シネクドキ・ポスターの回路

映画や音楽を楽しみに生きています。

ピーター・ガブリエルの『Mercy Street』が好きすぎた男の末路。

いろいろな音楽を聴いていると、時に「特別な一曲」と出会うことがあります。信じられないほど気持ちとシンクロしたり、思いがけず記憶がフラッシュバックしたり(共感覚、的な)して、明らかに「これは他の曲と違う」と感じられる曲が、稀にあるのです。私にとって、そういう曲のひとつであるのが、ピーター・ガブリエルの『Mercy Street』です。

今回は、いったい何人に刺さるのか(刺さる人がいるのか)分からない、この一曲だけの特集をお送りします。

 

 

 

まず『Mercy Street』とは

ピーター・ガブリエルの『Mercy Street』は、1986年に発表された5thアルバム『So』に収録された一曲です。アルバムは『Sledgehammer』などヒットシングルを多数収録したガブリエルの代表作として知られていますが、この曲はシングルカット等されておらず、アルバムのみの収録となっています。よって、認知度としてはあまりメジャーな曲ではありませんが、ガブリエルの楽曲の中でも随一の神秘的な雰囲気をもった楽曲で、ファンからの人気は非常に高い「隠れた名曲」です。

 

語りたい『Mercy Street』の魅力

まずは、楽曲としての『Mercy Street』の魅力を語っていきたいと思います。とはいえ、私の表現力だけでは伝えきれないニュアンスもあり、また「百聞は一見にしかず」という言葉も(この場合「一見」ではないのですが)ありますので、この曲を聴いたことがない、あるいは久しく聴いていないという方には、ひとまずここで一度、聴いてみていただきたいと思います。

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魅力① 神秘的なサウンド・プロダクション

アルバム『So』のプロデュースを担当したのは、U2ヨシュア・ツリー』など数々の名盤を手がけたことで知られる当代屈指のサウンドメーカー、ダニエル・ラノワです。アンビエント・ミュージックの先駆者であるブライアン・イーノからの影響色濃いラノワのサウンドは、えもいわれぬ浮遊感を感じさせる、神秘的で美しい音世界を創造しています。このプロダクションが楽曲と絶妙にマッチして、曲自体が持つ「神秘性」が見事に体現されているのです。

 

魅力② 深遠なテーマ性を含んだ歌詞

この曲は、アメリカの劇作家/詩人であるアン・セクストンの作品にインスパイアされた楽曲として知られています。歌詞の内容は、セクストンが「Mercy Street」というテーマのもとに遺した戯曲とポエム、そしてサクストン自身の生涯を踏まえたものになっています。生涯を通して神経症に悩まされ、45歳の若さで自殺したセクストンの苦悩が、彼女の作品をそのまま下敷きにして描かれているのです。ひとつの歌詞としても深みのある内容ですが、セクストンの作品や生涯について知っていると、その精神性をより深く理解することが出来るでしょう。

 

魅力③ 世界観を描き出す見事なアレンジ

神秘的で深遠な楽曲の魅力を引き立てているのが、その美しいアレンジメントです。特徴的なパーカッションを奏でているのはブラジル出身のパーカッショニスト、ジャウマ・コレア。この独特のリズムは「フォホ」と呼ばれるもので、ブラジル北部で生まれたものと言われています。このユニークなリズム感が、重厚なシンセサイザーの響きと相まって、この曲を単なる「静謐な曲」ではなく、神秘性や崇高さを感じさせる、非常にドラマティックな音世界へと昇華させている、と言えるでしょう。

 

 

いろいろな『Mercy Street』を集めてみた

聴けば、どこか崇高な印象さえ受ける『Mercy Street』ですが、曲としての構造は非常にシンプルで、コード進行も比較的単純なものです。それ故か、この曲にはいくつものリアレンジ/カバーが存在しています。

というわけで、いろいろな『Mercy Street』を集めてみました。アレンジが変わることで曲の印象がどんなふうに変わるのか、または変わらないのか、感じていただくことができると思います。

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なんといってもオリジナル版『Mercy Street』

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すでに先ほどリンクを貼った音源なのですが、やはり「オリジナル版」がなければ始まらないので、こっちにも貼ります。一応、今度はPVの方にしてみました。先述の通り、この曲はシングルカットされていないのですが、このようにPVが制作されています。やはり、アルバム曲の中では目玉の曲だった、ということなのだろうと思います。

映像の内容は、アン・セクストンを意識したもののようです。プロモーション・ビデオと呼んでいいのか、と言っていいほど、プロモーション意欲を感じさせない(むしろお客さんが逃げていきそうな)雰囲気ですが、シングルじゃないしってことで、OKだったのでしょうか。

 

フルートのソロがたまらないライブ版『Mercy Street』

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続いて、2003年のライブ『Glowing Up Live』での演奏。この曲はライブでの演奏率が比較的高く、ライブ音源も幾つか発表されているのですが、中でも個人的にベストテイクだと感じるこの音源を紹介します。

このバージョンの魅力は、なんといっても曲中盤でのフルートのソロパート。オリジナル版ではガブリエル本人によるシンセサイザーで演奏されていたこのパートを、本バージョンではリチャード・エヴァンズがフルートで演奏しています。個人的には、このフレーズはフルートなどの生楽器で演奏されたことで、はじめて本来の魅力を発揮したように思います。そのくらい、このソロパートは感動的です。

 

重厚な響きで味わうオーケストラ版『Mercy Street』

2011年に発売されたセルフカバーアルバム『New Blood』で、ガブリエルは自身の過去曲をオーケストラ・アレンジによって再構築しました。荘厳なオーケストラの響きによって『Red Rain』などの代表曲がよりダイナミックに、勇壮に生まれ変わりました。

一方、この曲の場合は、オリジナル版が含んでいたストーリー性が、よりドラマティックに表現されているように感じます。シンセサイザーを中心に、どこか閉塞的な雰囲気のアレンジが施されていたオリジナル版と比較すると、生楽器の豊かな響きが加わったことで、世界観がぐんと広がった印象です。

 

ハービー・ハンコックによるジャズ版『Mercy Street』

この曲には無数のカバー・バージョンが存在していますが、なんとあのハービー・ハンコックもカバーしているのです。カバー、というよりも「リアレンジ」と言った方が近いかもしれない雰囲気ですが、ジャズ(=即興演奏)だから仕方ありません。

1996年に発表されたハンコックのアルバム『ニュー・スタンダード』に収録されたバージョンで、演奏にはジャック・ディジョネットをはじめとする錚々たる面々が参加しています。主に70年代以降のポップスを取り上げたアルバムで、他にもプリンスやニルヴァーナの楽曲が収録されています。ジャズ畑のミュージシャンがポップスをカバーするとこうなる、という一つの例として、非常に面白い音源だと思います。

 

インディーズ・バンドのアコースティック版『Mercy Street』

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最後は、インディーズで活動しているミュージシャンによるカバーをご紹介します。2008年にローレンス・コリンズがYouTubeに投稿したアコースティック・バージョンです。Spotifyで公開されている音源はコリンズのバンドによる演奏で、この動画とは異なるアレンジです。

動画の概要欄で、コリンズはこの曲を「フェイバリットのひとつ」と語っています。そんな愛情がひしひしと感じられる、オリジナルの雰囲気を尊重した、非常に忠実なアレンジです。それでいて、アコースティック・ギターの暖かい音色が効果的に用いられており、弾き語りという角度から楽曲の新たな魅力を巧みに引き出しているカバーだと思います。

 

 

おわりに 〜 記事をふりかえって

そもそもこの記事を書こうと思ったきっかけは、YouTubeで『Mercy Street』を繰り返し聴いていて、そのうちオリジナル音源に飽き足らなくなり、バージョン違いやカバーを聴くようになって「これをまとめたら、ちょっとした文章が書けるんじゃないか?」と思った、そんな思いつき一発でした。見切り発車で書きはじめた記事でしたが、その割にはマトモな内容に落ち着いたかと思います。ただ、アン・セクストンについてはもっと勉強しておくべきだった。ぼんやりとしか書けませんでした、すみません。

記事を読んでいただいた皆さんにも、このプレイリストなどを通して、この曲の魅力を感じていただけたら幸いです(逆に「5回も聴いて飽きてしまった」みたいなことにならないよう願っています)。同じ曲をいろいろなバージョンで聴き比べてみると、それぞれのサウンドの質感の違いが楽しめたり、共通点として楽曲そのものの姿が再発見できたりして、なかなか面白いです。他の曲でもやってみようかな、と検討中です。

……そういえば、ピーター「ゲイブリエル」って書いた方がよかったでしょうか。正しい発音はそっちらしいです。ピーター・バラカンに怒られるかも、まあいいか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

哀愁が泣ける!デ・パルマ映画の切なすぎるスコア5選!

