シネクドキ・ポスターの回路

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シンディ・ローパーの『Time After Time』が好きすぎた男の末路。

主だって、世界中のポップスは「メロディーと歌詞」の二つの要素で成り立っています。かといって、綺麗なメロディーに美しい歌詞が乗っかれば必ず名曲になる、というわけではありません。強い感情の響きを持ったメロディーに、これまたその感情をずばりと言い当てた歌詞が乗ることによって、はじめて歌の世界に「情感」が生まれ、それこそが楽曲を「名曲」たらしめるのだと思います。

今回ご紹介する『Time After Time』もまた、普遍的な感情を見事に体現した「名曲」です。今回はこの一曲にフォーカスを置いて、その魅力を深堀りしていきたいと思います。

 

 

 

はじめに 〜 『Time After Time』とは

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80年代屈指の歌姫、シンディ・ローパーの代表曲として知られる『Time After Time』は、シンディにとって初のビルボード首位に輝いた大ヒット曲であり、かつ80年代の音楽シーンを代表する屈指の名曲です。

フーターズのロブ・ハイマンとの共作で手がけられた、哀愁あふれるメロディと切実で真っ直ぐな歌詞。そこに、シンセサイザーとギターのハーモニーが温もりを感じさせるアレンジが見事に調和して、情感あふれる素晴らしい詩世界が描き出されています。

発表直後から現在に至るまで無数のカバーバージョンが制作されており、今もなお幅広い世代に親しまれている、ポップス史上に残る名曲です。

 

私は『Time After Time』をこう考える

本作の歌詞は、一見すると普遍的な愛情を歌ったシンプルなもののように思えますが、しっかり読んでみると表現がかなり抽象的で、解釈の分かれそうな内容となっています。そこで今回は、私なりの解釈を以下に記してみました。

とりあえず、曲のメインであるサビ部分の歌詞に注目してみましょう。

If you're lost, you can look - and you will find me

Time after time

If you fall, I will catch you - I'll be waiting

Time after time

ここだけを読むと、互いに想いを寄せ、慈しみ合っているカップルの普遍的な愛情を描いた歌詞として解釈できます。しかしサビ以外、すなわちAメロBメロ部分に目を向けてみると、各所に気になる表現が散見されます。

I'm walking too far ahead

You're calling to me, I can't hear what you've said

Then you say, "go slow"

明らかに、二人のすれ違いが描かれています。また、こんな一節もあります。

Flashback - warm nights

Almost left behind

suitcases of memories

まるで「関係が終わった」ことを示唆するような表現です。

これらの歌詞からは、心を通わせられなくなった二人の「失恋」の切なさが読み取れます。しかし一方で、先述のサビ部分では、真っ直ぐで一途な愛情が歌われているのです。この矛盾が、この曲の歌詞を「解釈が分かれる」内容たらしめていると言えるでしょう。

一般的な解釈では、この曲は「遠距離恋愛をしている男女」の心情を綴ったものであると考えられることが多いです。ですが個人的には、この歌詞の主人公である男女はすでに何らかの形で別離しているのではないか、と思います。そしてこの歌詞は、離れ離れになったにも関わらずまだ相手のことを忘れられない、想い続ける気持ちを歌ったものではないかと思うのです。

実際、本曲のプロモーションビデオで冒頭に流れるクラシック映画『砂漠の花園』は、父親の看病に明け暮れる貞淑な女性が、修道院から逃げ出した若者と出会い、恋に落ち、そして別れるまでの姿を描いた、悲恋のラブストーリーです。加えて、プロモーションビデオの内容もまた、シンディが恋人を残して家族の元へ帰る、という筋書きになっています。

そして何と言っても「別れ」を彷彿とさせるのが、タイトルにもなっているこの表現です。

If you fall, I will catch you - I'll be waiting

Time after time

いつでも、という意味の「Always」などではなく、何度でも、という意味の「Time after time」という表現を用いているあたりに、ひとつの「ある関係」の状態の中で、というよりも、ひとつの状態に限定されない「超越した」想い、という印象を受けます。

