シネクドキ・ポスターの回路

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小沢健二『So kakkoii 宇宙 Shows』@福岡サンパレス・感想

小沢健二のライブに行った、という話を書きたいのですが、どこから書き始めればいいのか分かりません。

 

私個人としては、小沢さんのライブに参加するのは二回目です。前回のツアー『春の空気に虹をかけ』の大阪城ホール以来、4年ぶり(!)のことでした。

 

2018年4月29日『春の空気に虹をかけ』大阪城ホール公演、入場時の様子。たぶん夕方5時過ぎくらい。

 

あの時はゲストとして満島ひかりさんが参加していて、全体的にやたら舞台めいた演出が多かった印象でした。いきなり「雨が降り出しました」とか言い出して、満島さんと相合傘で『いちょう並木のセレナーデ』を歌ったり。正直、あんまりピンとこなかった記憶があります……笑。

でも、思いがけず泣いてしまった『ある光』など、やっぱり演奏は素晴らしくて、ライブとしては十分に楽しむことができました。席は「2000円席」という格安の、いっちばん後ろの席だったので小沢さん&満島さんは米二粒でしたが、それでも楽しかったです。

 

その翌年の2019年、13年ぶりのオリジナルアルバムとなる6th『So kakkoii 宇宙』が発売されます。その帯には2020年初夏のツアー『So kakkoii 宇宙 Shows』の日程が記載され、ローソンでもツアーの宣伝チラシが配布されました。

 

配布されてたチラシ。最近、引き出しを探ってたら出てきた。几帳面にとっていたらしい。

 

ここで、ローチケのマイページで「申し込み履歴」を見てみます。今回のツアー、私は全部で三回、抽選にエントリーしているのです。

一回目は2019年11月。結果の欄は「申し込み取り消し」になっています。

二回目は2020年1月。結果の欄は「払い戻し済」になっています。

三回目は2022年3月。今回、私はこのチケットでライブに参加することができました。

 

一回目、おそらくこれは最速エントリーの回です。どうして申し込みを取り消したのか、今となってはまったく覚えていません。当たっちゃったらキャンセルできないし、とチキったのではないでしょうか。そんなに安いチケットでもないので……。

しかしやっぱり行きたかったようで、一般エントリー(たぶん)で再びトライ。今回のライブはSS席、S席、A席の三種類があって、この時はS席で申し込みました。が、発券してみたらまさかの三階席。さらにコロナによる一年の延期。日程が読めない、現金¥10,000の誘惑、そして「どうせ三階だし……」という理由から、あえなく払い戻し。

2021年も事態は収束せず、まさかの再延期を経て2022年。ついに開幕が見えてきた3月、最後の抽選で三度目のエントリー。前回受けたS席の洗礼を踏まえ、今度はA席で申し込みました。値段の差は1000円くらいでしたが「三階まで含まれちゃうなら、そんなに変わらないだろう」と踏みました。実際、たぶん大した違いはなかったと思います。

 

当日。

会場に着いたのは18時前くらい。開場の直前です。ロビーは15時から開いていて、展示や物販などが行われていました。

 

着いた時の様子。先行物販の列だったのだが、僕が着いた直後に普通の「入場列」に変更になった。

 

列を横目に「こんなに並んでるんだ……」と内心ビビりつつ、サンパレスの裏側へ。都市高速の高架をくぐると、博多埠頭に出ます。

私はこの場所が大好きで、以前天神に通っていた頃は毎週のように来て、海を眺めていろいろ考えたり、ぼーっとしたり、フラフラしたりしていました(こう書くとヤバい人みたいだ)。時期で言えば2019年頃、それこそ『So kakkoii 宇宙』がリリースされた頃です。私があのアルバムを一番聴いたのは、間違いなくこの場所。だから会場がサンパレスと聞いた時、ちょっと運命めいたものを感じました。まあ、その割には二回もキャンセルしたんですけど。

