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本城聡章が手がけた、ポップな筋肉少女帯セレクション!

突然、筋肉少女帯にハマった。

昨年の終わり頃、突然に筋肉少女帯にハマりました。昨年の私は、基本的におしゃれポップ系の洋楽(例:プリファブ・スプラウト、アズテック・カメラなど)を熱心に聴いていたのですが、ある出来事をきっかけに(詳しくはまた今度)音楽を聴くということについて考えるようになり、いろいろなジャンルを彷徨った挙句、落ち着いたのが筋肉少女帯でした。パディ・マクアルーンから大槻ケンヂへ、相当「彷徨った」ことが分かっていただけるかと思います。

 

筋肉少女帯の「ポップ」を担う本城聡章

筋肉少女帯といえば、一般的には「ハードロック」という印象が強いかと思いますが、実はさまざまなジャンルを横断する複雑な音楽性が特徴のバンドです。初期のプログレ路線、橘高文彦加入後のハードロック路線、それを踏まえた後期のポップ路線……と、メンバーの入れ替わりにも対応して、音楽性を柔軟に変化させてきました。

一般の認知度を含めて定番となったのは、結成から数えて22期目(!)となるメンバーラインナップです。ボーカルの大槻ケンヂ、ベースの内田雄一郎、ドラムの太田明、そしてツインギターとして橘高文彦本城聡章の2名。2006年の再結成以降は、太田さんを除く4名のラインナップで活動しています。

当初は作曲を担当していなかった本城さんでしたが、7thアルバム『エリーゼのために』以降、作曲クレジットに名を連ねるようになりました。その作風は、一言で言えば「ポップ」です。そのポップセンスは、それまでプログレ・ハードロック志向の濃厚だった筋少作曲陣に新たなテイストを吹き込みました。

サブカル色が強かった当時の筋肉少女帯に、本城さんの楽曲は大衆的な支持や企業タイアップを次々と呼び込み、バンドとしての活動方針にも大きく影響を与えました。こうして筋肉少女帯は、大槻ケンヂによる独特の詞世界に加えて「マニアックでありながらポップ」な音楽性によって、唯一無二の地位を確立することになりました。

 

 

本城聡章が手がけたポップな筋肉少女帯セレクション

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筋肉少女帯というバンドの「稀有な点」は、サブカルでありながら、ハードロックでありながら、技巧派集団でありながら、それでいてポップであるという懐の深さであると、聴くたびに感じます。そして、筋少の「ポップ系」楽曲を集めてみると、ものの見事に本城さんの楽曲がずらりと並び、改めて本城さんのポップセンスを感じさせるのです。

というわけで、本城さん作曲の筋少楽曲だけで「ポップな筋肉少女帯」プレイリストを作ってみました。あまり「らしくない」楽曲も含んではいますが、聴きやすさという点では、筋少入門としても楽しんでいただけるのではないかと思います。

 

01. トゥルー・ロマンス

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ポップな筋肉少女帯の「代名詞」とも言える楽曲。2006年の再結成ライブではオープニングで演奏されました。10thアルバム『ステーシーの美術』発売に先立ってシングルカットされ、テーマパーク「ナムコワンダーエッグ」がCMソングに起用。東京スカパラダイスオーケストラも参加した華やかなアレンジが、祝福感にあふれた楽曲を盛り上げています。とても明るい雰囲気ですが、この曲と同じ世界観を共有しているアルバム曲『再殺部隊』は、生き返った少女たちを再び葬り去る部隊の物語を描いた、サブカル全開の禍々しい曲です。

 

02. おもちゃやめぐり

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こちらも前曲と同じく、曲ごとの躁鬱度合いが激しすぎることで知られる10thアルバム『ステーシーの美術』からの一曲。アルバムのみの収録ですが、非常にポップで聴きやすい楽曲です。歌詞の方も「玩具屋を巡り、子供のころ好きだったヒーローに想いを馳せて、愛する人を守るための勇気をもらった」という、なんとも大槻ケンヂらしさ溢れる、親しみやすい内容に仕上げられています。アウトロでの「ヒーローズ!ヒーローズ!」というコーラスが、非常にキャッチーでカッコいいです。

 

03. 君よ!俺で変われ!

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キャリア史上最多となる3つのタイアップ曲を収録して、後期最大のヒット作となった8thアルバム『UFOと恋人』からのシングルカット。清涼飲料水「ポストウォーター」のCMソングに起用されました。とはいえ歌詞は、タイトルからしジュースなどまったく関係ないオーケン節」が炸裂した内容。あまりに関連がなかったせいか、CMには『君よ!ポストウォーターで変われ!』という(これまた大胆に開き直った)替え歌バージョンが使用されました。そちらの音源CDは、商品のキャンペーンとして抽選プレゼントされたそうです。

 

