シネクドキ・ポスターの回路

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プリンスの『Little Red Corvette』が好きすぎた男の末路。

人生の中で「特別な曲」と呼べるほど大好きな一曲だけを特集する「好きすぎた男の末路」シリーズ、大好評(?)につき第二弾です。今回ご紹介するのは80年代屈指の天才アーティスト・プリンスによる、数あるヒット曲のひとつにして代表作『Little Red Corvette』です。

 

 

 

はじめに 〜『Little Red Corvette』とは

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プリンスの代表曲のひとつとして知られる『Little Red Corvette』は、1982年に発売された5thアルバム『1999』からのセカンドシングルとして発売され、当時のキャリアにおける最高位となるチャート成績を記録しました。

ドラムマシンの元祖として知られる「Linn LM-1」を効果的に用いたビートに乗せて、炸裂するプリンスならではの官能的で激情にあふれたボーカル。ギターソロを務めたのはリサ・コールマンとデズ・ディッカーソン、後にプリンスのバンド「Prince & The Revolution」のメンバーとなる面子です。プリンスがギターソロを担当しなかった例は珍しく、アルバム『1999』収録曲の中でも唯一です。

大ヒットを記録した楽曲ですが、歌詞の内容は非常に「けしからん」ものとなっています。コルヴェットとはアメリカの自動車メーカー・シボレー社のスポーツカー・ブランドであり「小さな赤いコルヴェット」とは、とある女性を喩えた表現です。その「コルヴェット」に「君は速すぎるよ、もっと落ち着いて『愛』を見つけるべきだ」と諭しながら、やっぱりその「ボディ」に魅了されていく主人公……というのが歌詞の概要。その大部分は、性愛にまつわる描写で占められています。

ジャケ写でもライブでもやたらと服を脱ぎ、露骨なパフォーマンスを繰り広げていた80年代プリンスの楽曲には多く見られる「曲はポップなのに歌詞がエロい」パターンのひとつです。しかしこの曲を含め、それでもヒット曲を連発したキャリアを振り返ると、そのバランス感覚の凄さが改めて感じられます。

 

 

いろいろな『Little Red Corvette』を集めてみた

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というわけで今回は、年代・アレンジ・歌い手を越えて、ありとあらゆる『Little Red Corvette』を集めてみましたので、ご紹介します。さて、皆さんの一番好きな『Little Red Corvette』は、どのバージョンでしょうか。全部同じでは?という見解は、認めません。

 

01. Little Red Corvette (Official Music Video)

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1983年、リリース当時に制作されたミュージック・ビデオ。プリンスとしては『1999』に続く、MTVで放映された二作目のMVにあたります。内容も『1999』と同じく、ライブ演奏の模様を収録したものです。暗めの照明効果が、楽曲の世界観とマッチしていて素敵です。

それにしても、紫のラメ入り衣装なんて着こなせるのはプリンスくらいでしょう。ビデオとしてのシューティング前提だからか、ステージ上での暴れっぷりは普段よりも控えめですが、マイクスタンドのちょっとしたアクションだけでもめちゃくちゃカッコいいのが流石。

 

02. Little Red Corvette (Special Dance Mix)

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12インチ・シングルとして発売された際のロング・バージョンです。フル・レンジ・バージョンと表記されることもあります。アルバム・バージョンではフェードアウトで締めくくられていた、その続きを聴くことができます。長らくシングルLPのみの収録でしたが、2006年に発売されたベスト盤『Ultimate』で、初めてCD化されました。

80年代といえば「12インチ・シングル」の時代、プリンスも例外ではありません。12インチは「エクステンデット版」などの名前でロング・バージョンが収録されるケースが多いですが、プリンスの場合はその度合いが尋常でない時があり、アルバムでは4分くらいだったのが22分くらいになったという曲もあります。プログレか。

 

03. Little Red Corvette (Live at Syracuse 1985)

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1985年3月、プリンス&ザ・レボリューションのライブツアー『Purple Rain Tour』のニューヨーク公演として、シラキュースのキャリア・ドームで行われたライブでの演奏。

当時『Purple Rain』の大成功で人気絶頂だったプリンス。このライブは映像化され、プリンス初のライブ・フィルムとしてビデオ/レーザーディスクで発売、その後2017年に発表されたアルバム『Purple Rain』のデラックス・エディションで、初めてDVD化されました。長ーーいイントロが心地よく、対して後半のキレっぷりが最高にカッコいいです。

 

04. Little Red Corvette (Live in Utrecht 1987)

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1987年、のちに映画にもなった『Sign 'O' The Times』ツアーのステージ、そのオランダ・ユトレヒト公演でのライブ音源です。アルバム曲である『Play in the Sunshine』と『Housequake』の合間、あたかもブリッジのように短く演奏されるバージョンですが、この流すような控えめさが余裕を感じさせて、逆にカッコいい。映画で観ると、ピアノを演奏しながら客に歌わせるプリンスの笑顔が、ますますカッコいいです。