スティーブン・スピルバーグフランシス・フォード・コッポラマーティン・スコセッシなど、のちに巨匠となる名監督を数多く輩出した70年代のハリウッド。そして、彼らと並んで70年代のアメリカ映画シーンを代表する監督のひとりとして知られているのが、巨匠ブライアン・デ・パルマ監督です。今回は、そんなデ・パルマ監督のフィルモグラフィーサウンドトラックから選出した「泣ける!哀愁のスコア」を、厳選してご紹介します!

 

 

 

映画ファンに人気!ブライアン・デ・パルマ監督って?

まずは、ブライアン・デ・パルマ監督の経歴や作風について紹介していきます!

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70年代ニューハリウッド世代を代表する巨匠

デ・パルマ監督のキャリアは、ニューヨークを拠点として制作した短編やドキュメンタリー作品から始まりました。それらの作品が高く評価されたことを機に、1970年代にハリウッドへ拠点を移し、直後に監督した『キャリー』の大ヒットによって一躍その名を広く知られることになりました。70年代ハリウッド随一の鬼才として知られ、過激な内容から賛否両論を呼ぶことも少なくありませんでしたが、その後もパラマウント映画75周年を記念した大作『アンタッチャブル』や、トム・クルーズ主演の人気シリーズ第一作『ミッション:インポッシブル』などの大ヒット作を世に送り出しました。

熱狂的なファンも多数!その独特な映像美

デ・パルマ作品の最大の特徴は、ワイプ演出やスローモーションなどの映像技術を駆使した大胆な演出です。他に類を見ないほど、テクニカルな演出をふんだんに取り入れた映像には独特の世界観があり、熱狂的なファンも少なくありません。ちなみに90年代を代表する名監督クエンティン・タランティーノも、デ・パルマ監督の大ファンであることを公言しています。

映像テクニックを大々的に取り入れた演出センスは非常にダイナミックで、どこか大仰にも感じられるほどです。しかしデ・パルマ作品においては、この大仰さはかえって退廃的な印象を生み、むしろ虚しさや切なさを感じさせる効果を生んでいます。そんな哀愁を感じさせるデ・パルマ作品のサウンドトラックには、やはり哀愁にあふれた名スコア(音楽)が満載。というわけで今回は、デ・パルマ作品のサウンドトラックの中から、哀愁が沁みる「切ない名曲」5選をご紹介します!

 

 

デ・パルマ作品の「泣ける」哀愁のスコア5選!

これまで数多くの大物音楽家たちが、デ・パルマ作品にスコアを提供してきました。あの『愛のプレリュード』の作曲家として知られるポール・ウィリアムズ、言わずと知れた映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネドナ・サマーのプロデュースで知られるシンセサイザーの先駆者ジョルジオ・モロダーなど、幅広いジャンルから錚々たる面々が音楽担当として参加、作品の心情を見事に体現した、素晴らしいサウンドトラックの数々を手がけています。それでは、さっそく聴いてみましょう!

Old Souls / Paul Williams 〜 映画『ファントム・オブ・パラダイス』より

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1974年公開の『ファントム・オブ・パラダイス』は、デ・パルマ作品初期の傑作として知られているロックミュージカル映画です。主人公である作曲家のウィンスローは、大手レコード会社の社長であるスワンに騙され、自作の曲を奪われ存在をも抹消されてしまいます。怒りに燃えるウィンスローは復讐を決意。スワンが主催する史上最大のロックコンサート「パラダイス」を舞台に、壮絶な復讐劇が幕を開けます。

この曲は、ウィンスローが想いを寄せる女性シンガー・フェニックスが、彼女に名声をもたらしてくれたスワンと一夜を共にする様子をウィンスローが目撃、雨に打たれながら慟哭するシーンで流れます。自分自身だけでなく、愛する人の心までスワンに奪われてしまったウィンスローの悲哀が、他でもないフェニックスの声で歌い上げられています。作曲はポール・ウィリアムズ。本作においてウィリアムズは音楽だけでなく、俳優としてスワン役も担当しています。

本作はロックミュージカルなので、全編にわたってオリジナルのロック楽曲が使用されており、そのすべてをポール・ウィリアムズが手がけています。どの楽曲も素晴らしく、サントラ盤は通常のロックアルバムとしても十分に楽しめる名盤です。ぜひ聴いてみてください!

 

Prelude / Pino Donaggio 〜 映画『ミッドナイト・クロス』より

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1981年公開の傑作サスペンス『ミッドナイト・クロス』で音楽を担当したのは、デ・パルマ作品の常連として知られる作曲家ピノ・ドナッジオデ・パルマ作品にドナッジオが提供した数々の名スコアの中でも、非常に高い人気を誇る一曲と言えるでしょう。本編随一の名場面である、あまりにも悲しいクライマックスを彩る旋律は、音楽だけでも切なさを感じさせる屈指の名曲です。

主人公であるB級映画の音響マン・ジャックは、ある録音作業中に交通事故に遭遇します。事故はタイヤのパンクが原因として処理されますが、ジャックの録音テープには事故の直前、タイヤを撃ち抜いた銃声が記録されていました。ジャックは、事故から唯一生還した謎の女性・サリーとともに、事件の真相に迫ろうとします。

映画の全編にわたって、この物悲しげなテーマが要所に挿入されており、物語の悲劇的な末路を示唆しています。そしてクライマックス、美しい音楽と映像が魅せる、あまりにも切ない二人の結末は、数あるデ・パルマ作品の中でも屈指の名シーンです!ぜひご覧ください。

 

Tony's Theme / Giorgio Moroder 〜 映画『スカーフェイス』より

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デ・パルマ監督の代表作のひとつとして知られる、1983年公開の名作ギャング映画『スカーフェイス』は、カストロ政権下のキューバから追放され、アメリカにやってきた一人の青年が裏社会でのし上がり、そして破滅していく姿を描いた作品です。主演を務めたアル・パチーノが演じた主人公「トニー・モンタナ」のキャラクターを含め、音楽やゲームなどの幅広い分野において、後代のクリエイターに多大な影響を与えた映画といわれています。

音楽を担当したのは、ディスコ・ミュージックにシンセサイザーを導入した先駆者であり、ドナ・サマーをはじめ数々の大物ミュージシャンを担当したプロデューサーとしても知られているジョルジオ・モロダーです。全編にわたって要所に挿入されているこのテーマは、裏社会に染まり、やがて溺れていく主人公トニーの生き様、その孤独や哀愁を見事に表現しています。非常に80年代らしいサウンドが、かえって重厚に響いていてカッコいいですよね!

 

Death Theme / Ennio Morricone 〜 映画『アンタッチャブル』より

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1987年、パラマウント映画の創立75周年を記念して制作された『アンタッチャブル』は、興行収入において不調が続いていたデ・パルマ監督にとって久しぶりのヒット作となりました。米国犯罪史有数のギャングとして知られるアル・カポネの逮捕に向けて奔走する捜査チームの活躍を描いた実録映画で、豪華なスタッフ&キャスト陣の起用でも話題になりました。

音楽を担当したのは、言わずと知れた映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネ。世界一有名な映画音楽家の一人として、数えきれないほどのフィルムスコアを担当したモリコーネですが、本作のスコアは代表作のひとつであると言えるでしょう。中でも、ある登場人物が死を遂げるシーンで流れるこのメロディーは、映像なくとも思わず悲しさに浸ってしまう、情感あふれる素晴らしいスコアです。改めて、モリコーネの偉大な才能が感じられますね!

