなければ始まらないので、こっちにも貼ります。一応、今度はPVの方にしてみました。先述の通り、この曲はシングルカットされていないのですが、このようにPVが制作されています。やはり、アルバム曲の中では目玉の曲だった、ということなのだろうと思います。

映像の内容は、アン・セクストンを意識したもののようです。プロモーション・ビデオと呼んでいいのか、と言っていいほど、プロモーション意欲を感じさせない(むしろお客さんが逃げていきそうな)雰囲気ですが、シングルじゃないしってことで、OKだったのでしょうか。

 

フルートのソロがたまらないライブ版『Mercy Street』

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続いて、2003年のライブ『Glowing Up Live』での演奏。この曲はライブでの演奏率が比較的高く、ライブ音源も幾つか発表されているのですが、中でも個人的にベストテイクだと感じるこの音源を紹介します。

このバージョンの魅力は、なんといっても曲中盤でのフルートのソロパート。オリジナル版ではガブリエル本人によるシンセサイザーで演奏されていたこのパートを、本バージョンではリチャード・エヴァンズがフルートで演奏しています。個人的には、このフレーズはフルートなどの生楽器で演奏されたことで、はじめて本来の魅力を発揮したように思います。そのくらい、このソロパートは感動的です。

 

重厚な響きで味わうオーケストラ版『Mercy Street』

2011年に発売されたセルフカバーアルバム『New Blood』で、ガブリエルは自身の過去曲をオーケストラ・アレンジによって再構築しました。荘厳なオーケストラの響きによって『Red Rain』などの代表曲がよりダイナミックに、勇壮に生まれ変わりました。

一方、この曲の場合は、オリジナル版が含んでいたストーリー性が、よりドラマティックに表現されているように感じます。シンセサイザーを中心に、どこか閉塞的な雰囲気のアレンジが施されていたオリジナル版と比較すると、生楽器の豊かな響きが加わったことで、世界観がぐんと広がった印象です。

 

ハービー・ハンコックによるジャズ版『Mercy Street』

この曲には無数のカバー・バージョンが存在していますが、なんとあのハービー・ハンコックもカバーしているのです。カバー、というよりも「リアレンジ」と言った方が近いかもしれない雰囲気ですが、ジャズ(=即興演奏)だから仕方ありません。

1996年に発表されたハンコックのアルバム『ニュー・スタンダード』に収録されたバージョンで、演奏にはジャック・ディジョネットをはじめとする錚々たる面々が参加しています。主に70年代以降のポップスを取り上げたアルバムで、他にもプリンスやニルヴァーナの楽曲が収録されています。ジャズ畑のミュージシャンがポップスをカバーするとこうなる、という一つの例として、非常に面白い音源だと思います。

 

インディーズ・バンドのアコースティック版『Mercy Street』

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最後は、インディーズで活動しているミュージシャンによるカバーをご紹介します。2008年にローレンス・コリンズがYouTubeに投稿したアコースティック・バージョンです。Spotifyで公開されている音源はコリンズのバンドによる演奏で、この動画とは異なるアレンジです。

動画の概要欄で、コリンズはこの曲を「フェイバリットのひとつ」と語っています。そんな愛情がひしひしと感じられる、オリジナルの雰囲気を尊重した、非常に忠実なアレンジです。それでいて、アコースティック・ギターの暖かい音色が効果的に用いられており、弾き語りという角度から楽曲の新たな魅力を巧みに引き出しているカバーだと思います。

 

 

おわりに 〜 記事をふりかえって

そもそもこの記事を書こうと思ったきっかけは、YouTubeで『Mercy Street』を繰り返し聴いていて、そのうちオリジナル音源に飽き足らなくなり、バージョン違いやカバーを聴くようになって「これをまとめたら、ちょっとした文章が書けるんじゃないか?」と思った、そんな思いつき一発でした。見切り発車で書きはじめた記事でしたが、その割にはマトモな内容に落ち着いたかと思います。ただ、アン・セクストンについてはもっと勉強しておくべきだった。ぼんやりとしか書けませんでした、すみません。

記事を読んでいただいた皆さんにも、このプレイリストなどを通して、この曲の魅力を感じていただけたら幸いです(逆に「5回も聴いて飽きてしまった」みたいなことにならないよう願っています)。同じ曲をいろいろなバージョンで聴き比べてみると、それぞれのサウンドの質感の違いが楽しめたり、共通点として楽曲そのものの姿が再発見できたりして、なかなか面白いです。他の曲でもやってみようかな、と検討中です。

……そういえば、ピーター「ゲイブリエル」って書いた方がよかったでしょうか。正しい発音はそっちらしいです。ピーター・バラカンに怒られるかも、まあいいか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

哀愁が泣ける!デ・パルマ映画の切なすぎるスコア5選!

