シネクドキ・ポスターの回路

映画や音楽を楽しみに生きています。

2日間で『ゴーストバスターズ』シリーズを完全制覇した話。

高校時代の友人から映画に誘われた

先日、ある友人が久しぶりに連絡をくれた。届いたメッセージは「今度、映画でも観に行かないか」というお誘いであった。この時流ということもあって久しく会えていなかったから嬉しく、二つ返事で賛成、幸い日取りもスムーズに決まった。

続いて「何の映画にしようか」という話になった。そこで、友人に「オマエ映画好きじゃん、おすすめは?」と訊かれてしまった。

 

この質問、実はけっこう「難しい」質問だったりする。

 

世の中にはいろんな映画がある。転じて「映画好き」にも、いろんな奴がいる。一般的な「映画好き」というのは文字通り「映画が好きな人」のことで、アクションでもサスペンスでもホラーでもファンタジーでも、満遍なく楽しむことができる人である。そういう層にとって映画は「楽しませてくれるもの」であり、この認識は世間一般の「映画を好きでも嫌いでもない人」と、ほとんど同じものだと言えると思う。

その一方で、若干「こじらせている」映画好きというのがいる。この層にとって映画は「楽しませてくれるもの」というよりも、ある人達にとっての音楽とか宗教がそうであるように、不条理な現実世界からエスケープするための「安息の地」であり、楽しく生きるために必要不可欠な「自分なりの居場所」だったりする。

愛情と呼ぶには重すぎる”偏愛”を携えた「こじらせ系」の主だった特徴としては、好きな映画として挙げるのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』等々ではなく、総じてどうかしている作品ばかり(すなわち、トリアーだのズラウスキーだのホドロフスキーだの)というのがある。彼らは「変わった奴だと思われたい」からそういう映画をフェイバリットに挙げるのではなく(そういう自意識が全く無い……とは言い切れないが、それよりも)そういった歪んだ世界にしか安息を感じられない人種なのである。どうして言い切れるかといえば、かく言う私もまた「こじらせ系」の一人だからである。ちなみに私の「安住の地」は、カルト映画の帝王デイヴィッド・リンチによる『ツイン・ピークス』の赤い部屋だ。実は、この文章を書いているパソコンのデスクトップも、赤い部屋の写真にしている。実質、作業中/執筆中の私はいつでも「赤い部屋」にいるのである。正気を失うのは時間の問題だ。

 

こういうタイプに「おすすめ映画」を聞いても、何の参考にもならない。映画に対するそもそもの認識が異なるからだ。しかし如何せん、音楽ならまだしも映画好きに「こじらせ系」のパターンがあるということがあまり認知されていないので(結構、深刻な相違だと思うのだが)なかなか解ってもらえない。と言っても仕方がないので「こじらせ系」は、ちゃんと自分が面白いと思える範囲の中で、それなりに一般寄りの一本を「おすすめ用」として常時、脳内にストックしておく必要がある。私はいつも『ユージュアル・サスペクツ』と言っている。

これはもちろん、今回のように「新作を観に行く」パターンでも同じだ。下手に「これが観たい」と素直に選んでしまうと、選出者として当日とんだ地獄を見ることになる。作品を推す時は、まず自分と相手の間に「映画に求めるもの」についてギャップがあるということを認識しておく必要があるのだ。

 

というわけで、どの映画が良いだろう……と考える前に、そういえば最近映画館に行く機会がなかったせいで、いったい何が上映されているのか全然わからない。そこで調べてみると……現在のラインナップ、やたらシリーズものが多い印象。スパイダーマン、呪術廻戦、キングスマン、そしてゴーストバスターズ。複数人で何も考えずに観られそうな映画は、ほとんどがいずれかのシリーズの続編とか前日譚とかで、一応はじめて観る人にも配慮はしてくれているのかもしれないが、やっぱり一本こっきりで楽しめる映画が良いよな〜、と悩んだ。実際、観に行く日取りは二日後に迫っていたから、予習している暇はなさそうだった。

その他は……例えば『コーダあいのうた』とか『ドライブ・マイ・カー』はちょっとシリアスすぎるし、アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ』は映画好きとしてはビンビン来るがさすがに気取りが過ぎるだろう。実は観たことないのだが『ウエスト・サイド・ストーリー』は悲しい話らしいし、友人はガチのホラーが無理なので『牛首村』は怒られる。

というわけで実質、トム・ホランド主演の『アンチャーテッド』一択であった。しかし、選択肢がないというのはやっぱり寂しいので、シリーズものの中で一番どうにかなりそうな『ゴーストバスターズ』も併せて、その二本を提案した。実のところ『ゴーストバスターズ』は一度も観たことがなかったのだが、なんかこう『ジュラシック・パーク』みたいな感じで(過去作の知識があるに越したことは無いのだろうが)一応楽しく観られるのではないか、という読みであった。

いろいろ相談した結果、観に行くのは『ゴーストバスターズ』に決まった。

 

 

 