つまり、この歌に込められているのは……何度離れ離れになっても、あるいは何度死んだって、何度でも私はあなたを想うはず……という心情ではないかと、個人的には思います。そう考えると「I'll be with you」などではなく「I'll be waiting」という表現を用いていることも、なんとなく腑に落ちるはずです。

ちょっと重すぎる解釈かもしれませんが、しかし根本にあるのは「あなたのことを想っている」というシンプルな想いで、やはり人間の普遍的な感情を豊かに表現した歌詞であると言えるでしょう。私はそういう風に読んだ上で、その切実さというか切なさに、非常に心打たれ、共感したのでした。

とはいえ、あくまでも「一解釈」に過ぎないので、きっと聴く人の数だけ、この歌詞の解釈は存在しうると思います。その懐の深さもまた、この曲の名曲たる所以であると言えるでしょう。

 

 

いろいろな『Time After Time』を集めてみた

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なんといっても世界的大ヒット曲なので、無数のライブ/カバーバージョンが存在している本作。というわけでここからは、その中でも秀逸なバージョンをまとめてご紹介します。オリジナルとの相似または差異を通じて、楽曲をより深く理解し、楽しむことができると思います。

 

01. Time After Time (from Live...At Last)

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2004年3月、ニューヨークでのライブ演奏。ギター二本とバイオリンのみ、というシンプルな構成ですが、十分に感動的なアレンジに仕上げられています。シンディが弾いている楽器、最初「琴か?」と思ってしまいました。デビュー当時と比べると渋みのある声になりましたが、やはり歌唱力は抜群。オリジナルに対してしっとりと歌い上げるボーカルが見事なライブテイクです。

※プレイリストに含まれているものとは別の音源です。

 

02. Time After Time (Covered by Everything But The Girl)

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80年代ネオアコを代表するバンド、エブリシング・バット・ザ・ガールによるカバー。1992年に発表されたコンピレーション『Acoustic』に収録されたバージョンです。基本的にはオリジナルに忠実なアレンジですが、サウンドとしてはこちらの方が圧倒的に垢抜けていて、シンプルでオーソドックス、かつEBTGらしいセンスの良さを感じさせる、見事なアレンジであると言えるでしょう。

 

03. Time After Time (Covered by Alex Goot)

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カバーの制作を中心に活動しているアメリカのミュージシャン、アレックス・グートが2012年に発表したカバー。映像を観れば分かる通り、すべての楽器をアレックス本人が演奏しています。アレンジとしては、楽曲を現代にそのまま生まれ変わらせたような、まさに「ど直球」といった趣きのシンプルさで、そのストレートっぷりが素直に心地良いです。車のCMとかに使えそう。

 

04. Time After Time (Covered by Miles Davis)

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モダン・ジャズ界の巨匠として知られるマイルス・デイヴィス。彼が、ジャンルに縛られることなくポップス等のカバーにも多く取り組んでいたことは、よく知られています。1985年に発表されたアルバム『You’re Under Arrest』では、マイケル・ジャクソン『Human Nature』と並んで、この曲が取り上げられました。この二曲は、その後もライブの定番曲となり、頻繁に演奏されました。

 

05. Time After Time (Covered by Tuck & Patti)

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アメリカのジャズ・デュオ、タック&パティによるカバー。彼らのデビューアルバム『Tears of Joy』に収録されました。タック・アンドレスによる美しいギターの音色と、パティ・キャスカートの暖かい歌声が絶妙にマッチした、非常に美しいアレンジです。一方、映像でご紹介するのはライブ・バージョン。終盤、ゴスペルのようなオーディエンスの合唱はあまりに美しく、こちらも必聴です。

 

 

これからも『Time After Time』とともに

曲としての構造はシンプルながら、切実な感情を見事に表現した名曲『Time After Time』は、きっとこれからも世代を越えて、長く愛されていくでしょう。

個人的には、今この関係だけにとどまらず、過去や未来や生や死まで超越して、想いを誓う歌詞(※解釈は聴く人次第です)は、ある意味「究極のラブソング」と言えるのではないかと思います。きっと、ひょっとしたら『天城越え』みたいな歌になってた可能性だってありますよね(ないない)。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。