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岡村靖幸も絶賛!細野晴臣の隠れた名作アルバム『S-F-X』って?

先日、細野晴臣さんのラジオ番組『Daisy Holiday!』に、岡村靖幸さんがゲスト出演しました。日本音楽界でも有数の大物として知られるお二人ですが、こうした対談企画で共演したのは初めてのことで、音楽ファンの間で大きな話題になりました。

放送の中で、岡村さんは「めちゃくちゃ影響を受けています。もっと気づいてもらいたいくらい」と、熱心に「細野愛」を語っていました。中でも、特に影響を受けた作品としてタイトルを挙げていたのが、1984年の細野さんのアルバム『S-F-X』です。

本記事では、今回ファンの間で話題を呼んだ『S-F-X』について、紹介していきます!

 

 

 

細野晴臣『S-F-X』ってどんなアルバム?

まずは、アルバム『S-F-X』の概要をご紹介します!

S-F-X - EP

S-F-X - EP

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日本を代表する音楽家細野晴臣

細野晴臣さんは、日本ロックの草分け的バンド「はっぴいえんど」や、テクノブームで一世を風靡した「イエロー・マジック・オーケストラ」のメンバーとして知られており、また作曲家としても『天国のキッス』などの数々の大ヒット曲を手がけた、名実ともに日本音楽界を代表するミュージシャンのひとりです。その功績は多大であり、星野源さんやnever young beachなど、影響を公言するミュージシャンは数知れません。

1984年に発売されたアルバム『S-F-X』

そんな細野さんが1984年、YMO散開の直後に発表したアルバムが『S-F-X』です。このアルバムは当時、細野さんが立ち上げた新レーベル「Non Standard」の第一号アルバムとして発表され、YMO散開以来、初となるソロアルバムであり、かつ新たなレーベルの方向性を象徴する作品ということもあって、注目を集めました。

音楽面では、当時としては最先端であった32ビート(人間がリズムとして感じられる最速のテンポ)やデジタルシンセサイザーを採用した、画期的かつ過激な音像が特徴で、のちに細野さんが提唱する「O.T.T (Over the Top)=過剰なまでに強力なビートを用いた攻撃的な音楽」への繋がり、また90年代のヒップホップ文化への接近さえ感じられる、細野さんのディスコグラフィー中でも他に類のない「過激さ」を誇る、異色作です。

 

 

アルバム『S-F-X』全曲紹介!

ここからは、アルバム『S-F-X』の収録曲を、一曲ずつ紹介していきます!

 

オープニングを飾るクレイジーな一曲『Body Snatchers』
Body Snatchers

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アルバムの幕開けを飾る一曲。人間に寄生する生命体の恐怖を描いた、巨匠ドン・シーゲル監督によるSF映画の古典『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』の世界観が表現されています。強烈なビートとサンプリングの反復が印象に残る、まさしくアルバムのオープニングに相応しい一曲と言えるでしょう。YMOフォロワーであり、ヒップホップの創始者のひとりとして知られているアフリカ・バンバータは、この曲を聴いて一言「……クレイジー」と呟いた、という有名なエピソードがあります。言い得て妙ですね!

 

コシミハルのボーカルが誘う幻惑的な世界『Androgena』
Androgena

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前の曲から一転、非常に幻惑的で官能的、摩訶不思議な世界が展開する一曲。細野さんの過去作から挙げるならば『ファム・ファタール』などを彷彿とさせる作風です。ボーカルとして参加しているのは、のちに細野さんとユニット「Swing Slow」を結成してアルバムを発表、ライブにも度々サポートとして参加しているコシミハルさんです。その個性的な声質によって、唯一無二の世界観が表現されています。ラジオに出演した岡村靖幸さんは、この曲について「どうやって作っているのか分からない」とコメント、絶賛しています。

 

無数の映画的イメージが乱暴に交錯する『SFX』
SFX

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アルバムは再び、強力ビートとサンプリングに満ちあふれた、アグレッシブな音世界へ。SF映画のイメージを重ね合わせた楽曲で、クレジットでは1984年に急逝したフランソワ・トリュフォー監督(代表作である名作SF『華氏451』などで知られる)に捧げられています。ちなみにライナーノーツには、この楽曲にインスパイアを与えた映画として『未知との遭遇』や『サイレント・ランニング』などのタイトルが列挙されています。これらの映画を観てから聴いてみると、世界観をより深く楽しめるかもしれませんね!

