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80年代の「ムーンライダーズ vs. サザンオールスターズ」

 

 

サザンとライダーズ、その相似と相違

前回まで「80年代のムーンライダーズ」と題し、日本有数のオルタナティブロック・バンド、ムーンライダーズが80年代に発表したアルバム全六作を、時系列に沿ってご紹介しました。その執筆中、ふと思い出したバンドがあります。サザンオールスターズです。

ムーンライダーズは1986年、デビュー10周年イヤーの活動を終えたのちにバンドとしての活動を休止しました。実はサザンオールスターズもまた、前年にあたる1985年に活動を停止しているのです。タイミングとしては、ほとんど一致していると言っても過言ではありません。

この二組には、その他にも数多くの共通点が存在しています。二組ともメンバーは6人、洋楽を意識した日本語ポップスを手がけているという点も共通していると言えるでしょう。結成・デビューにおいても、結成はライダーズが75年/サザンが74年、デビューはライダーズが76年/サザンが78年と、ほぼ同時期です。

このように共通項の多い二組ですが、もちろん相違点もまた少なくありません。その最大のひとつが「ヒットソングの存在」でしょう。デビュー以来、数え切れないほどのヒット曲を量産してきたサザンに対し、一部のファンに「ヒット曲のないバンド」とまで言われてしまうライダーズ。今もなお活動を継続している二組ですが、40年以上に及んだそれぞれの道のりは、ある種の「パラレル」と言えるものだったかもしれません。

今回は、1980年〜活動休止までの二組のディスコグラフィーの中から各年一曲ずつ選出、その音楽性を比較することで、二組の間にある相似/相違を検証していきたいと思います。

 

 

1980年 (昭和55年)

ムーンライダーズ……アルバム『カメラ=万年筆』リリース

サザンオールスターズ……シングル「FIVE ROCK SHOW」、アルバム『タイニイ・バブルス』リリース

チャートにはザ・ポリスやThe B-52'sらが登場し、U2がデビュー、そしてレッド・ツェッペリンが解散した1980年。世界的なニューウェーブ・ムーブメントに呼応する形で、ムーンライダーズニューウェーブ/ダブ路線を本格的に志向。一方サザンオールスターズは、タレント活動を休止してレコーディングに専念する方針をとり、スタジオ・バンドとしての地位を確立しました。

 

大人は判ってくれない / ムーンライダーズ

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アルバム『カメラ=万年筆』における実質ラスト曲にして、ニューウェーブならではの単調な構成の中でもライダーズらしい渋カッコよさが炸裂している、アルバム随一の名曲。元ネタはフランソワ・トリュフォー監督による同名映画です。

 

わすれじのレイド・バック / サザンオールスターズ

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1980年2月発売の6thシングル『涙のアベニュー』以降、5ヶ月連続でシングルをリリースする企画「FIVE ROCK SHOW」を締めくくった10thシングル。アルバムには収録されませんでしたが、根強いファン人気を誇る隠れた名曲です。

 

 

1981年 (昭和56年)

ムーンライダーズ……シングル『エレファント』、企画盤『東京一は日本一』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『ステレオ太陽族』、シングル『栞のテーマ』リリース

第二期キング・クリムゾンが始動し、トム・トム・クラブ『悪魔のラヴ・ソング』がヒット、ジョイ・ディヴィジョンニュー・オーダーに生まれ変わった1981年。ムーンライダーズは前作に続いてダブを大々的に取り入れたシングル『エレファント』を発表、サザンオールスターズは今もなおファンに愛される人気曲『栞のテーマ』を発表しました。

 

エレファント / ムーンライダーズ

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アルバム『カメラ=万年筆』に続いてリリースされた、ニューウェーブ/ダブのテイスト全開のシングル(!)です。それでもマニアックになりすぎないポップセンスは気持ちよく、ソニーのCMソングにも採用された一曲。

 

栞のテーマ / サザンオールスターズ

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今もなおファンからの根強い人気を誇る、ロッカバラードの名曲。映画『モーニング・ムーンは粗雑に』の挿入歌としても知られています。洋楽のエッセンスを邦ポップへと昇華させる桑田さんのセンスが炸裂した一曲です。

 

 

1982年 (昭和57年)

ムーンライダーズ……アルバム『マニア・マニエラ』『青空百景』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『NUDE MAN』、シングル『Ya Ya』リリース

マイケル・ジャクソン『スリラー』、ドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』、マーヴィン・ゲイ『ミッドナイト・ラヴ』など、数々の名盤がひしめきあった1982年。ムーンライダーズはさらなる先鋭を極めた『マニア・マニエラ』を完成させるも発売中止の騒動に。サザンオールスターズはアルバム『NUDE MAN』で日本レコード大賞・ベストアルバム賞に輝きました。

 

くれない埠頭 / ムーンライダーズ

アルバム『青空百景』を締めくくる、キャリア屈指の人気曲。前衛的すぎてお蔵入りとなった『マニア・マニエラ』に代わるべく動員されたポップセンスが遺憾なく発揮されています。今もなお、ライブのラストを飾る定番曲となっています。

 

Ya Ya (あの時代を忘れない) / サザンオールスターズ

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アルバム『NUDE MAN』発売から三ヶ月後に発表された、言わずと知れたバンドの代表曲のひとつ。しかし意外なことに、オリジナルアルバムには未収録となっています。マツダMPV」のCMソングとして使用されました。