映画好きでも『ゴーストバスターズ』完全スルーだった私

正直『アンチャーテッド』かな〜と思っていたから、思いの外だった。決めた理由は、映画レビューサイトを見た時に『ゴーストバスターズ』の方がレビュー数が多かったから、という安直きわまりないものであった。とはいえ、二人とも全然知らない映画を並べて比較検討しているのだから、こっちの方がレビューが多い、くらいの理由しか決め手がないのだ。

半分くらいは「完全初見でもまあまあ楽しめるだろ」と開き直っていた私だったが、いざ本当に観に行くという段になると、前知識ゼロで観に行くのは何だかとても勿体なく思えた。せっかく観に行くのだから、やっぱり予習はしておきたい。そう考えるとシリーズを一本も観ていないというのも、むしろこの機会に鑑賞するには都合が良いように思えてきた。

 

私は映画好きを自称しているが、この『ゴーストバスターズ』のように、ド定番にも関わらず観損なっている作品というのも少なくない。これって結構、映画好きあるあるだと思う。映画好きなんです、と言って「そうなんですね!私『〇〇』が好きで〜」と定番映画の話題を振られて「あ、それはちょっと観てなくて……」と答えた時の、あの気まずい空気。向こうとしては一番捕らえやすいであろうボールを投げたつもりが、なぜか相手の顔面に直撃してしまった、というような居心地の悪さ。しかし「なんだ、ニワカじゃん」などと言われてしまうのはちょっと癪なのだ。これにもやはり、事情があるのである。

先程の「映画好きにも種類がある」という話と重なるのだが、一口に「映画」と言ってもいろいろな作品があるし、それを観る人にもそれぞれの嗜好がある。初めこそ何も分からず、とにかくいろんな映画を観漁ることになるが(私は高校時代にこれを経験し、一日四〜五本ペースで観たりしていた)その過程の中で、だんだんと自らの「嗜好」が解ってくる。好きなジャンル、好きな俳優、好きな監督……こういうものは好きでこういうものは苦手、といった具合の知識というか知恵が身についていくのだ。すなわち一般的に、いわゆる「定番映画」に触れるのは最初の「ビギナー」時期のみであり、本格的に映画にのめり込んでいくとそういうものはほとんど観なくなるのである。その代わりに自分の「嗜好」を追求するようになり、マニアックな映画ばかり観るようになるのだ。

つまり、映画好きの「どうしてこの人は映画に詳しいのに、これ観ていないんだろう」というのは、多くの場合「今さら観ても仕方がないから」という理由によるものだ。実際「そういえばコレ、まだ観てないよな……」と、映画好きとしてのプライドに焚き付けられ観たところで、面白いとは思えども「好きになる」ことは滅多にない。単純に知識は増えるし、定番映画はやはり面白いので勉強にはなるが、純粋に映画を楽しむというより「義務的」な感じになってしまうのは否めない。結果、やはりマニアックの方向へと邁進することとなり、ど真ん中はすっからかんで辺縁の方にやたら熱心という、いわば映画版「ドーナツ化現象」的な状況が生まれるのだ。これから先「この人、映画好きって言ってるけど……」という場面に遭遇したら「ドーナツ化現象みたいなやつだ」と、納得していただきたい。

というわけで、やはり映画を観始めた時期に縁がなかったために『ゴーストバスターズ』完全未鑑賞だった私であったが、これ以上の機会はないのではないかと思い立ったら、ここ最近くすぶっていた「映画愛」に火が点いた。調べてみると、シリーズの過去作は全部で三本。三本くらいだったら一日あれば観れる、というまさに高校時代ばりの大胆(かつ無責任)な計算のもとに、新作の鑑賞を明後日に控えながら近所のレンタルビデオ店に直行、中学生時代に映画にハマってから一度も沸き起こることのなかった『ゴーストバスターズ』熱に突如うかされ、私は新作鑑賞の前日まる一日を使ってシリーズ全三作をぶっ通しで観たのだった。以下、その簡単な感想。

 

第一作『ゴーストバスターズ』(1984)


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記念すべきシリーズ第一作であり、社会現象を巻き起こした大ヒット作。主人公ピーター(ビル・マーレイ)のやたら軽薄なキャラクター、けっこう濃厚なオカルト要素を取り入れたストーリー、そして意表を突くラスボス(巨大化した〇〇)など、今観ても新鮮なアイデアがふんだんに盛り込まれた名作。はじめて観たけど面白かった。この後の続編も含めて『ゴーストバスターズ』の肝のひとつはピーターのキャラクター等々に見られる「ちょっとスカした」ノリなのだと感じる。不意のクライマックスには、ちょっとジーンと来てしまった。

 

第二作『ゴーストバスターズ2』(1989)