 

博多埠頭。サンパレスの、本当にすぐ真裏にこの港がある。何度も来てるが、あの「塔」は名前も知らない。

 

しばらくブラブラした後、おとなしく列に並びました。ホール入り口からスロープを降りて角を曲がったところまで並んでいて、ひっそりと若干の尿意を感じていたこともあり「何分かかるのコレ……」と不安でしたが、入場開始と同時に列はするする進み、10分もかからずにホールに入ることが出来ました。

 

ロビーには小沢さんらしい凝った展示、物販のサンプルが並んでいた。ちょうどいい混み具合。

来る前から、物販はスルーのつもりでした。円形のロビーは混みすぎるほどではなく、サンプルも展示も普通に見られましたが、物販レジの並びっぷりはさすがに凄くて、階段を上って二階まで続いていました。

とりあえず上の階に登って、人の少ないところへ。トイレを済ませ、ふとインスタグラムの物販情報を覗いてみると、売り切れが続出している模様でした。ライブ中のペンライト代わりのアイテムとして、小沢さんのライブではお馴染みの「電子回路*1」も完売していたみたいです。ちょっと予想以上でした。

 

ここでひとまず、席を確認。今回、発券した私の席は「三階の16列」という……思わず「三階に16列なんてあるのか⁉︎」と疑いたくなるような、一目瞭然で最後方周辺の位置でした。まあでも、例のS席よりも後ろなのだから当然です。覚悟は出来ていました。

展示も見終わり、やることもなくなったのでホール内へ。座席発見。予想外に、ぜんぜん最後方ではありませんでした。まあ前の方でもなかったですが……。眺めとしても、思ったほど遠くはなかったです。前回の米粒ほどじゃなく、スイカの種くらいには見えそう。

ちょっと気になったので、そーっと一階、二階にもお邪魔して、どんな感じで見えるのかチラッと覗き見してきました。その上で、個人的には……三階と二階は、正直そんなに大差ないかな、という印象です。一階でも後ろの方だったら、やっぱり遠く感じてしまうと思う。張り切って買うなら、やっぱり一階前方のSS席。あとはそんなに、変わらないのでは……と、思いました。だからやっぱり、今回はA席でよかったのだ……と、自分に言い聞かせる。

 

あとはひたすら開演待ち。客入れはアフリカンな民族音楽。小沢さんが放浪期に訪れた国々で聴いていたのであろうもの。たぶん、こういう濃厚な土着性に感化されて、2010年の復活コンサート『ひふみよ』のコンセプトが生まれたのだろう……などと思いながら、しかし開演時間を15分過ぎても始まらず、結果として30分くらい聴かされ続けたので、最後の方は半分寝てました。

 

20分押しくらいで、ライブがスタート。あとはもう、あっという間でした。新旧織り交ぜた充実のセットリストに、朗読あり、変な振り付けありの約二時間。前回よりもシンプル寄りな演出も良かったです。

期待を裏切らない、小沢さんらしさ全開の素晴らしい内容でした。素晴らしすぎて終演後、興味なかったはずの物販に並んでしまい、トートバックの(唯一残っていた)ホワイト買ってしまいました。おかげで持ち合わせがなくなり、遅い夕食はカップ焼きそばで済ませることになりました。でも後悔はないです。それくらい良かったです。

もう一回くらい観たいけど、今回は日程的に厳しそう。これからご覧になる予定の方、ぜひ楽しんできてください!