 

 

※1983年はムーンライダーズのリリース作品が存在しないため省略。

 

 

1984年 (昭和59年)

ムーンライダーズ……アルバム『AMATEUR ACADEMY』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『人気者で行こう』、シングル『Tarako』リリース

プリンス、フィル・コリンズシンディー・ローパー、マドンナ、カルチャー・クラブワム!など、80年代を代表するアーティストらがチャートを席巻した1984年。ムーンライダーズはレコーディングに500時間を費やした傑作『AMATEUR ACADEMY』を発表、サザンオールスターズは海外進出も視野にロサンゼルスでレコーディングされた異色作『Tarako』を発表しました。

 

B.B.L.B. (ベイビー・ボーイ、レディ・ボーイ) / ムーンライダーズ

アルバム『AMATEUR ACADEMY』のラストを飾った一曲。ムーンライダーズならではの凝ったメロディー構成が秀逸な名曲です。歌詞では、幼児退行や女装癖をもった男の心情が「幸せなんて人それぞれ」と謳われています。

 

ミス・ブランニュー・デイ / サザンオールスターズ

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認知度・完成度ともに、バンドの最高傑作のひとつと言えるでしょう。本来シングルカットされる予定だった『海』と直前になって差し替えになり、急遽リリースされたというエピソードが知られています。

 

 

1985年 (昭和60年)

ムーンライダーズ……アルバム『ANIMAL INDEX』リリース

サザンオールスターズ……アルバム『KAMAKURA』リリース、メンバーソロ活動へ

豪華な顔合わせが話題になった「USA for Africa」や、20世紀最大のチャリティーコンサート「ライヴエイド」など、音楽による慈善活動が大きな高まりを見せた1985年。ムーンライダーズは、形態としての「バンド」解体の頂点ともいえる『ANIMAL INDEX』を発表。サザンオールスターズは、最高傑作とも称される二枚組『KAMAKURA』の発表後に活動を停止、各々のソロ活動へと移行しました。

 

悲しいしらせ / ムーンライダーズ

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アルバムの幕開けを飾った一曲。不良のような言い回しが印象的な歌詞は、同年に亡くなったタレント・たこ八郎氏に捧げられたもの。また、斉藤由貴さんのアルバム『AXIA』へのアンサーソングとしても知られています。

 

Computer Children / サザンオールスターズ

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バンド史上最大の充実作かつ野心作として知られるアルバム『KAMAKURA』のオープニングを飾った一曲。YMOのサポートも務めた藤井丈司をプログラマーに迎え、バンドとしての新たなサウンドを打ち出した一曲です。

 

 

1986年 (昭和61年)

ムーンライダーズ……デビュー10周年、アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』リリース

KUWATA BAND……アルバム『NIPPON NO ROCK BAND』リリース

ザ・クラッシュワム!、プリンス&ザ・レボリューション、カルチャー・クラブなど、人気バンドの解散・活動休止が相次いだ1986年。ムーンライダーズはデビュー10周年を迎え、キャリアの集大成に相応しい記念ライブや、ビデオ/シングル/アルバムのリリースなど活発な活動を展開。サザンオールスターズの活動を休止した桑田佳祐は、一年間限定の活動として「KUWATA BAND」を結成しました。

 

夏の日のオーガズム / ムーンライダーズ

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バンド初の12インチ・シングルとして発表された一曲。ライダーズならではの「ひねくれポップ」の名曲であり、バンドを代表する傑作のひとつと言えるでしょう。シングルのB面には隠れた人気曲『今すぐ君をぶっとばせ』を収録。

 

BAN BAN BAN / KUWATA BAND

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KUWATA BANDとしてのデビュー・シングルとして発表された一曲。サザン時代にはあまり見られなかった、リバーブを多用した「THE 80年代」なサウンドが印象的な一方、美しいコーラスワークはやはりサザンを想起させます。

 

 

ライダーズ、サザン、80年代の音楽

五年分のディスコグラフィーを比較してみて、この時代の第一線を突き進んだムーンライダーズ、対して最先端のサウンドよりも普遍的なポップスを追求したサザンオールスターズ、という印象を感じました。ライダーズとサザン、バンドとしての性格を考えても「既存概念の解体」をコンセプトとした80年代のムーブメント/サウンドと相性がよかったのは、やはり捻くれ者のライダーズであり、サザンのエバーグリーンなポップセンスとは相入れにくかったのではないでしょうか。

とはいえ、サザンの『KAMAKURA』は80年代のオルタナティブを大胆に取り入れた問題作であり、同時期のライダーズにも匹敵する捻くれっぷりといって過言ではありません。その直後、二組がほぼ同時に活動を停止したことは興味深く、やはり『KAMAKURA』そして『DON'T TRUST OVER THIRTY』の二作は、80's邦楽オルタナティブにおける最高到達点であり、かつ臨界点であったと言えるのではないかと思います。その後、活動休止から復活を遂げた二組のキャリアは90年代へ突入。業界全体の変化とともに、バンドはさらなる「進化」を遂げることになるのです。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。見込みがついたら、90年代編も書いてみたいと思います。