 

You Are So Beautiful / Joe Cocker 〜 映画『カリートの道』より

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最後は、1993年公開『カリートの道』のサウンドトラックからの一曲。こちらは映画オリジナルの楽曲ではなく、また実はスコアでもないのですが、デ・パルマ映画で「哀愁」の音楽、といえばこの曲は外せないと思ったので、紹介させていただきます。

アル・パチーノ演じる主人公のカリートは、かつては麻薬王として知られた身でありながらも、5年の懲役を経て出所したことを機に、恋人であるゲイルとともに堅気の生き方を志すようになります。しかし想いとは裏腹に、カリートは裏社会の面々によって再び抗争へと巻き込まれていき、残酷な運命に翻弄されていきます。

映画のラストで流れるこの曲は、1974年にジョー・コッカーが発表した名バラード。コッカーのしゃがれた渋い歌唱とシンプルな歌唱のリフレインが、カリートの哀愁に満ちた生き様、そしてゲイルへの一途な想いと重なります。いちど映画で聴けば「あの映画の曲」として認識されること間違いありません。映画の内容と見事にマッチした、素晴らしい選曲です!

 

 

他にも名作/名スコア満載のデ・パルマ作品!

いかがでしたか?今回ご紹介した作品の他にも、ティム・バートン監督の作品などで知られる映画音楽家ダニー・エルフマンが音楽を担当した『ミッション:インポッシブル』や、日本を代表する音楽家の一人である坂本龍一が手がけた美しいスコアが印象に残る『スネーク・アイズ』など、傑作スコアに彩られた名作が満載です。皆さんも是非、デ・パルマ監督のダイナミックかつ情感あふれる映像世界を味わってみてください!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

今年まさかの復活!伝説のカルトドラマ『キングダム』の魅力に迫る!

みなさん、明けましておめでとうございます!

なかなか先行きの見えない状況が続いていますが、本年が皆様にとって良い一年となることを願っています。

 

さて、皆さんにとって2022年といえば何の年でしょうか?

北京オリンピック世界陸上FIFAワールドカップ……などなど、今年もイベントが盛りだくさんの一年ですが、しかしなんと言っても2022年といえば!いよいよ伝説の未完ドラマ『キングダム』の新シリーズ放送の年です!

というわけで今回は、史上最強のカルトドラマの異名を誇る『キングダム』の魅力をご紹介していきます!

 

 

 

デンマーク発!伝説のドラマ『キングダム』って?

まずは、ドラマ『キングダム』の概要について紹介していきます。

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視聴率50%超え!世界的巨匠が手がけた大ヒットドラマ

ドラマ『キングダム』は、1994年と1997年にデンマークで放送されたテレビドラマです。4話で構成された2つのシーズンで、合計8つのエピソードが放送されました。脚本と監督を務めたのは、名作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などで知られる世界的巨匠の映画監督ラース・フォン・トリアーです。当時まだ新進気鋭の若手監督であったトリアーによって手がけられた本作は、そのダークで強烈な内容にも関わらず、本国デンマーク50%を超える驚異的な視聴率を記録、日本でも5時間弱に再編集されたバージョンが劇場公開され、カルト的な人気を誇りました。

2022年、25年越しの完結編シリーズが放送!

熱狂的な支持を受けた前2シーズンに続き、満を持しての「完結編」として制作が予定されていた『キングダム』の第3シーズン。しかし、その撮影を前にして主演俳優であったエルンスト・フーゴ・イエアゴーが逝去してしまいます。その後も複数名のメインキャストが亡くなってしまったことで、新シリーズの制作は頓挫。ドラマ『キングダム』のシリーズ続行は不可能と判断され、未完のまま封印された「伝説のドラマ」になってしまったのです。

それから25年。なんと今年、続行不可能と言われた『キングダム』がまさかの復活、完結編シリーズの放送が決定しました!昨年の夏に撮影が行われ、現在ポストプロダクションが進行中、年内にはデンマークで放送される予定です。25年越しの新シリーズが一体どんな内容になるのか、今から楽しみですね!

 

ドラマ『キングダム』の魅力に迫る!

今年、まさかの復活を遂げる『キングダム』ですが、そのカルト的な人気の所以は、テレビドラマとは思えない(まして視聴率50%超など信じがたい)その「あまりに独特な」世界観に尽きます。というわけで、ここからはドラマ『キングダム』の魅力を、いくつかの側面から掘り下げていきたいと思います!

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魅力① 荒唐無稽で支離滅裂、独特すぎるストーリー

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まず、この『キングダム』をジャンルで表現すると「オカルトホラー」です。デンマークのとある国立病院を舞台に、人々を襲う数々の心霊現象。その裏に隠された「ある少女」にまつわる謎、そして病院の過去に隠された「ある秘密」を解き明かしていく……というのが、本筋のストーリーです。しかし、その他のサブ要素があまりに強烈なので、一筋縄ではいかない内容になっています。

というのも『キングダム』は、病院を舞台にした「人間ドラマ」でもあるのです。病院の医師や患者、中にはヘタをすると幽霊よりも断然ヤバい人も少なからずいて、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、そこへ相乗効果とばかりに突拍子もない怪異譚が混ざり合い、物語は狂気さえ感じさせるドロ沼でカオスな展開へと突き進んでいきます。

特に後半の勢いは凄まじいのですが、いかんせん未完のまま中断したシリーズなので、一番いいところでプッツリ途切れて終わります。さすがの伝説っぷりです。

観たら思わず、作った人に「どうかしてるんじゃないか」と言いたくなるような、不気味なオカルトホラーであり、ぶっとんだブラックコメディであり、しかし流石は巨匠トリアー監督、めちゃくちゃ面白い人間ドラマに仕上がっているのです。とはいえ、いくらドラマとしての完成度が高いとしても、この内容で視聴率50%超というのは恐ろしい話です。デンマークの国民性が気になるところですね!

魅力② 個性的で狂気的、独特すぎるキャラクター

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恐ろしくてオモシロい、この上なくダークな『キングダム』の世界で、怪奇現象に翻弄される医師や患者の面々。彼らの行動によって物語が進んでいくわけですが、はっきり言ってマトモな人はひとりもいません。具体的に書くと、

デンマーク人を異常に見下していて嫌われているスウェーデン人の初老医師

・病院の地下室に陣取って裏で職員たちを牛耳っている若い医師

・悪魔と恋人になってしまいその子供を妊娠してしまう女性医師

・想いを寄せる看護師に死体の生首をプレゼントしようとする医師長の息子

・ガン細胞の標本が欲しいあまりにガンを自分の体へ移植してしまう医学者

・こんな部下たちにまったく無関心なまま毎日を能天気に過ごす医師長

・嘘の症状を訴えて数十回入院し降霊術で病院の霊を研究している老婦人

などなど、普通ひとつのドラマに一人いるかどうかレベルのクセ者ばかりが揃いに揃って(いろんな意味で)非常に濃厚な人間ドラマを紡いでいきます。みなさんは、どのキャラクターが気になるでしょうか?