 

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。以下、ネタバレ全開になります。次回の大阪公演以降で参加される予定の方は、ご注意ください。

 

 

それでは以下、ネタバレがんがんで本編の感想、いきます。

 

20分押しで開演。いきなり演奏されたのはアルバム最終曲『薫る』のイントロ。絶対、いきなり真っ暗になってアルバム一曲目『彗星』の歌い出し「そして時は2020〜」で始まると思っていたから、めちゃくちゃ意外でした。

 

30人の演奏メンバーが全員揃うと、照明がばっと落ちて真っ暗に、2020年へ。小沢さんが自らデザインしたというメンバーの衣装(ポンチョみたいな感じ?)それぞれグリーンとピンクにぼんやり光っています。物販の「電子回路」のカラーがグリーン/ピンクだったこと、Tシャツなどにやたらと蓄光インクが用いられていたフラグ回収。

 

しかし『薫る』は歌わずに『流動体について』へ。ここで立ち上がってから、アンコール前まで立ちっぱなしでした。さらに『飛行する君と僕のために』最近出た録音版のようにクールではなく、フジロックのような荒っぽい演奏/歌い方でした。

 

個人的には意外だった『大人になれば』のイントロに合わせて、朗読。僕は歌詞の中で「歳をとる」ということを好意的に描いてきた、という話。生まれて育って死ぬことには輝きがある、そしてこの「輝き」の意味を、皆は分かってくれると知っている。そういう人だから、僕の音楽を知ってくれたのだ……と。

さらに、東京を流れる、あまり有名ではない「古川」だけどそのカーブに沿って首都高速が通っている、街が出来ているという話。物販の地図デザインの伏線回収。どちらも良い話でした。

 

その後『アルペジオ』と『いちょう並木のセレナーデ』のメドレー。この『いちょう並木のセレナーデ』が、個人的には前半のハイライト。シンプルでストレートな、とにかく曲の良さに忠実なアレンジ。改めて「やっぱりいい曲だなー!」と沁み入りました。ここで小沢さんが観客に「聞こえるよ!」と。

 

また『薫る』のイントロ。ついに演るのか、と拍手する観客に「薫る、演ると思いますか?やんないですよ僕は」と言い放つ小沢健二

朗読は「マスクの下で歌っていても、歌っていなくても、みんなの声は聞こえている」という話。声が聞こえなくても、ここから見ていたら全部分かる、と。個人的には、先ほど思わず口ずさんでしまった『いちょう並木』で「聞こえるよ!」と言われたので、たぶん本当に「聞こえて」いたんだと思います。

そういうわけで、いつもだったら客を煽って歌わせまくる小沢さんですが、今回は「Sing It!」がありません。その代わりに「I Can Hear You」が今回の合図。

 

静かなイントロ、聴いたことのあるリフ、ここで『今夜はブギーバック』きました。でもラップなしの『あの大きな心』バージョン。個人的に、この曲には不思議な切なさがあると(特に弾き語りだと)感じる時があり、その切なさを最大限に引き出したような、しっとりと哀愁のあるアレンジでした。正直あんまり好きな曲じゃないんですが、今回のバージョンは好きでした。

続いて『あらし』。そういえば大阪でも聴いた。この曲、格好いいですよね。

 

ここから『フクロウの声が聞こえる』からの『天使たちのシーン』という怒涛のメドレー。ソロ初ライブ『ファースト・ワルツ』での演奏、そして最近音源化された『VILLAGE』バージョンを混ぜたようなイントロでぶち上がってから、なんとフル尺での演奏でした。個人的には「真夜中に流れる〜」のくだりがちゃんと「スティーリー・ダン」で歌われたのが、なんか嬉しかったです。

 

からの『ローラースケートパーク』そんなに聴いている曲ではないですが、ライブだと上がっちゃうイントロです。そのまま『ひふみよ』ばりに『東京恋愛専科』へ。さらに最新曲『運命、というかUFO』へと流れていきました。あ、ライブ延期の後に出た曲もやるんだ、とちょっと意外でした。

 

そして『強い気持ち・強い愛』です。間違いなくライブのハイライト。イントロから客席の盛り上がり方半端じゃなかったです。やっぱりすごい曲です。20代でこれを作った小沢さんってやっぱりすごいと思います。