このライブはまさしく「プリンス全盛期」と言える素晴らしい内容なので、初心者の方にもおすすめの映画です。

 

05. Little Red Corvette (Live at Staples Center 2004)

一気に飛んで2004年。久しぶりにメジャー配給から発売、大ヒットを記録してグラミー賞にも輝いたアルバム『Musicology』発表後のツアー『Musicology Tour』で演奏された、アコースティックギターによる弾き語りバージョン。

コード進行がシンプルなので弾き語りが映えるこの曲、無数に存在するカバーも多くが弾き語りだったりするのですが、ここはやはり本人によるバージョンでご紹介します。それにしてもプリンスの弾き語りって本当カッコいいです。こんなバカでかい会場をひとつの楽器で演出できる人、そうそういません。

 

06. Little Red Corvette (Live at Montreux Jazz Festival 2009)

個人的には、これを紹介するためにこの記事を書いたと言っても過言ではないくらい、大好きなバージョンです。2009年、モントルー・ジャズ・フェスティバルに出演した際の演奏。シンプルな4ピースで出演したこのライブ、それぞれの即興パートもふんだんに盛り込んだ、ジャジーなアレンジが非常にカッコいいステージでした。

聴きどころは何と言っても、これでもかとばかりに炸裂するプリンスのギターソロ。楽曲として、シンプルでブルージーなこのバージョンこそ、完成形と言えるのではないかと思います。カッコよすぎ。

音源化はされていませんが、2021年に発売された未発表アルバム『Welcome 2 America』の特典ブルーレイ(2011年のライブ映像)で、同じアレンジのバージョンを聴くことができます。

 

07. Little Red Corvette (Covered by Mike Zito and The Wheel)

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他のアーティストによるカバーバージョンもご紹介します。まずは2014年に発表された「Mike Zito and The Wheel」によるライブでのカバー。シンプルなアレンジですが、楽曲の雰囲気を的確にとらえた、ブルージーでカッコいい名カバーだと思います。この曲のカバーとして「ありそうでなかった」サックスとの絡みが素晴らしいです。

Zitoは、ブルースロックバンド「Royal Southern Brotherhood」での活躍で知られる、アメリカ出身のミュージシャンです。ブルース畑らしい渋い歌声が、楽曲の世界観と見事にマッチしています。

 

08. Little Red Corvette (Covered by Sam Bettens)

ベルギー有数のコンサートホールとして知られる「Ancienne Belgique」にてSarah Bettensが披露したカバー。Bettensは「K's Choise」のリードシンガーとして知られており、当初は女性ミュージシャンとして活動していましたが、2019年に男性へと性別を変え、名前も「サラ」から「サム」に改名しました。

このライブは2008年頃に行われたもので、まだ声質も女性としての雰囲気が色濃いです。実はこの曲、女性のアーティストによるカバーは比較的少なく、こういう声で聴くとまた新鮮な印象を受けます。シンプルなアレンジも秀逸。

 

09. Little Red Corvette (Covered by Scott Hutchinson)

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2016年頃、イギリス・リーズの路上で披露された、Scott Hutchinsonによるカバー。アコースティックギターによる弾き語りで、フリートウッド・マックの代表曲『Dreams』とのメドレーアレンジになっています。ハスキーで魅力的な声質と、ギターの暖かい響きが見事に絡み合っています。でも最後まで見るところ、ギターは当て振り、ということでしょうか……。

Hutchinsonは、スコットランドのインディーズ・バンド「Frightened Rabbit」のメンバーとして知られていましたが、このパフォーマンスから二年後の2018年、突然の自殺によって36歳の若さでこの世を去りました。才能を感じさせる歌唱であるだけに、惜しい限りです。

 

 

おわりに 〜 要するに言いたいこと

さすがは大スターの代表曲、わりと渋めな曲調で、歌詞も際どい内容でありながら、国境や世代を越えて多くの人に愛されている一曲と言えます。この他にも無数のカバーバージョンが存在しているので、気になった方はぜひ。

プリンスによるパフォーマンスとしては、こうして振り返るといくつかの段階を経てきたのが分かります。リリース当初の音源に忠実なアレンジから、曲と曲を繋ぐブリッジ的に演奏されていた時期、あんまり演奏されなかった時期……それらを経て、あの「モントルー'09」以降のブルージーなアレンジが完成したのだと思います。約30年くらいかけて辿り着いた「完成形」と言えるのではないでしょうか。あれは本当に、もし聴いたことのないプリンスファンの方がいたら、絶対に聴いてほしい。プリンスファンでない人にも聴いてほしい。

 

つまり、今回の記事で私が言いたかったことは何かというと、

2009年の「モントルー・ジャズ」でのライブを、公式にリリースしてほしい!

ということです。そういう記事でした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。