 

アルバム随一のポップなメロディーが弾む『Strange Love』
Strange Love

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おそらく、アルバムの中でも一番ロディアスでポップな楽曲と言えるのではないでしょうか。元ネタは、スタンリー・キューブリック監督の言わずと知れた名作コメディ『博士の異常な愛情』です。過剰なビートとユニークなメロディーが見事に絡み合い、映画のシニカルな世界観を感じさせます。ファンからの人気も高く、のちに「F.O.E」としてセルフカバーしたバージョンも存在しています。そちらは更にポップなアレンジが施されているので、聴き比べてみるのも面白いかもしれません!

 

暴力的なビートが彩る、最も過激な問題作『Alternative 3』
Alternative 3

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ポップな雰囲気だった前曲に続くのは、おそらくアルバムで最も過激な一曲。攻撃的なビートとサンプリングのリフレインが延々と続く、ともすれば暴れ回っているような散漫ぶり、しかし見事なサウンドセンスで纏め上げられた一曲です。元ネタとなっているのは、イギリスで制作された伝説のフェイク・ドキュメンタリー番組『第3の選択』です。極秘の火星移住計画を描いた内容は当時、大きな話題になり、さまざまな憶測を呼びました。数年前に日本でもDVDが発売されたので、興味のある方はぜひご覧ください!

 

優しいピアノで奏でられる夢想曲『Dark Side of the Star』
Dark Side of the Star

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アグレッシブなアルバムを締めくくるのは、まさかのピアノ曲。まるでアンビエントのような音世界が、ビートに揉まれ続けた聴き手の心を、静かに落ち着かせます。こういう曲もまた、細野さんの作品としては珍しいものと言えるでしょう。しかし、ファンからの人気は高い一曲で、活動50周年を記念してリリースされた細野さんのベストアルバムにも、ラストを飾る楽曲として収録されました。まるで映画のサウンドトラックのような、ドラマティックで美しいメロディーによって、アルバムは幕を下ろします。

 

 

さらに紹介!ノンスタンダード・レーベルの関連楽曲3選!

ここからは、ノンスタンダード・レーベルから発表された関連楽曲をご紹介します!

 

レーベルの幕開けを飾った7分の大作『Non-Standard MIxture』
Non-Standard Mixture

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アルバム『S-F-X』の発売に先駆け、レーベルの第一弾として発表された12インチ・シングルに収録された楽曲。レコードのA面を丸々使った、7分を超える大作です。アルバムと同時期に制作された音源なので、作風はほとんど同じと言っていいでしょう。実際、CDとして再発売された『S-F-X』はオリジナルのLPと異なり、この12インチ・シングルの音源を含めて再構築されたバージョンでした。細野さんの作品では認知度の低い作品ですが、アルバム『S-F-X』と表裏一体を成す「隠れた傑作」と言えるでしょう。アルバムと併せて、要チェックです!

 

強力なビートにメランコリックなピアノが絡む『Decline of the City』
DECLINE OF THE CITY

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1986年に発表された「F.O.E」名義の12インチ・シングル『F.O.E #1 / Decline of O.T.T』からの一曲。過剰なビートを特徴とする「O.T.T」の一曲として発表されたもので、後年のヒップホップ文化への繋がりを感じさせます。作曲は西村麻聡。強靭なビートとともに奏でられる、ポップで切ないピアノの旋律が美しいです。活動期間はわずか3年、作品の数も少ないF.O.Eですが、この曲の他にもヒップホップ黎明期ならではの、ポップでカッコいい「隠れた名曲」が満載です。興味のある方は、ぜひ聴いてみてください!

 

短編映画への提供曲、シンプルながらも壮絶な音世界『3-6-9』
3・6・9

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こちらもレーベル第一弾シングルからの一曲。メディア・アーティストとして知られる藤幡正樹さんの短編映像作品『弥勒』に提供された楽曲です。アルバムの『ALTERNATIVE 3』を彷彿とさせる、サンプリングのコラージュのような曲構成。しかし、こちらは明確なビートが存在しないまま、まるで漂うように音素材が繋ぎ合わされています。そして後半へ進むにつれて、まるで終末を感じさせるような重厚なシンセサイザーの音が響いてきます。単純な構成ながらも、映像的な感覚を感じさせる、非常にドラマティックな一曲です!

 

 

おわりに

いかがでしたか?アルバム『S-F-X』そして関連するノンスタンダード・レーベルの楽曲についてご紹介しました。細野さんのディスコグラフィーの中でも異質な「O.T.T」期の作品群、その過激なカッコよさを感じていただけたら幸いです!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!