演奏が終わった後も、しばらく歓声と拍手が鳴り止みませんでした。それに応えるように、メンバーそれぞれを順番に照らしていくスポットライト。それぞれに拍手を贈る観客。ただ一人、指揮の服部さんが後ろ向きだったため、照らされていることに気付かず無反応だったのも含めて、やっぱりここがハイライト。

 

何度聴いてもカッコいい『高い塔』から、小沢さんが電子回路を消すよう指示をして、ふたたび真っ暗になったところで『泣いちゃう』へ。ギターの雰囲気、リズムの雰囲気が、なんかあの曲に似ている気がする……と思ったら来ました『ある光』。大阪で聴いて以来、このストリングスを含めたアレンジがあまりに感動的で、忘れられませんでした。やっぱり素晴らしいアレンジです。音源化してほしい、けど、やっぱりライブで聴くべきなのかもしれない。

 

そのままの熱量を含んだ、ギラギラの『彗星』で本編は終了。アンコール待ちの時間で、ようやく腰を下ろすことが出来ました。

 

アンコールは『失敗がいっぱい』から。また変な振り付けを踊らされます。前の席の人を「大丈夫だよ」と支える、癒す踊りだそうです。なんかの集会みたいになってきました。

 

そして、ついに来た『ドアをノックするのは誰だ?』のイントロ……!と、思いきや『ぼくらが旅に出る理由』が始まりました。どちらにしろ好きな曲なので嬉しいです。でも『ドアノック』も聴きたかったな。

 

ふたたび『薫る』のイントロ。いよいよ終わりの雰囲気の中、朗読へ。90年代からのファンに向けて「こんな変な歌詞を書く僕を見つけてくれた人、ありがとう」というメッセージ。そしてついに『薫る』。歌い上げた後、拍手の中で「そして時は2022〜」という歌い出しから、もう一度『彗星』を。サビにさしかかったところで静かなアレンジになって「今ここにあるこの暮らし〜」をしっとりと力強く歌い上げ、全演奏が終了しました。

 

最後のところだけ、なんだか小沢さんのボーカルが安定していなくて「声、枯れちゃったのかな」などと呑気に思っていたのですが、どうやらアンコールで涙されていたみたいです。驚きました。全然分からなかった。まあ「スイカの種」の距離だし、当然か……。

勝手な推察だけど、あの涙は『強い気持ち・強い愛』での熱狂が「聞こえた」から、ではないだろうか。

 

終演後の福岡サンパレス。ついに物販に並んだ。本当に全滅レベルの売れっぷりだった。

 

そんなわけで、大満足のライブでした。とにかく音楽と朗読を詰め込んだ二時間。MCは最後にちょろっとだけで「本当にありがとう。また来ます!」と言ってくれました。個人的に印象に残ったのは、やっぱり『いちょう並木のセレナーデ』と『強い気持ち・強い愛』です。全体を通して、それぞれの楽曲の良さをガツンと感じられるライブだったと思います。

しかし『ラブリー』を演らなかったのは意外だった。あと『愛し愛されて生きるのさ』とかも。

 

次回も是非行きたい。いつもいつも後ろの席ばっかり取ってるので笑、次はそろそろ前の方で観てみたいです。距離も近いし……お客さんのテンションもやっぱり、熱心なファンは前列に集まりますよね。三階から会場を見渡しながら、そんなことを思いました。

 

文句なしの内容でしたが、ただひとつ気に入らなかったこと。小沢健二の雨男ぶりは何とかならないのでしょうか。曇りだったはずの帰り道、いきなり信じられないような雷雨に襲われました。慌てて折りたたみ傘をさしましたが、ものすごい雨量で通用せず、結果びしょびしょで帰りつきました。どうか次回は勘弁してください。

 

最後に、終演後の夜バージョンで博多埠頭を一枚。綺麗ですよね。

*1:ワイヤーに小さい電球が付いていて、腕とかに巻き付けて光らせるやつ。