魅力③ セピアで手持ち、独特すぎる映像世界

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異様きわまりない『キングダム』の世界を、トリアー監督は全編セピア調の映像で撮影しています。これは監督が、長編デビュー作である『エレメント・オブ・クライム』から頻繁に用いている手法で、本来ならばノスタルジーを演出するセピア効果をそのまま現代劇に用いることで、異次元のような奇妙な質感が演出されています。この非現実的な印象を与える効果は、ドラマ『キングダム』の常軌を逸した世界観に必要不可欠な一要素であると言えるでしょう。

また同時に、トリアー監督は本作においてハンディ撮影の手法を大胆に取り入れています。手持ち映像の臨場感は、まるでドキュメンタリーのような生々しさを感じさせ、非現実的な内容と相まって、ますます異様な印象を体現しています。この手法には監督自身も手応えを感じたようで、この後に発表した『奇跡の海』以降の長編作品においても、ハンディ撮影はたびたび取り入れられています。この作品は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でも観られるトリアー監督の「手持ち映像を多用する作風」の始まり、と言えるかもしれませんね!

 

 

ドラマ『キングダム』はどこで観られる?新作シリーズに期待!

いかがでしたか?今回は25年ぶりの新シリーズ放送を祝して、ドラマ『キングダム』の魅力を紹介させていただきました。

それでは、新シリーズに先駆けて『キングダム』の旧シリーズを観たい場合、どうすれば観ることができるのでしょうか?NetflixAmazon Primeなどのストリーミングサービスでは配信されているのでしょうか?

結論から書くと、残念ながら現在『キングダム』を配信しているストリーミングサービスは存在しません。また、20年近く前に発売された唯一の日本盤DVDはとっくの昔に絶盤になっており、レンタル用DVDは存在していません。すなわち、現状『キングダム』を観るためには、中古のDVD(あるいはVHS)を手に入れる以外ありません。しかし、このDVDボックスは現在かなり高騰していて、元値の倍以上にあたるプレミア価格で取引されている状況です。

詳しくはこちらをご参照ください。

 

このように現状、入手困難となってしまっている『キングダム』ですが、また同時に、近いうちに再びソフトが発売、または配信サービスに追加される可能性が高いことも事実です!

以下、新シリーズのプレスリリースとして発表された情報です。

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どうやら、すでに日本における新シリーズの配給をSYNCA CREATIONSが獲得したようで、この配給には旧シリーズのHDレストア版も含まれている、とのことです。このHDレストア版は数年前から告知されていたもので、実際のレストア映像の一部も公開されていたのですが(上記、魅力③の項にリンクを貼った動画です)実際にソフト等として発売されることはありませんでした。今考えてみると、今回の新シリーズに合わせるために発売を延期していたのだと思われます。

旧シリーズのHDレストア版、そして新作である完結編シリーズともに、日本でも何らかの形で鑑賞することができるのはほぼ確実と言っていいかと思います。いつ観られるのか、どんな形で公開されるのか、今から楽しみですね!

 

やはり今年は、25年越しの『キングダム』の年になりそうな予感です。皆さんも是非、伝説のドラマがついに「完結」するその時を、一緒に見届けましょう!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

個人的2021年を振り返るプレイリストを作ってみた。

今年最後の日に、プレイリストを作った。

ふと思い立って「2021年を振り返るプレイリスト」を作ってみました。朝の電車でよく聴いていた音楽や、印象的だった映画や出来事を「音楽」で振り返ってみたりして、10曲を選んでみました。こんな年だったんだなあ、と振り返りながら、一曲ずつコメントしていきたいと思います。2021年に発売された曲ベスト10、とかではありません。40年くらい前の曲とかもあります。ご了承ください。

 

まさがきの「2021年を振り返るプレイリスト」

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01. Cool Dynamo, Right on / ムーンライダーズ

ムーンライダーズの存在は『9月の海はクラゲの海』という楽曲で以前から知っていたのですが、ちゃんと聴くようになったのは今年からでした。もともとXTCをよく聴いていて、そのうち「日本のXTCといえばムーンライダーズ」という声を耳にしたり、フロントマンである鈴木慶一さんとアンディ・パートリッジの交流などを知って、興味を持ちました。そしていろいろ聴いてみると、とてもカッコいい。ひねくれていて、アレンジ凝っていて、それでいてポップなメロディ……と、まさしくXTC的で、しかし「邦ロック」として確固たるオリジナル。

2006年に発表されたこの曲は、30周年アルバムの一曲目として発表された楽曲です。30年目にこんな瑞々しいメロディーを作れる懐の深さがスゴいです。さらに鈴木さんの歌詞がスゴい。過去作とのリンクがあり、特に『ダイナマイトとクールガイ』という楽曲(こちらもカッコいい名曲)の続編として描かれている歌詞は、聴けば聴くほど味わい深いです。

 

02. The Crying Scene / Aztec Camera

アズテック・カメラをちゃんと聴くようになったのも今年でした。オレンジ・ジュースとかはたまに聴いていたのに、なぜかアズテック・カメラにはあまり惹かれず、近所にあった大型TSUTAYAのレンタルコーナーに「オリジナルアルバム5枚セット」というお得すぎるBOXがあったにも関わらず、特に借りようとも思わないまま、あえなく大型TSUTAYA今年閉店、ちょうどその直後にバンドにハマり、痛烈に後悔している次第です。

特に帰りの電車などで、どのアルバムもよく聴いていましたが、その中から一番最初にピンときた、この曲を選びました。かなりカッコよくて、かつポップな名曲です。80年代ネオアコのよさを集約させたような、素晴らしい曲だと思います(ただ、リリースは1990年……)。

 

03. Lazy (Radio Edit) / X-Press 2 feat. David Byrne

今年いちばん観に行った映画は、スパイク・リー監督が手がけたデヴィッド・バーンのコンサート映画『アメリカン・ユートピア』でした。たぶん3、4回くらい観たと思います。ちょうど近所の映画館が「爆音上映」的な催しをしてくれていて、本当にライブを観ているような大音量が楽しく、時間を見つけて何度か観に行きました。その中で「カッコいいなあ」と思った曲のひとつが、この曲でした。

もともとトーキング・ヘッズは好きでよく聴いていたので、映画で演奏された曲のほとんどは知っていましたが、バーンのソロの方はなかなか押さえられていないものが多くて、はじめて聴く曲もいくつかありました。この曲も映画ではじめて聴いたのですが、かなり気になったのでオリジナル音源を聴いてみました。めちゃくちゃカッコいいです。いい意味で90年代らしいサウンドが病みつきになります。そこに乗る、ひたすら「自分の怠惰さ(=lazy)を歌う」シュールな歌詞もイイです。ジャケットも素敵(笑)。

 

04. Tempted / Squeeze

スクイーズを聴き始めたのも「XTCに似ているバンド」として名前を知ってから、です。加えてXTC関連で言うと、このバンドに所属するクリス・ディフォードは「XTCのマスターテープを盗み出し、しばらく隠し持っていた」ことがあるそうです。なんだそれ。

スクイーズも(特に今年の前半)いろいろ聴いていましたが、中でもいちばんポップな曲のひとつであろう、この曲を選びました。アレンジといいコード進行といい王道っぽい雰囲気でありながら、絶妙にひねくれている「らしさ」が素晴らしいです。これが好きだったら、スクイーズはハマると思います。

 

05. Try to Believe / Danny Elfman

映画『ミッドナイト・ラン』のエンディング曲。映画ではインストでしたが、こちらはボーカル入りです。歌詞といいメロディーといい、映画の雰囲気を凝縮したような素晴らしい曲なのですが、唯一このバージョンが収録されていた本サントラは、長らく配信されることもなく絶盤状態になっていて、オークションなどで値段が高騰、入手困難な状況が続いていました。そんな中、今年ついに配信・ストリーミングが解禁、この音源もようやく聴けるようになったのです。ダニー・エルフマンが所属していたバンド、オインゴ・ボインゴ名義で発表された別バージョンもあるのですが、やはりゴスペル的なコーラスの入るこちらの方が、よりポジティブな雰囲気でカッコいいです。

ちなみにダニー・エルフマンは今年、37年ぶりとなるソロアルバム『Big Mess』を発表しました。この曲とはかなり方向性の異なる、濃厚なインダストリアル・ロックでしたが、そちらもかなりカッコいいのでオススメです。

 