04. 香奈、頭をよくしてあげよう

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代表作である9thアルバム『レティクル座妄想』からのシングルカットにして、ベスト等にもたびたび収録されている、屈指の名バラード。アルバムは非常にダークな内容なので、正直ちょっと浮いているようにも感じられるのですが、楽曲としては筋少のキャリアでも出色の完成度と言えるでしょう。君を賢くしてあげるために、カルトな映画を教えてあげよう……という「オーケン以外、誰が書く?」世界観全開の歌詞も素晴らしいです。2013年に録音された、リアレンジ・バージョンも存在しています。

 

05. 機械

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かなりハードロック然とした雰囲気で、一聴すると橘高さん作曲のようですが、このポップなメロディー感覚には、やはり「本城さんらしさ」が感じられます。このカッコいいメロディーに乗せて歌われるのは「狂人と呼ばれた発明家の男と、ただひとり彼を信じた女性の物語」という、安定の大槻ケンヂ印。橘高さんのギターソロもキレッキレです。

アルバムのみの収録ですが、ファン人気の高い名曲です。11thアルバム『キラキラと輝くもの』は、全体的にポップな楽曲が揃えられていて、聴きやすい内容にまとめられていると思います。言うなれば、筋少ポップ路線の完成形といえるアルバムかもしれません。

 

06. 暴いておやりよ ドルバッキー

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ふたたび8thアルバム『UFOと恋人』からのシングル曲。大槻ケンヂが出演した住友生命のCMに使用されました。もともとは『遺言動物ドルバッキー』という曲だったのですが、生命保険のCMに使われる曲としていかがなものか(そりゃそうだ)ということで、歌詞だけ書き換えられたようです。ちなみに『遺言動物』バージョンは、企画盤『筋少の大水銀』で聴くことができます。ドルバッキーとは、神奈川県で目撃された未確認生物「エルバッキー」の名前をもじったもの。猫によく似た未確認生物として報告されましたが、その写真がどう見ても猫だったので、オカルト好きの間では「実際は猫」ということで知られています。

 

07. 星座の名前は言えるかい

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10thアルバム『ステーシーの美術』収録。曲順で言うと、例の『再殺部隊』の次に収録されています。温度差スゴすぎです。かなりストレートなポップスですが、ここまでキャッチーだと筋少としては「異色作」と言えるでしょう。この曲はなんと言っても、その切実な歌詞が印象的です。当時の大槻さんの鬱々とした感情が、ありのままに映し出されています。刺さる人にはかなり刺さるはず。ちなみに、2018年の再発盤にボーナストラックとして収録されたデモバージョンでは、アウトロ部分に幻となった「語り」が挿入されています。興味のある方はぜひ。

 

08. 生きてあげようかな

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本城さんがはじめて作曲に参加した7thアルバム『エリーゼのために』からの一曲。作曲家として初めてクレジットされた作品のひとつにして、まさしく本城さんの真骨頂といえる名曲です。いつものハードロックっぷりは鳴りを潜め、ポップで優しく、ドラマティックなバラードに仕上げられています。自殺を試みた少女が、無念のうちに失われた物や命を想い「代わりに生きてあげよう」と思いとどまる歌詞は、大槻ケンヂが当時の恋人に贈ったものだそうです。曲の終盤、美しいコーラスワークをバックに、朗々と綴られる「語り」が感動的。

 

09. ベティー・ブルーって呼んでよね

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11thアルバム『キラキラと輝くもの』からの、これまた異色の一曲。アコースティックギターを中心にした非常にシンプルなアレンジで、和やかでポップな(少しだけ、スピッツの某曲を思わせる?)メロディーが歌われます。しかしこう見えて、曲としての構造はけっこう複雑なので、カラオケで歌うと戸惑ってしまう曲だったりします。ベティー・ブルーという名前は、1986年公開のフランス映画『ベティ・ブルー』からの引用。歌うたいの主人公を励ます恋人、その情景を描いた歌詞が、映画のストーリーになぞらえられています。

 

10. ペテン

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1999年の活動休止以前、最後のオリジナルアルバムとなった12thアルバム『最後の聖戦』から、まさしくアルバムの最後を飾った一曲です。ホーンセクションにコーラスワーク、そしてハードなギターを盛り込んだ、まさに集大成といえる華やかなアレンジがアルバムのフィナーレにふさわしく、またバンドの終焉へとひた走る気迫さえ感じさせます。歌詞の内容も、思いきり「解散」を匂わせるもの。ちなみに、メジャーデビューアルバム『仏陀L』のラストを飾った曲のタイトルは『ペテン師、新月の夜に死す!』でした。大槻さん曰く「まったく意識しておらず、偶然」とのことです。

 

 

最後に振り返って。

今回は「ポップな」筋肉少女帯として、本城さんが手がけた楽曲の中から10曲をご紹介しました。バンドは複数人の音楽性が集合したもので、メンバーそれぞれの音楽的背景やテクニックなどが複雑に絡み合い、唯一無二の音楽を生み出しています。だからこそ、いちメンバーにフォーカスして聴いてみると、ひとつの側面を取り上げて聴くことができて、新鮮な気持ちで楽しめます。または、そこに他のメンバーがどのように働きかけているか、という視点で聴いても、興味深いと思います。はじめてやってみましたが、面白かったです。

今度は、橘高さん曲でやってみようか。