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前作から五年を経て制作された続編。シングルマザーとなったディナが働いている美術館で、修復中だった名画に宿った悪霊が「新たな肉体」としての赤ん坊を求めて目を覚まし……という時点で物語の三分の二くらいは予感できてしまう。ストーリーのおおまかな筋書きは前作とほぼ同じでありながら、やはりひとつひとつのアイデアがユニークで楽しかった。特に前作のラスボスに対応する形で登場する〇〇のシーンは前作を超えるバカバカしさで、妙な感銘さえ受けた。間違いなく、このシリーズで一番笑ったシーンである。

 

第三作『ゴーストバスターズ』(2016)


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前作から27年ぶりとなった新作だが、厳密に言うと「第三作」ではない。完全新キャスト(メインキャストは全員女性)で制作された、第一作のリブート版である。もともとはオリジアルキャストによる完全新作として企画されていたようだが、スペングラー博士役のハロルド・ライミスの死去によって続行不可能となってしまったらしい。制作陣も一新して制作された本作であったが、旧作と比較すると作風は大きく変化し、件の「ちょっとスカした」ノリもいまいち感じられない仕上がり。これが現代風、と言えるのかもしれないが、やっぱり旧作の方が好きだ。シリーズ恒例の意表を突いた演出にも欠ける印象。

 

 

そして『ゴーストバスターズ/アフターライフ』を観に行った

そして翌日。つい二日前まで『ゴーストバスターズ』のゴの字も知らなかった男は、たった一日でちょっとしたファンになっていた。時間で言えば約38年くらいを一日で駆け抜けたわけだが、日の最後に観た2016年版の改変ぶりに軽い憤りを覚えるくらいには、シリーズへの思い入れが芽生えていた。

劇場で友人と合流し、チケットを購入した。シアターはわりと空いていた。座席に座って、過去作を昨日一日で全部観たことを友人に伝えると、スゲーな、としばし笑われた。それで終わった。基礎知識とか聞いてもらえたら「これはこうこうでね」などと、知識自慢なんか出来て予習もひとまず報われたのだが、そういうことは特になかった。

ちょっと寂しい気持ちでいたら、上映が始まった。

 

現在も上映中なので、ネタバレを伏せた上で簡単な感想を。

思っていたよりも、結構シリアスなお話であった。およそ30年越しくらいにオリジナルのゴーストバスターズの「その後」が描かれたわけだが、かなり切ないことになっている。あれから五年後、のテロップで幕が開き、あの面々はオカルト書店の店長超常現象番組の司会に転身していた……という第二作とは、えらい違いであった。やはり30年の流れは重い。

第一作の流れを忠実になぞった(シリーズの恒例とも言える)ストーリーは、第一作の内容にもがっつり踏み込んでいて「なぜディナのマンションにゴーザの神殿が出現したか」という謎の真相をも含みながら、あくまで新しいキャラクターの物語を中心に、盛りだくさんの内容となっている。オリジナルキャストは(俳優業を引退したリック・モラリスを除き)もちろん全員が再登場。ならば「あの人」はどうやって出てくるのか……というのが、本作最大の見どころ。暴れ回るゴーストのどんちゃん騒ぎはもちろん健在なのだが、全編どこか物寂しさが漂う物語であるだけに……あのドラマティックなクライマックスは、とても胸に迫った。平易な表現だが、とても良い続編であった。

 

これから『ゴーストバスターズ/アフターライフ』を観る方へ

最後に、今から最新作を観に行く予定のある方にアドバイス……というほど大層なものではないが、お伝えしたいことをいくつか記しておく。

 

①予習はしておいた方がいい(一作目だけでも)

友人は予習ゼロの状態で観ていたのだが、隣にいながら「これ伝わってるかな」という老婆心でヒヤヒヤしてしまったシーンがいくつかあった。思っていたよりも、過去作にまつわる説明のシーンは少なかった印象だ。そのおかげでテンポは非常に軽快なのだが、やはりシリーズの概要は把握しておいた方が良いように思う。言及されるのは(ほぼ)第一作の要素だけなので、第一作だけでも観ておいたら理解度は格段に上がって、より楽しめるはず。そんなに長くないし楽しく観られる映画だから、ぜひ鑑賞しておくことをオススメする。

 

……あ、まずい。ひとつしか思いつかない。単に「予習はいいぞ」と(友人に出来なかったぶん)自慢しただけ……というか当たり前のことを書いただけの項になってしまった。

というわけで、つまりそれくらいには何も考えなくとも、準備ゼロの飛び込みでも楽しめる映画だということ。30年前と比べればCG技術は脅威的な進化を遂げていて、ゴーストも(生霊っぽいとかいう意味ではなく)リアルで大迫力、久しぶりにとても「映画らしい」映画を観て、映画館ならではの満足感を味わうことが出来たのであった。いい一日だった。

 

ちなみに、開演前のロビーに『呪術廻戦』のポスターがあって「これも良いかなと思ったけど、シリーズものだもんね」と何気なく言ったら、友人が「これは前日譚だから、あんまり知らなくても大丈夫だと思うよ」と言うので、思いがけず盛り上がって今度また観に来ようという話になった。調べてみたら、現時点で18巻出ているらしい。うむ、何日かかるかな……って読むつもりか俺。