06. Peer Pressure / Jon Brion

映画『エターナル・サンシャイン』のサウンドトラックより。今年、この映画を久しぶりに観て、とてもとても感動して、しばらくこの映画のことばかり考えてしまっていた時期がありました(笑)。

物語としてはSFで、とあるカップルの女性が、喧嘩してしまった勢いで彼氏の記憶を消去する手術を受けてしまい、それを知った彼氏は怒り「自分も彼女の記憶を消す!」と手術を受けるのですが、その最中の潜在意識の中で、彼女との思い出が消えていくのを目の当たりにして「やはり忘れたくない」と思い直し、なんとか記憶を守ろうと手術に抵抗する……というお話です。そしてクライマックス(ごめんなさいネタバレ入ります)、抵抗したけどほとんどの記憶を消されてしまった彼は、ついに最後の記憶「出会いの日」にたどり着きます。そこでふたりは(というか潜在意識の中なので、本当は彼の独り言)ついに最後の別れを迎える、そのシーンでかかるのがこの曲です。このクライマックスがもう、本当に刺さってしまって、しばらくいろいろ考えてしまって、そういう時にいつもこの曲を聴いていました(笑)。曲だけでも思い出してしまって、ちょっと感動してしまうのです。

映画については、語りたいことが多すぎるので、また今度にします。

 

07. Steal Your Thunder / Prefab Sprout

プリファブ・スプラウトも今年、よく聴きました。以前もたまに聴いてはいましたが、ここまでしっかり聴いたのは今年がはじめてです。とにかく、聴けば聴くほど完成度がものすごい。アレンジにしてもメロディーにしても、とにかく隙がありません。特にこの曲は、とてもポップでドラマティックで、普通にヒットしてもおかしくない完成度だと思います。

この曲が入っているアルバム『Andromeda Heights』は、他のアルバムと比べるとあまりフィーチャーされないのですが、個人的にはとても好きな一枚です。パディ・マクアルーン曰く「ディズニー音楽を意識して制作した」アルバムらしく、確かにディズニーっぽい、ロマンティックな世界観が見事な一作です。この曲が好きな方は、必ずハマると思います。

ちなみに、プリファブ・スプラウトから一曲選ぶにあたっては『Jesse James Borelo』と悩みました。そちらも名曲です。

 

08. エル・フエゴ(ザ・炎)/ 小沢健二

小沢健二さんはずっと好きで聴いていて、今年新曲として発表されたこの曲も、結構聴きました。3ヶ月連続の配信リリースの一曲として発表されたこの曲は、ドラマ『珈琲いかがでしょう』の主題歌にもなりました。最初は正直、あまりピンとこなかったのですが、聴けば聴くほど歌詞が沁みてきて、気づけば口ずさめるようになっていました。

骨の中に時は降り積もる 地層のように

思い出も 思い出せないことも

こことか、本当にすごい歌詞だと思います。感動しました。

 

09. Perpetuum Mobile / Penguin Cafe Orchestra

ペンギン・カフェ・オーケストラを知ったきっかけは、たぶん坂本龍一さんのインタビューだったと思います。そしてYouTubeで検索して、最初に出てきたこの曲を聴いて、速攻で件の(今はなき)近所の大型TSUTAYAへCDを借りに行った、という経緯です。それにしても、ペンギン・カフェ・オーケストラのCDを置いてくれるTSUTAYAって、なかなかないよな、ありがたかったな……と思います。

この曲も相当聴きました。出先で綺麗な風景を見た時など、頭の中でこの曲が鳴っていた時もありました。ドラマティックで、シンプルで、カッコいいですよね。久石譲の『Summer』を聴くと昔の夏を思い出す、みたいに、この曲も聴くといろいろ思い出します。

 

10. Guru / Underground Searchlie

プリファブ・スプラウトとかアズテック・カメラなど、おしゃれな洋楽ばかり聴いていた反動(?)か、今年の終わりに突然「筋肉少女帯ブーム」が来て、10月くらいからは筋肉少女帯とか大槻ケンヂ関連の音楽ばかり聴いていました。中でもこの曲はハマり、ほぼ毎日聴いていたと思います。というか、現在進行形で聴いています。今日も聴きました。

他の曲も考えたのですが、語りがあったり、内容がやたらヘビーだったりと「大槻ケンヂっぽさ」が濃厚に感じられる曲であること、加えて個人的に一番聴いていた曲のひとつだったことから、この曲を選びました。この曲の語りは初めて聴いた時、かなりジーンと来ました。特に「お前が人に本当に伝えたいことだけを〜」のところ。オーケンの語りは、聴き手に向けられていながら、同時に自分に言い聞かせているような緊張感があって、刺さります。女性ボーカルを巧みに用いたアレンジ、終わり方もいい感じです。

この曲は筋肉少女帯として発表されたバージョンもあり、そちらは語りなどがなくなってシンプルなアレンジになっています。橘高さんのギターが聴けたりして、そちらもカッコいいのでオススメです。

 

私の2021年、音楽で振り返るとこんな感じでした。自分ではあまり音楽を聴いていた印象なかったのですが、思ったよりもいろいろ聴いていたみたいです。さて、来年はどうなっているのでしょう。とりあえず、しばらくは「筋少ブーム」が続くと思います(笑)。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。みなさん良いお年を!

これだけは見逃せない!ラバーガールのYouTubeコント5選!

近年のネット文化の興隆にあわせて、いわゆる「YouTuber」に限らず、多くの著名人・タレントがYouTubeへと進出しています。加えて、今回のコロナ禍の煽りがエンタメ業界に大きな影響をもたらしたことも、ネットでの活動が盛り上がる一端となったと言えるでしょう。

この記事では、コント職人として知られる人気芸人・ラバーガールが自身のYouTubeチャンネルで発表した映像コントのおすすめネタを紹介していきます!

 

 

コントで人気!ラバーガールの経歴を紹介

まずは、お笑いコンビ・ラバーガールの簡単なプロフィールをご紹介します。

日本を代表するコント職人

ラバーガールは、ボケ担当の大水洋介さんとツッコミ担当の飛永翼さんによる、プロダクション人力舎所属のお笑いコンビです。お笑い養成所で結成したのち2001年にデビューし、2010年と2014年には「キングオブコント」の決勝にも出場しました。大水さんの飄々としたボケと飛永さんの淡々としたツッコミが生み出す唯一無二の空気感で人気を博し、いまや日本を代表するコント芸人の一組となっています。

どんなYouTubeチャンネル?

そんなラバーガールが2020年、YouTubeで「第2ラバーガールChannel」を開設しました。2018年に開設され、単独ライブの映像などを公開していた「ラバーガール Official YouTube Channel」に続いて開設されたこのチャンネルでは、YouTubeのために制作された新作の映像ネタなどが続々と公開されており、チャンネル登録者数は現在12万人を超えています。今回はその「第2ラバーガールChannel」で発表された傑作ネタの中から、おすすめの映像ネタをご紹介します!

 

ラバーガールの動画おすすめ5選

ラバーガールYouTubeオリジナルネタは、舞台上で演じられる通常のコントでは実現不可能な映像ならではのネタや、テレビでは放送できないYouTubeならではのネタまで多彩に揃っており、ラバーガールの引き出しの多さが実感できます。ここからは、その中から選りすぐりの映像ネタ5本を紹介していきます。

おすすめ①『怖い話をオバケ側の視点で話す人』

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怪談番組のオーディションを受ける大水さん。なにか怖い話ありますか?と聞かれ、自らの体験談を語りますが、なぜかどの話も「オバケ側」の視点で語られており……。

ラバーガール第2チャンネルの映像ネタは、このように「大水さんの話を飛永さんが聞く」というスタイルのネタが基本となっています。そして毎回、大水さんが語る内容はことごとく理解不能で、思わず困惑しまくる飛永さん、それでも飄々と語り続ける大水さんの姿は、もはや狂気さえ感じさせます。このネタでは怪談話を披露していますが、その中身はやはり普通ではなく、後半に進むにつれてますます常軌を逸していきます。100万回再生を記録した人気の動画です!