スティーブン・スピルバーグフランシス・フォード・コッポラマーティン・スコセッシなど、のちに巨匠となる名監督を数多く輩出した70年代のハリウッド。そして、彼らと並んで70年代のアメリカ映画シーンを代表する監督のひとりとして知られているのが、巨匠ブライアン・デ・パルマ監督です。今回は、そんなデ・パルマ監督のフィルモグラフィーサウンドトラックから選出した「泣ける!哀愁のスコア」を、厳選してご紹介します!

 

 

 

映画ファンに人気!ブライアン・デ・パルマ監督って?

まずは、ブライアン・デ・パルマ監督の経歴や作風について紹介していきます!

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70年代ニューハリウッド世代を代表する巨匠

デ・パルマ監督のキャリアは、ニューヨークを拠点として制作した短編やドキュメンタリー作品から始まりました。それらの作品が高く評価されたことを機に、1970年代にハリウッドへ拠点を移し、直後に監督した『キャリー』の大ヒットによって一躍その名を広く知られることになりました。70年代ハリウッド随一の鬼才として知られ、過激な内容から賛否両論を呼ぶことも少なくありませんでしたが、その後もパラマウント映画75周年を記念した大作『アンタッチャブル』や、トム・クルーズ主演の人気シリーズ第一作『ミッション:インポッシブル』などの大ヒット作を世に送り出しました。

熱狂的なファンも多数!その独特な映像美

デ・パルマ作品の最大の特徴は、ワイプ演出やスローモーションなどの映像技術を駆使した大胆な演出です。他に類を見ないほど、テクニカルな演出をふんだんに取り入れた映像には独特の世界観があり、熱狂的なファンも少なくありません。ちなみに90年代を代表する名監督クエンティン・タランティーノも、デ・パルマ監督の大ファンであることを公言しています。

映像テクニックを大々的に取り入れた演出センスは非常にダイナミックで、どこか大仰にも感じられるほどです。しかしデ・パルマ作品においては、この大仰さはかえって退廃的な印象を生み、むしろ虚しさや切なさを感じさせる効果を生んでいます。そんな哀愁を感じさせるデ・パルマ作品のサウンドトラックには、やはり哀愁にあふれた名スコア(音楽)が満載。というわけで今回は、デ・パルマ作品のサウンドトラックの中から、哀愁が沁みる「切ない名曲」5選をご紹介します!

 

 

デ・パルマ作品の「泣ける」哀愁のスコア5選!

これまで数多くの大物音楽家たちが、デ・パルマ作品にスコアを提供してきました。あの『愛のプレリュード』の作曲家として知られるポール・ウィリアムズ、言わずと知れた映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネドナ・サマーのプロデュースで知られるシンセサイザーの先駆者ジョルジオ・モロダーなど、幅広いジャンルから錚々たる面々が音楽担当として参加、作品の心情を見事に体現した、素晴らしいサウンドトラックの数々を手がけています。それでは、さっそく聴いてみましょう!

Old Souls / Paul Williams 〜 映画『ファントム・オブ・パラダイス』より

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1974年公開の『ファントム・オブ・パラダイス』は、デ・パルマ作品初期の傑作として知られているロックミュージカル映画です。主人公である作曲家のウィンスローは、大手レコード会社の社長であるスワンに騙され、自作の曲を奪われ存在をも抹消されてしまいます。怒りに燃えるウィンスローは復讐を決意。スワンが主催する史上最大のロックコンサート「パラダイス」を舞台に、壮絶な復讐劇が幕を開けます。

この曲は、ウィンスローが想いを寄せる女性シンガー・フェニックスが、彼女に名声をもたらしてくれたスワンと一夜を共にする様子をウィンスローが目撃、雨に打たれながら慟哭するシーンで流れます。自分自身だけでなく、愛する人の心までスワンに奪われてしまったウィンスローの悲哀が、他でもないフェニックスの声で歌い上げられています。作曲はポール・ウィリアムズ。本作においてウィリアムズは音楽だけでなく、俳優としてスワン役も担当しています。

本作はロックミュージカルなので、全編にわたってオリジナルのロック楽曲が使用されており、そのすべてをポール・ウィリアムズが手がけています。どの楽曲も素晴らしく、サントラ盤は通常のロックアルバムとしても十分に楽しめる名盤です。ぜひ聴いてみてください!