おすすめ②『ハロウィンのおすすめコスプレ ベスト3!』

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大水さんがおすすめするハロウィンのおすすめコスプレ。大水さん曰く「誰でも、とても簡単にできる仮装」とのこと、なのですが……。

YouTuberらしい定番企画で見やすい動画、のようですが、やはり狂気に満ち溢れた内容。サムネイルからも、そこはかとない不穏さが漂っています。なによりもBGMが終始無音というのが、内容の異様さを際立たせていますね。見どころは何と言っても、3分を超える長尺(動画全体の約1/4にあたる)で披露される「牧野ステテコ」です!

この「大水さん出演の動画が終わった後に(撮影していた)飛永さんがツッコミをいれる」構成のシリーズも多く、他にも大水さんが「芸能関係者に『ののかちゃん』よりも歌が上手いことをアピールする」ネタ『ののかちゃんより上手に歌えます!「いぬのおまわりさん」』などがあります。

おすすめ③『エピソードトークを全部こち亀からパクって話す人』

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ある番組のオーディションを受けている大水さん。笑えるエピソードトークを求められ、自らの体験談を語る大水さんですが、その内容はあまりに現実離れしており……。

こちらも人気シリーズのひとつ「エピソードトークを全部〇〇からパクって話す人」その第一作です。タイトルの時点で内容が把握できてしまう上に「絶対ごまかせない」ことも明白なのですが、それでも普通の顔で淡々と語っていく大水さんが意味不明すぎて面白いです。このシリーズでは他にも、

エピソードトークを全部オリラジの武勇伝からパクって話す人

エピソードトークを全部『水曜どうでしょう』からパクって話す人

があり、どのコントでも大水さんは見事に当たり前の顔でパクっていきます。そして飛永さんの指摘に対しても、平気な表情でシラを切り通そうとします。怖いですね。

※ここでお察しかもしれませんが、このチャンネルで大水さんは膨大な数のオーディションを受けており、そして毎回落とされています

おすすめ④『写真撮影でまるで静止画みたいに止まれる人』

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雑誌の取材を受ける大水さん。最後に写真撮影の時間になり、カメラマン飛永さんの指示に従ってポーズをとる大水さんですが……。

映像という枠組みを活かした、動画ネタならではのコントです。仕掛けはとてもシンプルですが、大水さんの穏やかな表情と超現実的な内容、そして戸惑いまくる飛永さんの声が相まって、めちゃくちゃ面白いコントに仕上げられています。内容としては、ついに大水さんは単なる狂人を超えて、なにか超常現象的な存在になってしまっています。それでも「大水さんなら有り得るかも」と思ってしまう、いつもの狂人ぶりの延長として「まあ、大水さんだし」と観れてしまうあたりが、恐ろしいところですね。

おすすめ⑤『GWオススメ映画を聞いたらAVばっかり薦めてくる人』

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取材を受けている大水さん。ゴールデンウィークのおすすめ映画を尋ねられ、ジャンルごとに次々とタイトルを挙げていきますが……。

ラバーガール第2チャンネルを代表する「〇〇を聞いたらAVばっかり薦めてくる人」シリーズの、記念すべき第一作です。上記のコントは「映像ネタならでは」の作品でしたが、こちらはテレビでは絶対に放送できない「YouTubeならでは」の作品です。というか、YouTubeでもセーフなのか危ういくらいです。ラバーガールの全ネタの中でも、最も過激なコントのひとつと言えるのではないでしょうか。

やっていることはシンプル、おすすめの映画を聞いているのにAVばっかりオススメしてくる、というだけの(相変わらず頭のおかしい)内容なのですが、選ぶタイトルが絶妙なせいか、思わず吹き出してしまいます。実際、おふたりも演じながら何度も吹き出してしまっています。こればっかりはちょっと「男性向けのネタ」かもしれませんね!

本作の後も「AVシリーズ」のネタは不定期で制作されており、

2021上半期ベストドラマ編

AVを見ながら自分たちの単独ライブの取材を受ける人

2021下半期ベストドラマ編

の三本が現在、公開されています。ある意味、無限にできるシリーズだと思うので、今後も新作に期待したいですね!

 

他にも面白い動画ネタが盛りだくさん!

いかがでしたか?舞台コントだけではない、ラバーガールの新たな一面を楽しんでいただけたと思います。この他にも同チャンネルには、神妙な面持ちの大水さんに対して、記者役の飛永さんの「まず、誰なんですか?」という質問から始まる『緊急謝罪会見』や、社会風刺でありながらもタイトルからして意味不明な『PlayStation5の弟です!発売おめでとうございます!』など、狂気に満ちたコントが盛りだくさんです。是非「第2ラバーガールChannel」をチェックしてみてください!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

これでいいのかわからないけど、今年いちばん買ってよかったもの。

今週のお題「買ってよかった2021」応募記事

 

ついに2021年も終わりが近づいてきました。今回は「今年いちばん買ってよかったもの」を紹介したいと思います。ただタイトルにもある通り「これでいいのか」は分かりません。どういうことか、詳しくは以下に書いていきます。ただ先にお断りさせていただくのは、もしこの記事を参考にしていただいて、購入したとしても「上手くいく保証はできない」ということです。ご了承ください。

 

何を買ったのか?

まず、私が「今年いちばん買ってよかったもの」それは、ポータブルSSDです。

値段と性能の側面から鑑みて「500GB、高速転送、USB Type-C」であるこの商品を購入しました。

用途上、データ速度は気になったので、いろいろ調べて、品揃えの中でも「速い方らしい」コレにしました(専門的なことは分からないので見方が合っているのか自信はないです)。PCはMacBookを使っているので「USB Type-C」に対応しているものを選びました。持ち運ぶ予定はなかったので、製品自体の大きさは気にしませんでした。実際に届いたものを見ると、だいたい名刺くらいの大きさ。用途によって、大きいとも言えるし、小さいとも言える感じ。いや、わりかし大きめかも。ビックリするくらい小さいやつとかありますもんねUSBメモリくらい、とか)

 

なぜ買ったのか?

さて、では用途の話。私がこのSSDを買ったのは、ずばりGTA5をPCでプレイするためです。

store.steampowered.com

GTA5、すなわち『グランド・セフト・オートⅤ』は、ジャンルで言うと「犯罪アクション」にあたるゲームです。犯罪依頼などのミッションをクリアして、ストーリーを進めていくゲームですが、同時に「架空の街で好き放題に暴れ回る」ゲームでもあります。プレイヤーは街中を自由に散策することができ、衣服を買ったり、武器を買ったり、音楽を聴きながらドライブしたり、車を盗んだり、強盗に入ったり、何でもやりたい放題に過ごすことができます。プレイヤーが自由に行動できる、いわゆるオープンワールド系のはしりであり、ある意味では夢のような(?)ゲームで、全米において史上最も売れたゲームでもあります。

www.youtube.com

 

普段、あまりゲームなどやらないのですが、このゲームだけは「やってみたいな」と、ずっと気になっていました。このゲームはPS4版も出ていて、多くの人はそちらでプレイしていると思うのですが、私はPS4を持っておらず、また他にやりたいゲームもないので「この一本のためにハード買うのも、なあ……」と、二の足を踏んでいました。

それを、あるゲーム好きの友人に、ふと何気なく話してみたところ「PCでやればいいんじゃない?俺、PCでやってるし」と言われました。確かにPC版もあるけど「でも、重いでしょ?そういうゲーミングPCでやらないと」と尋ねると「俺、普通のノートパソコンでやってるよ。普通に動くよ、たまにカクつくくらい」とのこと。

 

まじかよ。確かにSteam(PCゲームの販売サイト)を見ると、ゲームの推奨メモリは8GBで、私のMacBookは一応、条件を満たしています。つまり、ゲーム自体の動作は問題ないということか。ということは、残る問題はひとつ。ゲームのストレージ「72GB」がどうにかなれば、プレイできるということ。しかし、さすがは街をまるまる一個収録しているゲーム、データ量は莫大。しかも口コミを見ると、アップデートが重なって今は100GB近くなっているらしい(実際そうだった)。

おそらく、PC版のGTA5をプレイする際に最大の鬼門となるのが、この「使用ストレージの大きさ」なのではないでしょうか。ここで、自作PCだったりゲーミングPCだったり……とにかくそこそこ良いPC、ストレージに余裕があるものを使っている人は問題なくプレイすることができて、対して普通の、しかも普段からそれなりに使っているPCにインストールしようとしている人は、断念してしまうのではないかと思います。

しかも私の場合、MacBookに「BootCamp」機能でインストールしたWindowsOSの中でSteamをやっているので、PCのストレージ全体「250GB」のうち使用できるのは、Windowsに割り振った全体の半分「125GB」だけ、という状況です。厳しいね。

 

そこでいろいろ考え、編み出した作戦が「外付けのSSDを買って、そこにゲームのデータをインストールする」というものでした(繰り返しますが、専門的な知識が皆無なので、表現とか間違えていたらすみません)PS4とかだと、こうして外付けSSDを接続してロード時間を短縮、というのはよくある話らしいのですが、普通のノートパソコンで、しかも「ロード時間短縮」とかじゃなく「ストレージが足りないから」という理由で、ゲームを丸々SSDにインストールするという話は(私が調べた限り)ほとんど見当たらず、某知恵袋サイトで「PCゲームの動作が遅いのですが、外付けのストレージを使っているからでしょうか?」という質問(そして回答は「そうだと思います」とのことでした)を見つけたくらいのものだったので、かなり不安だったのですが「まあ、上手くいかなかったら普通にストレージとして使えばいいか」と割り切って、ダメもとで購入してみました。

 

結果どうだったのか?

一言で言うと、大成功でした。あくまで今のところ、ですが(なので必ず上手くいくと断言はできません)動作が固まることもなく、オンラインで別のプレイヤーと同時プレイすることができる「GTAオンライン」も、普通に遊べています。

はじめてSSDを購入したのですが、データの転送は本当、驚くほど速いです。インストールする際、通常の場合にかかる目安時間として「3日と7時間」と表示されていたのですが、SSDを使って実際にかかったのは「おおよそ3時間弱」ほどでした。単純に計算すれば約26倍ですから、相当速いということになりますね。というか「3日と7時間」というのは、いったいどういう状況下を仮定した場合なのでしょう。とにかく、インストールの進捗グラフの進み方も相当速くて、あれはやはりSSDだったからこそ、なのだと思います。普通のデータ転送でも、かなりスピーディーに処理してくれるはずです。

 

そして、ドキドキしながらゲームを立ち上げてみたところ、普通に起動し、オープニングムービーが始まりました。目の前でSSDとPCがちっちゃいコード一本で接続している様を見ているので「これ抜けちゃったらヤバいんだよな」と、多少ヒヤヒヤする(なんなら正直、これで上手く機能しているのが不思議に思えたりもする)節はありますが、エラーもフリーズも起こることなく、普通に動いてくれている様子。

あと、実際にプレイしてみて感じたのは、このゲーム発売からすでに8年ほど経っていて、CGのクオリティとしては、最近のゲームのように「めちゃくちゃリアル」というほどではない、ということです。だから処理が重すぎず、それなりのPCであれば(正直、ファンの冷却音はスゴいですが)プレイできるのかな、と思いました。もし「重くて動かない」という場合でも、グラフィック(最大は4K画質/60fps)や街の通行人の数など(オブジェクト?)を調整できるので、ある程度は適応できるのでは、と思います。

 

おわりに

というわけで「今年いちばん買ってよかったもの」の話、というか「PC版GTA5は、普通のパソコン+外付けSSDでプレイできるのか?」の話、でした。言うまでもなく、いちばん無難なのは、PS4やゲーミングPCといった安定した機能性/ストレージを確保できるプラットホームを揃えることですが、普通のパソコンしか持っていない、加えて(他にゲームやらないし)そこまでお金をかけることもできない、という方に「こんな方法もありますよ」という話でした。

思いのほか上手くいったので、次は『Dead by Daylight』に挑戦してみたいと思います。その時はまた「普通のパソコン+外付けSSDでプレイできるのか?」シリーズとして、レポート書きます。

キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』はココがすごい。Part.2

続きです。

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BGMその2。

スゴさその②:魅力的なキャスト

主人公ビル・ハーフォード役を務めたのは、当代屈指のハリウッド・スターであるトム・クルーズ。そしてその妻アリス役として、実際の妻であったニコール・キッドマンがキャスティングされました。このキャスティングは、おそらくキューブリックフィルモグラフィー史上もっともハリウッド市場に接近したものであると言えると思います。

 

例えば『2001年宇宙の旅』のキア・デュリアや『時計じかけのオレンジ』のマルコム・マクダウェルなど、キューブリック監督の作品群について「作品のタイトルは知っているけど、主役を務めた俳優の名前は知らない」という人は、少なくないと思います。フィルモグラフィーを見ると、世界的な映画製作者として知られていながら、いわゆるハリウッド・スターを起用した作品は比較的少なく、あくまでも演じさせる役にマッチした俳優をキャスティングしている傾向が伺えます。

つまりキャスティングにおいて、俳優としてのネームバリューより何よりも、まず「キャラクターにフィットするか」を重視して、あくまで内容に忠実に役者を選考していた、と言えるでしょう。それは実際に、監督のあらゆる映画において、観た人の記憶に必ず「主人公」のキャラクターが強烈な印象を残す、そのことからも言えると思います。

 

キューブリック作品において主演を務めた俳優のうち、トム・クルーズは最も大きなネームバリューを誇る「スター」であったと言えるでしょう。これは80年代〜90年代が、映画産業全体が大きく成長・成熟した時代だったから、でもあると思います。市場としての拡大に合わせて、これまでにない世界規模の「ネームバリュー」が生まれたのです。そしてネームバリューは、その出演作に大きな収益をもたらすアドバンテージである一方で、同時に「パブリックイメージ」でもあることを、忘れてはいけません。

クルーズが当時(今も?)背負っていたパブリックイメージは、キューブリック監督の作風といかにマッチするのか?というか、本当にマッチするのか?なかなか想像しにくいものだったはず。ハリウッド・スターというだけではなくトム・クルーズ」というキャスティングだったからこそ、意外なものとして受け取られたわけです。

しかし、私はこの映画での演技こそ、トム・クルーズのベストアクトだと思っています。さすがクルーズ、自身のイメージなど跳ねのけて(あるいは、それ自体を華麗に利用して)他のキューブリック映画の主人公たちに引けをとることなく、完璧なまでに「ビル」を体現しているのです。

 

ここで、クルーズのフィルモグラフィーから本作を見てみます。前作はキャメロン・クロウ監督の『ザ・エージェント』で、前々作はあの『ミッション・インポッシブル』でした(どちらも1996年公開)。そして次作にあたるのは、本作と同じく1999年に公開され、アカデミー助演男優賞にノミネートされた『マグノリア』です。鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督の独創的なストーリーテリングが冴えた傑作ですが、この作品も『アイズ〜』と同様「大衆よりも批評家寄り」の内容で、やはり当時のクルーズのイメージからは離れた起用であったと言えます。

このように流れを見てみると、クルーズにとって1999年はキャリアの転換期であったことが分かります。メジャー作品の主役級に次々と抜擢され、幅広い層からの人気を不動のものとした後の「俳優としてのキャリアアップ」を志した、挑戦の時期だったのでしょう。その結果、この二作で彼が見せた演技は、それぞれの複雑なキャラクターを見事に体現した、素晴らしいものでした。

 

まず『アイズ・ワイド・シャット』でクルーズが演じたビルという男は、平たく言えば「とにかく翻弄され続ける男」です。周囲の人々に、社会に、あげく自分の妻にさえ翻弄され、ただひたすら戸惑い続ける真面目な男です。また、それなりの社会的地位を持っていて、それなりに自分に自信を持っている男でもあります。