 

Prelude / Pino Donaggio 〜 映画『ミッドナイト・クロス』より

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1981年公開の傑作サスペンス『ミッドナイト・クロス』で音楽を担当したのは、デ・パルマ作品の常連として知られる作曲家ピノ・ドナッジオデ・パルマ作品にドナッジオが提供した数々の名スコアの中でも、非常に高い人気を誇る一曲と言えるでしょう。本編随一の名場面である、あまりにも悲しいクライマックスを彩る旋律は、音楽だけでも切なさを感じさせる屈指の名曲です。

主人公であるB級映画の音響マン・ジャックは、ある録音作業中に交通事故に遭遇します。事故はタイヤのパンクが原因として処理されますが、ジャックの録音テープには事故の直前、タイヤを撃ち抜いた銃声が記録されていました。ジャックは、事故から唯一生還した謎の女性・サリーとともに、事件の真相に迫ろうとします。

映画の全編にわたって、この物悲しげなテーマが要所に挿入されており、物語の悲劇的な末路を示唆しています。そしてクライマックス、美しい音楽と映像が魅せる、あまりにも切ない二人の結末は、数あるデ・パルマ作品の中でも屈指の名シーンです!ぜひご覧ください。

 

Tony's Theme / Giorgio Moroder 〜 映画『スカーフェイス』より

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デ・パルマ監督の代表作のひとつとして知られる、1983年公開の名作ギャング映画『スカーフェイス』は、カストロ政権下のキューバから追放され、アメリカにやってきた一人の青年が裏社会でのし上がり、そして破滅していく姿を描いた作品です。主演を務めたアル・パチーノが演じた主人公「トニー・モンタナ」のキャラクターを含め、音楽やゲームなどの幅広い分野において、後代のクリエイターに多大な影響を与えた映画といわれています。

音楽を担当したのは、ディスコ・ミュージックにシンセサイザーを導入した先駆者であり、ドナ・サマーをはじめ数々の大物ミュージシャンを担当したプロデューサーとしても知られているジョルジオ・モロダーです。全編にわたって要所に挿入されているこのテーマは、裏社会に染まり、やがて溺れていく主人公トニーの生き様、その孤独や哀愁を見事に表現しています。非常に80年代らしいサウンドが、かえって重厚に響いていてカッコいいですよね!

 

Death Theme / Ennio Morricone 〜 映画『アンタッチャブル』より

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1987年、パラマウント映画の創立75周年を記念して制作された『アンタッチャブル』は、興行収入において不調が続いていたデ・パルマ監督にとって久しぶりのヒット作となりました。米国犯罪史有数のギャングとして知られるアル・カポネの逮捕に向けて奔走する捜査チームの活躍を描いた実録映画で、豪華なスタッフ&キャスト陣の起用でも話題になりました。

音楽を担当したのは、言わずと知れた映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネ。世界一有名な映画音楽家の一人として、数えきれないほどのフィルムスコアを担当したモリコーネですが、本作のスコアは代表作のひとつであると言えるでしょう。中でも、ある登場人物が死を遂げるシーンで流れるこのメロディーは、映像なくとも思わず悲しさに浸ってしまう、情感あふれる素晴らしいスコアです。改めて、モリコーネの偉大な才能が感じられますね!

 

You Are So Beautiful / Joe Cocker 〜 映画『カリートの道』より

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最後は、1993年公開『カリートの道』のサウンドトラックからの一曲。こちらは映画オリジナルの楽曲ではなく、また実はスコアでもないのですが、デ・パルマ映画で「哀愁」の音楽、といえばこの曲は外せないと思ったので、紹介させていただきます。

アル・パチーノ演じる主人公のカリートは、かつては麻薬王として知られた身でありながらも、5年の懲役を経て出所したことを機に、恋人であるゲイルとともに堅気の生き方を志すようになります。しかし想いとは裏腹に、カリートは裏社会の面々によって再び抗争へと巻き込まれていき、残酷な運命に翻弄されていきます。

映画のラストで流れるこの曲は、1974年にジョー・コッカーが発表した名バラード。コッカーのしゃがれた渋い歌唱とシンプルな歌唱のリフレインが、カリートの哀愁に満ちた生き様、そしてゲイルへの一途な想いと重なります。いちど映画で聴けば「あの映画の曲」として認識されること間違いありません。映画の内容と見事にマッチした、素晴らしい選曲です!

 

 

他にも名作/名スコア満載のデ・パルマ作品!

いかがでしたか?今回ご紹介した作品の他にも、ティム・バートン監督の作品などで知られる映画音楽家ダニー・エルフマンが音楽を担当した『ミッション:インポッシブル』や、日本を代表する音楽家の一人である坂本龍一が手がけた美しいスコアが印象に残る『スネーク・アイズ』など、傑作スコアに彩られた名作が満載です。皆さんも是非、デ・パルマ監督のダイナミックかつ情感あふれる映像世界を味わってみてください!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!