主人公であるビルは、医師としてのキャリアを成功させた富裕層で、爽やかな二枚目で、綺麗な妻もいて、充実した日々が続くことを信じて疑わない真っ直ぐな男なのです。これってまさに「トム・クルーズ」という感じではないですか。私たちが映画を通して、あるいはインタビューなどを通して知る「トム・クルーズ」のイメージ、まさにそのものという印象ではないでしょうか。

一言で言えば、トム・クルーズという存在は「憧れのかたまり」なのです。二枚目、成功者、真面目、ストイック……そういう、社会における人間の美しさだけをかき集めて形作られているのが「トム・クルーズ」という幻影なのです。

※これは、トム・クルーズにまつわる「イメージ」の話で、ご本人について書いているわけではありません。

 

例えば『トップ・ガン』とか『カクテル』だったら、この善性のかたまりである「ザ・主人公」な男は、仲間たちと出会ったり、衝突したり、恋に落ちたり、別れたり、またヨリを戻したりなんかして切磋琢磨するわけで、観客もそれに感情移入するわけですが、この『アイズ・ワイド・シャット』の世界は、彼にとって漆黒の闇でしかありません。彼を受け入れたり拒絶するどころか、彼はひとり世界の外側に追いやられていて、世界は見えない手で彼を翻弄し続けるばかりです。映画の中でただ一人、青年のような顔をした彼は、この仕打ちにひたすら戸惑うほかありません。まるで、現実の世界に迷い込んでしまったピーターパンのようです。

そんな役を演じる上で、トム・クルーズ以上の適役者がいるでしょうか。私は、中途半端にカッコいいだけのキャラよりも、こういった「幻想」と「現実」の両方に挟まれた役こそ、クルーズの才能が光るキャラクターであると思います。先述した『マグノリア』で彼が演じたのは「女性の口説き方を教える自己啓発セミナーで人気のカリスマ講師」という、この上なく軽薄で胡散臭いキャラクターなのですが、これもまたクルーズが持っている「幻影性」がなければ、なかなか説得力の出せない役であると言えるでしょう。

そしてなにより、こうして自身のイメージを客観的に把握し、さらにコントロールしているトム・クルーズのセルフ・プロデュース能力は、やはりスゴいと思います。その上、そうした自己批評をちゃんと「演技」という形での表現へとフィードバックし、完成させているのだからスゴいです。まさに一流。

 

そして、ビルの妻アリスを演じたニコール・キッドマンの演技も、やはり見事です。ナイーブな主人公に対して、心根の読み切れない、複雑で不可解な女性像を演じきっています。全編のうち登場する時間は短くとも、映画全体を支配しているような存在感が羊たちの沈黙』のレクター博士を彷彿とさせます。と、個人的には思います。

それにしても、ここに実際の夫婦でキャスティングしてしまうあたり、監督としても役者自身の「俳優としてのイメージ」を取り入れてしまおう、というメタフィクション的な意図があったのだろうと、改めてそう感じます。

スゴさその③:圧巻の映像美とサントラ

この映画を語る時、なんといっても外せないトピックが、その圧巻の映像美です。私は、ここまで華麗に「都会」を観せる映画というのは、他にないと思っています。幻想的で、まさに夢のような冒頭のパーティーに始まり、魅惑的な真夜中の街並み、そして例の儀式のシーン……と、物語の進行に合わせて質感を変えながらも、オープニングからエンディングまで、一切の妥協と隙を感じさせない完璧な画面だけが連なり、構成されています。どこにでもある、平凡に思えるような街並みやインテリアが、どこか高貴な雰囲気さえ感じさせる「舞台」となっているのです。はじめて観た時には「あんな日常的な風景でも、キューブリック監督はここまで美しく撮るのか」と、衝撃を受けた記憶があります。

 

事実、キューブリック監督が現代の日常風景を映画として撮ったのは、久しぶりのことだったのです。1964年の『博士の異常な愛情』は、時代設定こそ現代でしたが、テーマが「米国・ソ連の核戦争」であったこともあって、シチュエーションが戦略会議室とか爆撃機内とか、日常風景とは程遠いものでした。

その後のSF作『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』は近未来の設定、歴史ドラマ『バリーリンドン』は18世紀半ばの設定で、続く『シャイニング』は映画のほとんどが一棟のホテルで起こるワンシチュエーション。そして前作『フルメタル・ジャケット』はベトナム戦争を描いた作品だったので、監督がストレートに現代劇を描いたのは、1962年の『ロリータ』以来のことだった、ということになります。

ちなみに『ロリータ』は、同名の原作小説が「ロリコンロリータ・コンプレックス」の語源になった、ざっくり言うと「中年男性が下宿した家の少女に一目惚れしてしまう」話です。こちらも「性衝動」がテーマになっていて『アイズ・ワイド・シャット』と通じるわけです。

とはいえ『ロリータ』はモノクロで撮影された作品なので、鮮やかな色彩で華麗に仕上げられた現代劇は、キューブリック監督のフィルモグラフィーの中で唯だこの一本だけです。普段から見慣れているものに近い光景が被写体になっていると、制作者のセンスや力量がより明確に、リアルに感じられると思います。本作こそ、キューブリック監督の圧倒的な実力がもっとも身近に感じられる作品と言えるのではないでしょうか。

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そして、サウンドトラックも最高です。テーマ曲としてフィーチャーされたのはドミートリイ・ショスタコーヴィッチによる『ワルツ第二番』です。代表作『2001年宇宙の旅』における(当時のSF映画としては異例だった)クラシック音楽を多用した演出などで知られるように、キューブリック監督のクラシック音楽への造詣の深さ、そしてそれを巧みに演出へ取り入れるセンスは、見事なものでした。

既存の音楽を、まるで映画のために書き下ろされたスコアであるかのようにフィーチャーする感性の鋭さは、本作においても存分に発揮されています。この映画を観たら『ワルツ第二番』は、たちまち「アイズ・ワイド・シャットのテーマ」として記憶されてしまうはずです。そのくらい、見事に内容にマッチしていて、かつ見事に「いい曲だけど、世間に広く知られているわけではない」ラインを突いた選曲です。

 

また『ワルツ第二番』などのクラシック曲群に引けをとらない印象を残す、本作のオリジナルスコアは、イギリスの作曲家/ヴィオリストであるジョスリン・プークによって手掛けられています。本作での起用の後に手がけた数多くのテレビ/映画へのスコア提供、PJハーヴェイピーター・ガブリエルのレコーディングへの参加、在籍しているユニット「エレクトラ・カルテット」としてのマーク・ノップラーマイケル・ナイマン坂本龍一、ニック・ケイブなど数々のアーティストとのコラボレーションで知られています。

彼女が長編映画のスコアを担当したのは初めてのことでしたが、手掛けられたスコアはゴールデングローブ賞のベストスコアにノミネートされるなど、各方面から高く評価されました。とても華麗で神秘的ながら、えもいわれぬ不穏さに満ちあふれたこのスコアは、映画の本質を見事に表現しており、映画全体の雰囲気づくりにおいて多大な効果をもたらしていると言えるでしょう。

 

おわりに

以上「映画『アイズ・ワイド・シャット』のスゴさを語る」として、2ページにわたって「自分なりに考えるこの映画のスゴさ」を、自分の思うままに書かせていただきました。読んでいただいた通り、あまり知られていないトリビアなどは特になく、情報としての量/価値で言えば皆無に等しい文章であったと思いますが、もし、この文章を読んで「そこまで言うなら」と、どなたかの初見/再見のきっかけになるようなことがあればとても嬉しいですし、自分としても書きながら「自分はこの映画のどこが好きなのか」を、再確認することができたように思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

クリスマスの定番映画になれ、とまでは言いませんが、そろそろ4Kくらい出ていいだろ、とは本気で思っています。